リカちゃんの囁き 1
「……で、どうするんだよ、コイツ」
それから一時間くらい経った。
俺達はトイレから脱出し、二階の家具売り場に集まっていた。
目の前には、既に紫藤さんによって気絶させられた夕樹さんが、腕を縄で縛られて座っている。
「そうですねぇ……まぁ、このまま動けないようにして放置、が一番じゃないですか」
「え……で、でも……」
さすがにそれは可愛そうだと思って俺がそう言いかけると、紫藤さんがキッと俺のことを睨みつけてきた。
「……あのなぁ、赤井。もし、古谷の案で、俺がお前を見張って、この性悪女が本性出すとこ見張ってなかったら、お前今頃コイツに食われたんだぞ?」
そう言われると、俺は何も言えなくなってしまった。
確かに、紫藤さんがあの時バットで夕樹さんを気絶させてくれなければ、今頃俺は……そう考えると今更になって恐怖感が湧いてきた。
「しかし……体温をカモフラージュする能力……ですか」
古谷さんは深刻そうに呟いた。
俺と紫藤さんは古谷さんの方を見る。
「……確かに、私や紫藤さん、そして、小室さんの体温はまるで氷のように冷たいです。けど、確かに夕樹さんはさも人間のように体温を調節することができた……だから、赤井君は夕樹さんを人間だと思ったんですよね?」
「あ、ああ……でも、そんなことできるものなのかな……」
「……不可能ではないです。私達自身、特殊事例なのです。だとすれば、そういう特殊能力を持った人が出てきてもおかしくないですから」
そういって古谷さんは、夕樹さんが先ほど言ったことのようなことを言った。
「もんだいは、そんなのうりょく、でてきたこと」
と、小室さんがゆっくりとした調子でそう言った。
「……確かにな。つまり、だ。これから先この性悪女みたいな特殊な能力を持ったゾンビがいるかもしれない、ってことだぜ?」
「え……それじゃあ……」
「ああ。コイツみたいに間抜けな奴ならいいが……頭が働くヤツだと、少々厄介だぜ……」
紫藤さんは忌々しげにそう言う。
確かにそうだ……だとすれば、俺達のサバイバル生活はさらに厳しくなる。
もっとも、この中で一番足を引っ張っているのは、俺なのだろうけど……
「……イタタ。あー……なんなのよ……一体……」
と、ふと、俺達がそんなことを話し合っている間に、夕樹さんが目を覚ました。
「お、起きたか、性悪女」
紫藤さんが睨みつけるようにそう言った。
しばらく状況を把握していなかった夕樹さんは俺達を見回した後、酷く不機嫌そうに顔を歪ませた。
「……何よ、アンタ達、私を食おうっていうの?」
「そんなわけねぇだろ。お前、よくも赤井を騙してくれたな」
紫藤さんがガンを飛ばしながらそう言った。
しかし、なぜか夕樹さんは不敵に微笑んだ。
「あ? 何がおかしいんだよ!?」
紫藤さんがすごみを効かせてそう言うと、ニンマリと夕樹さんは微笑んだ。
「騙した? あはは……何言ってんのよ。アンタ達……アンタ達こそ、ドーテー君に、騙されてるじゃない」
夕樹さんは口の端を釣り上げてそう言ったのだった。




