67.ぼっちな二人
「行方不明のペットの捜索、ねぇ……」
《第三騎士団》の支部の受付の青年は、サーシャの言葉を聞いてもこんな反応だった。
何となく想像はしていたが、少なくとも第三騎士団の仕事ではないのだろう。
サーシャは加えて質問をする。
「こういう仕事って、やっぱり第一の方ですか?」
「第一というか、まあそういう仕事全般は第一になるのかもしれないけれど、少なくとも騎士の仕事じゃないかなぁ」
「! 騎士の仕事じゃない?」
「あ、いえ……騎士の仕事ではないかと思います」
「話し方の問題ではないですよっ」
サーシャは少し怒ったように言う。
立場上、《団長補佐官》という役目であるサーシャは、ある程度の役職の騎士ならば上に値することになる。
青年もサーシャの姿を見て思わず普通に話してしまっていたが、慌てて訂正をした。
だが、サーシャの追及したいところはそこではない。
「ペットの捜索だって立派な仕事の一つですよ!」
「そ、それはそうかもしれませんが……行方不明になったペットを捜索するための人員はいないんですよ。一応、各所に連携して騎士達に伝えることはできますが、それまでです」
……青年の言うことは正しい。
ペット一匹が行方不明になったから捜索する――もちろん、騎士団に依頼をすれば受け付けてくれるだろう。ただ、それを一つの任務として割り振ることはしないだろう。
手の空いている暇な騎士でもいるのであれば話は別だが、サーシャも仕事の日はペットの捜索などしている暇はない。
そういう意味では、彼の言葉も十分に理解できた。
「……じゃあ、一応は各所に連絡の方をお願いします」
「承知しました」
サーシャは依頼だけして、支部方を後にする。
……一応、第一騎士団への連絡の手間は省かれたが、これでは特に進展がないのも一緒だった。
(こうなると、私一人でも捜索するしかないかなぁ)
サーシャは一人考え込む。
何一つ手がかりもない状態では、サーシャでも中々探し出すことは難しい。
一応、本気でやれば何かしらの手がかりは掴めるかもしれないが。
(明日は明日で仕事があるし、あまり大きな負担がかかることは……でも……)
ユーカに約束をした。必ず猫を見つける、と。
サーシャの有する魔法の知識があれば、王都内で行方不明の猫を探すくらいは可能だろう。
ただし、かなりの負担になる。
それこそ、砂漠の中に落とした一粒の砂を探すような、そんな精神力と膨大な魔力を使うことになる。
ここ最近、夜になれば魔法の修行を続けていたサーシャは、多少の魔法なら疲れずに使うこともできるようにはなっていた。
それでも色々と、天秤にかけるものはある。
(……うん、迷う必要なんてないかな)
サーシャの心は、初めから決まっていた。……翌朝の仕事の負担くらい、どうということはない。
どこか広い場所を探して探索するための《魔法》を使う――サーシャは早速行動に移そうとした。
「……あれ?」
「!」
そんなサーシャのことを、少し離れたところから見ている女性がいる。
(あの人は……)
先ほど雑貨店で見かけた女性が、そこにはいた。
ちらりとサーシャの様子を窺うようにしながら見ている――サーシャと目が合うと、サッとその姿を隠す。
「……あの」
「ひゃいっ!?」
女性の下に近づいてサーシャが声をかけると、びくりと身体を震わせながらこちらを見る。
女性は帽子を目深に被って、さらにマフラーまで首に巻いて顔を隠している。
……そこまで姿を隠すのは、どこか怪しい雰囲気すら感じられた。
「えっと、ここで何を?」
「わ、私は別に怪しい者じゃなくて、えと……だ、第三騎士団の人間なんです!」
「! 第三騎士団の……」
女性の宣言で、サーシャも理解する。
どこかで会った気がする――それが、騎士団の人であったのならあり得ない話ではない。
何せ、何度か騎士団本部には行っているのだから。
そのタイミングでどこかですれ違ったのかもしれない。
それにしては、随分とサーシャに対して臆病な姿を見せているように見えるが。
「あ、えっと……私はサーシャ・クルトンって言います。第二騎士団の――」
「し、知っていますよ。騎士団に所属していれば、あなたのことくらい大体分かりますって……。あ、私はフィ――フィル・オットーと言います。」
女性――フィルは怯えた様子でそんな風に言う。
……騎士団でどんな噂が広まっているのだろうか。
「そ、それで、クルトン団長補佐官はここで何を……?」
「お仕事の依頼、をしに来たんですけど……」
「断られたんですか……?」
「そういうわけではないんですけど、えっと……ペットの捜索の依頼、でして」
「ペ、ペット? ペットなら頭の上に……」
「あ、わたしのペットじゃなくてですね……」
頭の上に乗せたクリンを指摘されて、サーシャは改めて状況を説明する。
ミナという少女が猫のペットを探しているということ。
そして、ペットの捜索自体は受け付けてもらったが、その捜索自体は任務としては認められないということ。
「……なので、これからできる限り探してみようかとは思って」
「お、お仕事お休みなのに、ですか……?」
「別にやることもないですし」
はっきりと言い切ってから、少しだけ落ち込んだ気分になる。
休みの日にやることがなくて仕事をする――それを自分で言い切ったのだから。
これもミナとの約束のため、とサーシャは割り切ることにしたが。
「……」
「あ、すみません。時間を取らせて。それじゃあ、私はこれで――」
「あ、あの……! わ、私にも手伝わせて、ください」
「! え、でも……いいんですか?」
出会ったばかりで、それも怯えている様子のフィルを連れていくのはどこか気が引けた。
だが、フィルが頷くと、
「こ、こうしてお話できたのも何かの縁、ですし……。わ、私、友達とかいないので、どうせ暇、ですし……」
「! 私も友達いないんですよ!」
妙な親近感を持って、サーシャはそんな宣言をしてしまう。
だが、お互いに『ぼっち』という事実が仲間意識を生んでしまったことも事実だ。
――サーシャとフィルの、ぼっちな二人が手を組んで『ペット捜索』任務が開始されることとなるのだった。
少し長めの短編投稿してみました。
少女が少女を守る系のファンタジーです!
よければどうぞ。
斧使いの少女がダンジョン内の『黒い箱』に入っていた少女を守るお話
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