67話 明日は何が食えるのだろうか
「お? 思ったより明るいぜ」
「ああ。ここが報告にあった安全地帯だな、小休止を兼ねて身支度を整えるぞ」
魔法弓手が指示を出し、一行は荷をおろして思い思いにくつろぎ始めた。
ここにいるのは3階層調査の第二陣。
斧戦士、魔法弓手と志願した3人組パーティーだ。
3人組の冒険者たちはそれなりにキャリアのある壁役、魔法使い、僧侶。
2階層のモンスター部屋を何度も攻略したパーティーであり、戦力としては問題ないだろう。
年はバラバラだが、面白いことに全員がハゲあがったむさくるしい男性である。
「で、どうするよ。話によれば四方に道らしきモノはあるそうじゃねえか。どんどん先を進むのか?」
「いや、先発の女ドワーフさんらとは逆に進んでみよう。調査が目的だし、最低でも未踏地を減らしていけばいいと思う」
斧戦士は先を進みたくてウズウズしているようだが、今回の調査依頼に限っては魔法弓手の意見が優先である。
調査依頼は攻略よりも情報を持ち帰ることが優先されるからだ。
積極果敢な斧戦士がイニシアチブを取って裏目に出るのは避けねばならない。
(……しかし、女ドワーフさんはさすがだ。おかげでかなりラクができる)
今回、事前情報により全員が腰から吊るせるランタンと、濡れる前提の足ごしらえを準備している。
ランタンは高価だが、命と比べれば安いものだ。
ダンジョンでは、こうした小さな工夫の積み重ねが大切なのである。
「それにしてもチンドン屋じゃねえか。ハゲが並んで提灯ぶら下げてよ」
斧戦士は冒険者たちをからかうが「ちげえねえ」「まったくだ」と笑いが起きている。
魔法弓手から見るとヒヤヒヤするのだが、笑いは体をほぐし恐れを和らげるだろう。
この相棒の陽性には何度も助けられてきたのだ。
「よし、それじゃ先に進もうじゃねえか」
「ああ、こうしていても仕方ないしな」
揃って休憩所から足を踏み出すと、前情報の通りだ。
暗く、暑く、水が流れている。
見通しは極めて悪く、道のようになった場所以外の移動は危険だろう。
「危険な環境だ。乱戦でも互いの位置を確認し、単独行動は控えろよ」
魔法弓手の忠告に「わかってるさ」と斧戦士が応じた。
軽いやりとりだが、長いつきあいなのだ。これで十分である。
3人組の冒険者パーティーを中心にし、斧戦士と魔法弓手は左右を固める隊列だ。
水中に何があるかまったく予想できず、呆れるほどゆっくりとした行進速度になるのも無理はない。
「モンスターか!? カモノハシだ!」
後方を警戒していた冒険者が声を張り上げた。
ジャイアントカモノハシ、1階層のボスモンスターだ。
「カモノハシは3人で対処してくれ、俺たちは周囲の警戒をする!」
女ドワーフの報告では、戦闘中に敵が増えたと言っていた。
この1枚マップは小部屋に別れていないのだ。
余力があるなら警戒をした方が無難だろう。
「前からもお出ましだ! 噂のカニだぜ!」
「群れで来るぞ、囲まれるなよ!」
いち早くカニのモンスターを見つけた斧戦士が前に出る。
すると水中から、木陰から、巨大なハサミを持つカニが続々と現れた。
7〜8体といったところか。
「数を減らす! そっちは食い止めてくれ! 魔力の矢!」
魔法弓手が次々に魔法を放ち、カニを貫く。
だが、巨大なカニは甲羅が割れ、足がもげても平気で動いている。
矢のような点で貫くダメージは有効ではないらしい。
「チッ、ダメだ! コレならやらないほうがマシだ!」
「あいよ、任せとけ!」
斧戦士は雄叫びを上げ、斧を振りかぶる。
単純な破壊力のある攻撃はカニを叩き潰し、あるいは吹き飛ばしていく。
まるで台風のようだ。
(……ならば、俺は時間稼ぎか)
3人組もすぐに合流するだろう。
それまで相棒の斧戦士が囲まれないよう敵を引きつけるのだ。
