追跡者 1
「……え、えっと……そうだ。小室さん……」
慌ててやってきてしまったので、小室さんを連れてくるのを忘れてしまった。見るとまだコンビニの前で立っている。
「た、助けて……赤井……」
先ほどまでの威勢の良さはどこへやら、弱々しく助けを求める紫藤さん。
「……めし……めし……」
と、巨体のゾンビはブツブツと呟いている。見ると、店内は食品類が食い散らかされている。
「……このゾンビの巣に入っちゃったってことか」
と、巨体のゾンビは、いきなり紫藤さんの足を掴んだ。
「や、やめろぉ! 離せ!」
そして、そのまま紫藤さんを、足ごと掴み上げる。
「て、てめぇ! 俺はゾンビだぞ! わかんねぇのか!」
必死でめくれそうに成るスカートを抑えながら、紫藤さんは叫んでいる。
「……めし……めし……」
しかし、巨体のゾンビは既によだれを垂らしている。どうやら、人間とゾンビの区別がつかないタイプのゾンビのようである。
「あ、赤井! 助けてぇ!」
「ま、待ってて! 紫藤さん!」
思わず俺はそのままバットを巨大ゾンビに向かって振り下ろした。
ガシッ、と、何か違和感を感じた。
「……へ?」
見ると、巨体のゾンビはバットを片手で受け止めていた。瞬間、俺はこのゾンビには歯がたたないことを理解した。
「あ……え、えっと……」
「あ、赤井! 助けてくれ!」
と、紫藤さんの叫び声が聞こえてくる。見ると、既に巨体ゾンビは大きな口を開けて、紫藤さんの白い太ももにかじりつこうとしていた。
「……ほら見ろ。コイツらは化け物なんだ。共食いをするなんて化け物以外の何物でもないじゃないか」
「……え?」
と、隣から誰かの声が聞こえて来た。見ると、隣には誰かが立っている。
血まみれの白いシャツ、そして、裾の破れたスカート……
帽子を被っていなければ、その人が婦警さんだということはわからなかったであろう。
「……大人しくしろ、化け物」
そういってその人は、右手で構えた拳銃の引き金をひいた。
ガァン、と耳をつんざくような音がした。次の瞬間、巨体のゾンビはその場に倒れ、紫藤さんも開放された。
「あ、ああ……」
「紫藤さん!」
俺は怯えた様子の紫藤さんに駆け寄る。
「大丈夫? 紫藤さん?」
「あ、ああ……でも、アイツ……」
と、紫藤さんが拳銃の音がした方に顔を向ける。俺もゆっくりと顔を向ける。
「赤井君……無事だったか?」
右目には白い眼帯をし、同じく、拳銃を握った手には包帯をグルグル巻きにした奇妙な出で立ちの婦警さん……
「宮本さん……」
まぎれもなく、宮本サエコ、その人だった。




