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17.きっと聞いていないけれど

 そわそわと、サーシャが落ち着かない様子で椅子に腰かける。

 左右にはそれぞれアルシエとアウロがサーシャの新しい部屋について話していた。


「――それで、へリオン騎士団長にも意見を伺いたいわけですよ」

「まあ、確かに第二騎士団は色々なところに向かうからな。一概にどこがいいと言うのは決めにくいな」

「そうですよねぇ……そうなると、結局どこも変わらない気もしますねぇ」

「まあ、しいて言うなら馬車の呼びやすい場所にしとけ。移動が楽になる」

「利便性は確かに重要かも……サーシャちゃんはどう思う?」

「……」

「サーシャちゃん?」

「へ……あ、はい! いいと思います!」


 サーシャはあまり話を聞いていなかった。

 サーシャの落ち着かない理由は先ほどアウロがやってきてからということもあるが、サーシャのすぐ近くに置かれている《サボーテール》のぬいぐるみにもあった。


 ちらりと、サボーテールのぬいぐるみを見ては視線を逸らすサーシャ。

 だが、すぐに首を横に振る。

 部屋の話に集中しよう、とサーシャが決意したとき、サーシャの顔に柔らかい感触が押し当てられる。

 アウロがサボーテールのぬいぐるみをサーシャに向かって突き出していた。


「へぅ……何するんですか!」

「触りたいなら触っとけ」

「べ、別に触りたいとか、言ってないですけど……!」

「じゃあ、テーブルの上にこれがあると気が散るからお前が持ってろ」

「っ! ま、まあ持っていろっていうなら、仕方ないですね。私が持っておきます」


 サーシャはサボーテールのぬいぐるみを抱き締める。

 持っているというよりは、完全に愛でる態勢に入っていた。


(物凄く嬉しそうね……)


 露骨に喜んだ表情になるサーシャを見て、アルシエが心の中で呟く。

 魔法に関しては天才的――そう言われていても、サーシャは普通の少女だった。


(けど、ぬいぐるみ好きを隠したいならもう少し表情には出さない方がいいわね……)


 アルシエに言うことも躊躇うくらいなのだから、アウロに対しては特に隠したいことなのだろう。

 ただ、緩みきった表情を見れば誰だってサーシャが喜んでいるのは分かる。

 それを分かっているのかいないのか、アウロがサーシャに対してぬいぐるみを渡したのは、アルシエからすると意外なことだった。


(まあ、やっぱりこの二人の相性がいいってことかしらね)

「どこの部屋でもいいんだろ?」

「サーシャちゃんは間取りを多少気にしてますけど」

「そんなに置くもんがあるのかよ」

「サーシャちゃんも女の子ですからねぇ」

「言いたいことは分かるが」


 アウロがサーシャの方を見る。

 一方のサーシャはサボーテールのぬいぐるみに夢中だった。


「サボーテール……かわいい」

(ぬいぐるみに夢中なサーシャちゃんもかわいいわ……!)


 アルシエが心の中で呟く。

 アウロはというと、サーシャの様子を見て呆れたようにため息をついていた。

 サーシャがいるときは、アウロの威圧感も和らいでいるように感じる。

 アルシエも緊張することなく話すことができた。

 サーシャが常に近くにいれば――サーシャの言う『怖くないアウロ』が現実に誕生するかもしれない。

 アルシエはふと、思い付いたように口にする。


「……いっそへリオン騎士団長と一緒に行動するわけですし、部屋余ってるなら貸してあげてもいいんじゃないですかねぇ」

「こいつがいいなら別にいいが」

「やっぱダメですよねぇ、男女二人――へ? いいんですか?」

「俺があんま使わねえからな。部屋は確かに余ってる」

「……ならその方が楽かもしれないですねぇ。サーシャちゃん、どう?」

「……」

「サーシャちゃん?」

「はっ! い、いいと思います!」

「あらぁ、じゃあその方向で行きましょうか」

「え、えっと……」


 サーシャが困惑した表情でアルシエの方を見る。

 だが、アルシエとアウロはすでに部屋決めについては終わったものとして、次の話を始めていた。


「それより、だ。こいつを借りてくぞ」

「借りてくも何も、へリオン騎士団長の補佐官ですよ、サーシャちゃんは」

「……そうだったな。サーシャ、行くぞ」

「え、あの……行くってどこに?」

「仕事に決まってんだろうが。さっさとその人形置いてこい」

「あ、ちょ、待ってください……! もう少しだけっ」

「そんなに気に入ったなら、そのぬいぐるみあげるわよ」

「っ!? ほ、本当ですか!」


 サーシャの驚きの声に、アルシエは頷く。

 サーシャはアウロが先に外に出たからか、嬉しそうな表情を隠さずにアルシエへとぬいぐるみを渡す。


「し、仕事が終わったら取りに来ますので……」

「ふふっ、待ってるわ」

 

 サーシャがアウロの後を追って支部を出ていく。

 アルシエはサーシャが話を聞いていなかったことは分かっていた。


(……まあ、第二騎士団としては仕事しやすいだろうし、ぬいぐるみあげたら何でも言うこと聞いてくれそうだから大丈夫よねぇ――って、ちょっと心配かも)


 二人を見送ったアルシエは、そんな新しい心配事を抱えるようになったのだった。

活動報告にいただきもののサーシャのイラストをアップさせていただいております!

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