16. 新橋 Cooper Ales
新橋駅の近く、ちょっとわかり辛いビルの三階にある店である。
私は酒は好きだが、ビールはあまりよく知らぬ。
ツィボとベルリナ・ワイスという銘柄がうまいと聞くが、いまだに探し当てられず、
だが、それはそれでもよい、という口だ。
ここはビールを飲ませる店だ。
ほかの酒もあるが、本領は数え切れぬ程のビール。
IPAからクラフトビール、古典銘柄、そして古今の佳品。
熱気がむわりと残る新橋の夕暮れ、蟻が水を求めるように、人々はこの店に集い、酔う。
そのため、のんびりとしているとたちまち店は一杯になってしまう。
この店は、客にとってうまいビールとは何かをよくよく知り抜いている。
汗噴くサラリーマンにはまず冷えて鮮烈な一杯。
続いては、味を楽しみ、かつさっと飲める一杯。
ほろ酔いになったところで、深いコクと苦味を持つ、重々しい一杯。
石田三成ではないが、それだけで嬉しくなってしまう。
味を引き立てる料理も良いものだ。
ここに来るとまず、私は突き出しにザウアークラウトを頼む。
ドイツゆかりの、キヤベツの酢の物だ。
そしてどさりと盛られたチーズ。 匂いの鮮烈なブルーチーズには、もちろん良く合う酒がある。
小腹が空けば、ビール煮だ。魚だ、パンだと、これもまた、日本ではなくどこか異国の酒場にいる気がするようではないか。
それらを食べ、気ままに飲み、ゆったりと寛ぐ楽しさは、表現のしようがないものといえよう。
女性客も多い。
だが、総じてこの店は、男の店だ。
ダンディズムを気取りたくなる店といっても良い。
いい酒、いい煙草、いい仕事、そういったものを顧みる何者かを包含する店なのである。
私の周りには、二人、ビールのスノッブがいる。
一人は以前『神田 ぼたん』に出した学生時代からの友人。
もう一人はなろうにおられる畏友と呼ぶべき方だ。
二人とも、メニューを見つつも、それらにばかりは目を落とさない。
鋭く、店の壁に貼られた無数のラベルやメニュー、店員の奥の樽や瓶をじっと見る。
日本酒もそうだが、良い店の良い酒とは、メニューにはなかなかないものだ。
多く仕入れ、多く売れるから人の目にさらすのであって、店主の本当の絶品は、知る人間だけが気づくよう、無数の瓶の奥からちらりと目をやっている。
そのお二人とも、この店に案内したことがある。
二人に限らず、好んで通ってくれれば、幸甚これに過ぎたるはない。