魔法弓手は片手剣を抜き、適当にカニを突いて注意を引く。
目や関節を狙えばダメージは与えられるだろうが、無理をする必要はない。
「ほれっ、コイツをやるよ!」
「ほいきた、おらよっと!」
魔法弓手がカニを引きつけ、斧戦士が横あいから攻撃する。
斧の重い一撃はカニのハサミと足を叩き切り、一息に戦闘能力を奪った。
「すまねえ、遅くなった!」
「強化いくぞ!」
ここで3人組が追いつき、盾持ちが前に出た。
続いて僧侶が身体強化を斧戦士にかける――どうやら僧侶は強化魔法使いも兼ねているらしい。
数が整えばカニも怖くはない。
後方から石弾と呼ばれる魔法が援護射撃として加わり、あっと言う間に敵を殲滅した。
(ふうん、やるじゃないか。女ドワーフさんトコとどっこいか……やや下ってとこか)
魔法弓手は3人組の戦力を評価し『これならいける』とほくそ笑んだ。
「あのカニは数が厄介だが、攻撃は単調だぜ。ハサミに気をつけるだけだ」
「それも報告しておくか……カニはハサミだな。カモノハシは毒爪を採取してくれ」
討伐の証拠に素材も抜け目なく採取する。
これだけでも価値のある報告にはなるだろう。
「よし、ケガ人はいないな。先に進もうか」
「へへっ、そうこなくちゃな」
魔法弓手が前進を提案すると斧戦士が露骨に喜んだ。
この相棒は危機に身を置くことを楽しむ冒険者らしさがある。
「隊列は同じだ。疲れや魔力の枯渇は早めに申告してくれ」
「ああ、こっちはまだまだ行けるぞ」
戦闘を乗り越えたことで3人組との距離も縮まった気がする。
魔法弓手は「続けよう」と宣言し、先を見据えた。
◆
(……む、やるじゃないか)
深夜、1人モニターの監視をしていたレオは冒険者たちの動きに感心していた。
第二陣の冒険者たちは事前に準備をしっかりとしてきたらしく、危なげなく西の遺跡にたどり着いたようだ。
ボスのヘッドレスクリーチャーも強化をかけた前衛2人が前で支え、後列が魔法を連発するゴリ押しで攻略してしまった。
単純に戦闘力が高いパーティである。
(うーむ、もう少しだけ難度を上げても……いや、これ以上は止めておくが無難か)
調査チームに選ばれたのだから、彼らの戦闘力は高いのだろう。
レベルの高い利用者に合わせるより、平均値が満足できる難度が良い。
3階層の各遺跡には宝箱が各2つずつ設置されている。
中には魔石と現金が入っていたようで、冒険者たちは魔石を見て首をかしげてした。
あまり理解していないようだが、持ち帰り鑑定すれば理解するだろう。
(彼らが戻ればリポップを再開してもいいかもしれんな……この冒険者らの動画も録画してやろう)
この程度の判断であればホモグラフト所長を起こすまでもない。
作業を終えたレオはモニターの前でくるりと丸くなり、目をつぶる。
寝ているのではない。
ガティートの習性で、こうして半覚醒状態を維持できるのだ。
(ああ、それにしても……この職場はラクでいい)
モニター監視のみの職場、ソファーは羽毛のように心地よく、食事もうまい。
しかもスタッフは下女のようにレオに尽くしてくれるのだ。
こんな待遇のいい職場は他にはないだろう。
(明日は何が食えるのだろうか……あのアンという娘、ガティートであればよかったのに……惜しいことだ)
レオの口から「くあ」と大きなアクビが漏れた。
■宝箱の中身■
財宝、DP20
鍛鉄の鎧、DP12
現金60万魔貨DP12
回復ポーション(中)✕4、DP12
魔力強化の杖(小)、DP12
鋼鉄の戦鎚、DP11
鋼鉄の斧、DP10
魔道具:水の出る水筒(小)、DP8
魔道具:照明(小)、DP8
耐電(小)ブーツ、DP8
プレミアムドワーフの火酒、DP4
極小魔石✕6、DP1
極小魔石✕3、DP1




