51.作戦会議
サーシャ達は一度森の入り口付近にまで戻っていた。
《魔力追跡》では、数が多く魔力量の少ない《黒鎧蟻》を追うことはできない。
結局、この日は人海戦術でも巣を見つけることはできなかった。
念のため、入り口付近で野営をすることになったのだ。
(これが第二騎士団の仕事……)
ようやく、サーシャもそれらしい仕事に関わった気持ちになる。
突発的な仕事も多く、こうして野営をする機会は実際増えるのだろう。
第二騎士団のメンバーがテキパキとテントの準備をする中、サーシャも手伝おうとしたが、
「お前はこっちだ」
「わ、ちょっ……引っ張らないでくださいって!」
そんなサーシャの手を掴んで、すでに完成したテントの方へと引き連れる。
そこには、レイスとエルが待機していた。
「さて、今後の方針ですが……引き続き人海戦術で巣を探すという方針でよろしいですか?」
「……そうだな。地道に探す他ないだろう。エルとサーシャの魔法でも見つけられない以上はな。だが、人数はある程度固まった方がいい」
レイスの提案に対し、アウロがそんなことを口にする。
それを聞いて、訝しげな表情でレイスがアウロを見る。
「……何故です?」
「分からないか? これだけの数がいてなお見当たらない――巣がそれだけ大規模であるのに、だ。それなら、巣の場所は地下に広がっている可能性がある」
「……地下? 《黒鎧蟻》の作る巣は蟻塚で、それも山のような形になるのが常のはずですが」
レイスがそう答えると、ふとサーシャは以前アルシエを手伝って魔物に関する書類を整理していたときのことを思い出す。
「《地鰐竜》……?」
「ほう、よく覚えてたな。その通りだ」
サーシャの言葉を聞いて、アウロが褒めるながらサーシャの頭を撫でようとする。
反射的に、サーシャはそれを振りほどいた。
「そ、そういう褒め方はやめてください」
「悪いな、丁度いい高さなもんでよ」
「地鰐竜……竜族に属する大型の魔物で、他の魔物を体表や体内に住まわせてテリトリーを広げる魔物――まさか、そんな大型なやつが森にいる、と?」
「あくまで可能性の話だが、地鰐竜が掘った穴に黒鎧蟻を住ませているとしたら、話は別だ」
騎士団長であるアウロはそこまでの可能性を想定しなければならないのだろう。
地鰐竜――巨大な顎を持ち、体長は二十メートルにもなる大型の魔物だ。
地面を掘り進むだけで地震が起こるとも言われており、確かにアウロの言うとおりなら地下に大規模な巣ができていてもおかしくはない。
特に、他の魔物を利用するという意味では地顎竜クラスでなければそれだけ大型の巣は作れないということだろう。
(でも、それだと追いかける方法なんて……)
仮に地下に大規模な巣が広がっていたとしても、それこそ手の出しようがない。
基本的に、空を飛ぶモノや地面の中を生きる魔物と戦う場合には準備が必要だ。
第二騎士団が魔物戦に特化しているとはいえ、突発的にそこまでの準備ができるとは思えない。
(それに、あくまで可能性の……)
そう思ったところで、サーシャはまた一つの考えを巡らせる。
アウロは《一角狼》の時も、すぐに子供の存在には気付いていた。
長年の経験からなる感性があるのだろう――記憶はあっても、それはサーシャにはないものだった。
(……それなら、私にできることを……)
先ほど、エルに気を使ってサーシャは自身の実力を偽った。
第二騎士団のメンバーとして仲良くしていきたいから――そう思ったからだ。
けれど、それはサーシャのためにしかならない。
このまま、魔物を放置すれば危険が広がる可能性もある。
「では、地下に広がる巣をどうやって見つけると?」
「それは――」
「私がやります」
「っ!」
アウロの言葉を遮ってレイスに答えたのは、サーシャだった。
ぎゅっと拳を握りしめて、決意を固めた表情で言い切る。
それを聞いて、レイスだけでなく後ろで待機していたエルも驚いた表情を浮かべる。
「……ほう、あなたにはそれができると?」
「はい。地下に広がっているというなら……ちょっと荒いやり方になりますけど」
サーシャがそう答えると、アウロはにやりと笑って言葉を続けた。
「上等だ。俺はお前にそういうところも期待してたんだからな」
「な……どういう意味ですか!」
サーシャはアウロの言葉に抗議の声を上げる。
「冗談だ」と言って、アウロはまた話を戻した。
「どのみち、俺の考えは同じだった。地面の中にある可能性があるなら掘り進む――そういうことだ」
「……随分と気軽に言いますね。あくまで可能性の話でしょう。僕は引き続き森の奥を調査しますが」
「ああ、お前とエルはそうしてくれ」
「……分かりました。ではその方向で。エル、行きますよ」
明日の行動指針が決まり、その場で解散となるはずだったが、レイスに言われてもエルはその場から動こうとしない。
真剣な面持ちのまま、エルはサーシャを見ていた。
その表情に、サーシャは思わず視線を逸らしそうになるが――
(何で敵視されてるのか分からないけど……私も補佐官なんだからしっかりしないと)
そう思い、しっかりとエルの方を見る。
エルもまた、何か決意した表情をしていた。
「……エル?」
「わたしは、明日はヘリオン騎士団長とクルトン補佐官と行動したい、です」
そんな風に、切り出したのだった。
せっかくなのでツギクルさんにも登録してみました。




