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56.魔物の巣

 昨日進んだ場所の付近まで、サーシャとアウロはやってきていた。

 アウロとエルがサーシャの背後で待機する。

 今回は、他の騎士達も近くで待機していた。


「サーシャ、こっちの準備はできてるぜ」

「分かりました」


 アウロの言葉にサーシャは頷く。

 数人を引き連れて、レイスがさらに森の奥地を調査している。

 二手に分かれた部隊のうち、こちらは地下に巣が作り出されている可能性を調査するチームだ。

 もっとも、サーシャの調査にはそれほど時間はかからない。

 当たりさえ引けば、だ。


「すぅ……」


 小さく息を吸う。

 足元に浮かび上がったのは《魔法印》。

 魔力を集中させて、サーシャは魔法を発動させる。

 いつもよりも発動までに時間がかかる――大がかりな魔法だ。

 今のサーシャならば一日に数発と打てるレベルではないが、広範囲に効果を及ぼす。


「――《アース・クエイク》っ!」


 言葉と同時に、地面を叩く。

 魔法印から魔力が流れ出すように、周囲の地面へと広がっていく。

 一瞬の静寂の後、大地が鳴動した。


「こ、これって……地属性の最上級魔法……!」


 エルが驚きの声を上げる。

 アース・クエイク――おそらく、王国内でも使える人間は限られているだろう。

《自然現象》に該当するものを引き起こす魔法。

 そのレベルを操ることができる魔導師であれば、魔導師としては格が違う。

 それこそ、王国一つに所属する魔法士官でも数えるほどしかいないだろう。

 わずか十五歳の少女がそんな魔法を扱えるという事実を、この場で指し示したのだ。


(地面の中に巣があるなら、この魔法で影響は出るはず……!)


 これでもかなり出力を抑えている方だった。

 地震を人為的に発生させているようなものだ――威力を高めれば、大地を割って歪な形の岩が次々と出現する。

 攻撃魔法として扱うのならかなり広範囲になり、それこそ一騎当千も可能とする。

 フォルという男は、このレベルの魔法を難なく発動させていた。

 サーシャの前世だというのに、サーシャは改めてレベルの差を感じてしまう。

 知識と技術があっても、フォルの魔法のレベルには追い付けないという気がしていた。

 もしも、フォルであったのなら――アウロに余計な心配をかけるようなことはなかっただろう。


(……ううん、今はそんなことより)


 サーシャは集中する。

 持続させている間は常に魔力を消費する。

 サーシャを中心として、魔法の効果は広がっているのだ。

《黒鎧蟻》の巣が、他の魔物の力によって地下にできているのなら、どこかでヒットするはず。


(もう少し威力を上げる……? でも、魔力の方が持つかどうか――)

「サーシャッ!」

「……え?」


 サーシャの名を叫んだのは、アウロだった。

 声に反応して振り返ろうとするが、その前に足元が崩れてバランスを保てなくなる。


「っ、まさかの、足元……!?」


 サーシャの魔法を直に受けて、空洞になっていた地下が崩れたのだ。

 崩壊していく足元の隙間から覗かせるのは、黒鎧蟻の軍勢。

 アウロの予想通り、地下に巣はあったのだ。

 それはすなわち、そこを掘り進んだ魔物もいるということ。


(その前に、まずは離れないと――)

「一旦下がるぜ!」

「! ア、アウロさん!?」

「不可抗力だ。怒るなよ」


 アウロがそう言いながら、サーシャの身体を小脇に抱える。

 文字通り、小脇にだ。

 ひょいっとサーシャを持ち上げたアウロが、そのまま崩れようとする地面を蹴る。

 一斉に、黒鎧蟻の群れが動き出した。


「はっ、いきなり当たりを引くとはな。ツイてるぜ、サーシャ」

「運がいいって言えるんですかね!? あと、人を荷物みたいに持たないでくださいっ!」

「不可抗力つったろ。――全員ッ、聞こえてんなッ!」


 咆哮のような、アウロの声が響き渡る。

 すぐそばにいるサーシャは耳をふさぐほどだ。

 少し後ろで待機しているエルも耳をふさいでいる。


「――構えろッ、戦いだッ!」


 その言葉と同時に、騎士達が行動を始めた。

 後方で待機していたエルも、すぐに魔法を展開する。

 黒鎧蟻が一斉に穴の開いた地面から飛び出してくる。

 アウロがサーシャを抱えたまま、木の上へと跳躍した。


「わ、私達も降りて戦わないと……!」

「いや、その必要はねえ」

「な、でも……!」

「何のための騎士だと思ってる。魔物との戦いには慣れてる奴らだ」


 そう言ってアウロが指し示したのは、崩れた地面の先の方。

 黒鎧蟻のあふれ出してくるさらに奥地だ。


「こいつらを見つけ出したのはお手柄だ。だが、まだ仕事は残ってるぜ」

「だから、魔物の始末を――」

「ああ、俺らの仕事はこの巣を作ったやつの方だ」

「巣を作ったって……あ」


 アウロの言葉を、サーシャも思い出す。

 この魔物達を利用するために巣を作ったものがいる――アウロの仮定では、《地顎竜》と呼ばれる大型の魔物だったが。


「姿は確認できるか?」

「……いえ、少なくとも私の見える範囲には」

「そうか。エル! お前もついて来い! 中から行くぜ!」

「わ、分かりました」


 アウロの言葉に、エルが頷く。

 エルもやってくる黒鎧蟻の群れの対応をしていたが、地面を蹴ってアウロの傍まで移動してくる。


「へ、中からって……あの中に行くんですか!?」

「追いかけるならそれが手っ取り早い。俺から離れんなよ」

「この状態だと離れられないんですって!」

「エル、お前は暴れんなよ」

「は、はい……」

「私も別に暴れてないですけど!?」

「いいから黙ってろ。舌噛むぜ」


 両手に花――そう表現にするにはほど遠く、アウロが両脇に少女二人を抱えて飛び込む。

 サーシャ達は、地下に広がる魔物の巣へと突入した。

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