狂った世界へ 2
「……ここでこうしていても仕方ねぇ。さっさと入ろうぜ」
紫藤さんがそういって生徒会室の扉に手をかけようとした時だった。
それよりも先に、生徒会室の扉が開く。
「……ああ。お前ら。来たか」
と、出てきたのは先程の不気味な白衣の女の子……谷内だった。
「ヒヒ……逃げたかと思ったぞ?」
「へっ。誰が逃げるかよ。さぁ、さっさとイかれたお前らのボスに会わせろよ」
そういった瞬間だった。いきなり、紫藤さんの胸に何か光るものが突き立てられた。
「ぐふっ……な、なんだ?」
「し……紫藤さん!?」
いきなりのことに、俺も反応できなかった。見ると、紫藤さんの胸には長い刃が突き刺さっていた。
そして、ゆっくりと銀色の刃は紫藤さんの胸から抜かれた。
「紫藤さん!」
刃が抜かれた瞬間、よろめく紫藤さんを俺は抱きかかえる。
「あ……赤井……な、なんだ……今の……」
俺は紫藤さんの辛そうな顔を見てから、刃物が引っ込んでいったその先を見る。
長い黒髪を頭の後ろでまとめたポニーテール……そして、持っていた刃物と同じくらい鋭い瞳の少女がそこにいた。
そして、ところどころ赤黒く滲んだ白い制服、そして端が破れたスカートの腰元には、まるで時代劇の侍が付けるような鞘をぶら下げていた。
「閣下に対する侮辱は死を意味する……ゾンビで助かったな。下衆が」
そういって鋭い瞳を俺に向ける少女……向けられた瞳は死人のように濁っており、その肌も青白い……ひと目でゾンビ病感染者であることがわかった。
「やめなさい。川本。そうやっていきなり人を串刺しにするのは」
と、部屋の奥から声が聞こえてきた。俺は紫藤さんに肩を貸しながらゆっくりと立ち上がる。
1人の少女が机の向こうに座って、俺達のことを見ていた。
どこの軍隊のものかは知らないが、頭には軍帽のようなものを被っており、肩から黒いロングコートを羽織っていた。さながら、軍の上層部といった感じの少女である。
そんな異様な風体の少女は、ニヤニヤしながら俺と紫藤さんのことを見ていた。
「閣下……申し訳ございません」
川本と呼ばれた少女は、頭を下げると持っていた刀を鞘に収めた。
「ヒヒヒ……さぁ、お前らも中に入れ」
谷内にそう言われ、小室さんと古谷さんも部屋の中に入った。
「……さて、ようこそ、我が学園へ。私はこの学園の生徒会長、黒上マツリ。歓迎するわ、新入生の諸君」
気持ちの悪い笑みを浮かべながら、黒上は俺達にそう言ったのであった。




