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僕とゾンビじゃない彼女  作者: 松戸京
チャプター21
113/204

古谷さんは怒り気味 2

「古谷さん。入っていい?」


 寝室の前までやってきて俺は部屋の中に向かって呼びかけてみた。しかし、返事はない。


「……古谷さん?」


 もう一度声をかけてみた。


「……はい?」


 ドアの向こうから、微かに声が聞こえて来た。


「あ……その……入ってもいいかな?」


 俺の問いかけに対して古谷さんはすぐには答えてくれなかった。しばらくしてから、小さな声で「どうぞ」と聞こえて来た。


「……古谷さん?」


 寝室の中は真っ暗だった。


「えっと……スイッチは……」


 その瞬間、いきなりガシっと肩を掴まれる。


「え……ふ、古谷さん?」


「……電気、付けないでください」


 暗闇の中で古谷さんにそう言われてしまい、俺は仕方なくそのまま動かないでいた。


「……えっと、古谷さん。その……相談があって来たんだけど」


「……食料、無いんですよね?」


「あ……うん。それで……」


 古谷さんの肩を掴む力が強くなる。その指先が俺の肩に食い込むのが分かった。


「ふ、古谷さん……痛いよ……」


「……どうして……帰ってきたんですか……」


「え……それは……」


「……もう私はすっかり諦めていました……だから、小室さんがカップ麺を1つ持って帰るって言った時も反対したのに……それなのに……赤井君は帰ってきた……」


 肩に食い込んでいた指先の力が緩む。暗闇の中であっても、古谷さんが悲しい表情をしているのがわかった。


「だから……私、自分が許せないんです……」


「え……?」


 意外な言葉に、俺も驚いてしまった。


「……赤井君は、私達二人のためにデパートまで戻ってこようとしていた……それなのに、私は勝手にデパートから家に帰ってきて……しかも、私は赤井君が絶対戻ってこないって思っていた……」


 古谷さんの声が少し掠れているのがわかる。聞いている俺自身でさえなんだか申し訳なくなってきてしまった。


「家に戻ろうと言ったのも、赤井君は帰ってこないって言ったのも私なんです……だから、赤井君……私は……」


「……怒ってないよ。全然」


「……え?」


 古谷さんの意外そうな声が聞こえた。


「だって、あの状況で帰ってこないって思うのは不思議じゃない……俺だって逆の立場だったらどうしていたかわからない……だから、俺は怒ったりしないよ」


「赤井君……」


「それに、もう一度小室さんと古谷さんに会えた……それで俺には十分だよ」


 そう言うと俺の身体をギュッと抱きしめる感覚があった。


 冷たい身体……それが古谷さんのものであることはわかった。


「え……ふ、古谷さん?」


「……冷たくて……嫌ですか?」


「あ、いや……そういうことじゃなくて……」


 何時もと違って弱気な感じの古谷さんにそれ以上強く言うことも出来ず、俺と古谷さんはしばらくそのままの状態でいた。

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