裏切りの代償 3
「……え? ゾンビに……なる?」
俺は、あまりにも突然、古谷さんの口から出てきた話の内容をまったく理解できていなかった。
「ええ。そうです。ゾンビ」
「あう! うあー! あう!」
と、そこでいきなり紫藤さんが立ち上がり、何かしらを小室さんと古谷さんに向けて言い放った。
「……なんですか。アナタは」
「あう! うあ……あう!」
古谷さんは紫藤さんの言っていることが全然理解できていないようだった。
「そのひと、おこってる」
と、その隣の小室さんは、やはり紫藤さんの言葉がわかったようだった。
「怒っている? どうしてですか?」
「あかいくん、ぞんびにするの、だめ……っていってる」
小室さんがそう言うと、古谷さんは呆れ気味な様子で紫藤さんを見る。
それから、もう一度俺の方に視線を向けた。
「私は、赤井君にはゾンビになってもらうしかない、と思っています」
「あう……うあー。あう」
紫藤さんがまた何か言ったので俺と古谷さんは小室さんの方を見る。
「……しどうさん、あかいくんは、じぶんのこと、たすけた、いってる。だから、うらぎりなんて、ない、って」
俺は思わず紫藤さんを見る。すると、紫藤さんはすぐに顔を逸らしてしまった。
「……フンッ。それとこれとは別問題です。とにかく、赤井君にはゾンビになってもらいますから」
「ちょ……ちょっとまってよ。古谷さん、それ本気なの?」
俺がそういうと、古谷さんは不満そうな顔で俺のことを見る。
「本気? 冗談でこんなことを言うと思っているんですか? それとも……赤井君は、やっぱり私達みたいな化け物にはなりたくない、ってことですか?」
「なっ……古谷さん……」
化け物。その言葉を口にした古谷さんの顔は、ものすごく悲しそうだった。
「で、どうするんです? なるんですか? ならないんですか?」
「あう! うあー! あう!」
紫藤さんがまたしても何か怒ったように叫んでいた。古谷さんもイラついた感じで小室さんを見る。
「……ふるやさん、まちがってる、いってる。どうして、そんなこと、する、って」
「……簡単ですよ。ゾンビになれば、もう私達から逃げることもできないですから。私達のことをゾンビだと思って差別することもないでしょう」
古谷さんの言っていることは理解できた。
そして、俺は1つのことを思った。
確かにゾンビになれば、人間として食事をする必要もない。
もちろん、俺は三人のことを人間だと思っているが、もし、古谷さんが満足してくれるなら、正真正銘、俺は古谷さんと小室さん、紫藤さんとも同等の立場の存在になる。
しかし、問題は……
「……三人と同じ様になれるか、ってことだな」
もし、俺が普通のゾンビになってしまったら……理性のないゾンビになってしまった場合である。
そう考えると俺は急に怖くなったのだ。
どうして怖いって……もう、小室さんや古谷さん、紫藤さんを人間として認識できなくなってしまうかもしれないと思ったからである。




