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伯爵令嬢シェリア・ハジェットの夢~はじうま令嬢は、舞台の上で輝きたい~  作者: Na20


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「それは……衝撃的でした」


「衝撃的……」



 衝撃を受けるほど下手だったってこと?……いや、そんなことはない。

 これまでたくさん努力してきた。それに団長が人前に出せない役者を舞台に上げるわけがない。


 演出?衣装?それとも脚本?

 でもこれらは劇団の精鋭たちが手掛けている。彼らの仕事に間違いはない。

 じゃあなにが衝撃的だったというのか。



「今でもあの日のことは忘れられません。あの日、シェリーを初めて見た時のことを!」



 あれ?急に様子が……



「暁の空を溶かしこんだような紫の瞳!立ち見席からでも分かる洗練された動き!劇場を支配する美しい声!それに――」



 彼女は何を言っているの?なんかすごい言葉が聞こえてくるんですが!?

 え、これ誰の話ですか!?



「あ、あの……」


「でもどれだけ言葉で言い表しても、あの日の感動を正確には言い表せないなんて……。ああ、神はなんて過酷な試練を私にお与えになるのでしょうか!」


「あのっ!」



「はっ!……ご、ごめんなさい!」



 そう言って直ぐ様頭を下げる彼女。

 なんだかずいぶんと謝りなれているような感じだ。

 でも別に謝罪をしてほしいわけじゃない。ただ私のあとをつけていた理由を知りたいだけなのだ。



「ふぅ……ラストル様、頭を上げてください」


「っ、すみません。夢中になるといつもああなってしまって……」


「別に怒っていませんよ」


「シェリー……」



 それにどうして気づいたのか分からないが、彼女は私がシェリーであると確信している。

 それなら下手に隠すより、ここは秘密を共有した方が安全ではないだろうか。

 できれば確信した理由も確認したいしね。



「ですがそろそろ先ほどの質問に答えてほしいのです」


「先ほどの質問……」


「ええ。なぜこの数日、私を見ていたのですか?」



 なんて聞いてはみたけど、さっきの彼女の反応からなんとなく思い当たることがある。



「それは……」


「それは?」



 うっ……なんか緊張する。私の思った通りだったらどう反応すればいいのだろう。



「そ、それは……私がシェリーの大ファンだからです!」


「……大ファン」


「きゃ~!言っちゃった~!」



 ファン……大ファン……私の?



「……本当に?」


「ほ、本当です!初めてシェリーを見た時衝撃を受けました。ああ、新たなスターが現れたって!それからは夢中になって劇場に通いました。彼女の演技は見ていると不思議と温かい気持ちになって、嫌なことも忘れられたんです」



 私の演技が誰かの心に……



「でも舞台が終わると彼女の姿を見ることができなくなりました。それなのに嫌なことはずっと続いていくし……どうしても我慢できずにここで泣いていたんです」



 泣いていたってあの時こと?



「そうしたら目の前にあなたが現れたんです。最初は気づきませんでした。ですが最後に言ってくれたあの言葉で気づいたんです」



『明けない夜はないわ。だから笑って』



「あの言葉は私にとって希望の光でした。必ず夜は明ける。だから私も頑張ろうって思えたんです」


「あ……」



 そうだ、思い出した。

 あの時振り返りながらあの台詞を口にしたけど、舞台でも同じだ。

 振り向き様に、そして微笑んで言うのだ。

 思い返してみればどうやら無意識に自分から正体をばらしていたらしい。

 ただそれでも普通は気づかないだろう。

 でも私の大ファンだと言って、毎日観てくれた彼女には気づかれてしまったというわけだ。



「ははっ……ははは」



 不思議と笑いが込み上げてくる。



「シェリー?あなた泣いているの?」


「え?」



 初めは彼女の言葉の意味が分からなかった。

 私が泣いている?そんなわけない。私はいま笑っているはずなのに。

 どうしてだろう。頬に冷たい何かが伝っていた。



(私、泣いているの?)



 別に悲しいでも悔しいわけでもない。

 それなのにどうして次から次へと涙が溢れるのか。



「ど、どうしたの!?」



 あたふたしながらも、その声から私を心配してくれているのが分かる。



(……ああ)



 ようやく分かった。私は嬉しくて泣いているんだ。

 役者という職業に誇りは持っているけど、貴族として生きるには隠さなければならない。

 その矛盾にずっと葛藤してきた。


 もちろんシェリーを褒めてくれる人はたくさんいる。

 でもそこにシェリアを見てくれている人はいなかった。


 だからこそ、シェリアの姿でも気づいてくれる人がいたということが嬉しい。


 バレるのはよくないと分かっている。

 けれど悪女と呼ばれる彼女にバレたというのになぜか不安はない。むしろ信用できると思えるほど。


 それはなぜか分からない。

 けれど彼女の曇りのなく私を見つめる瞳を信じてみたいと思ったのだ。


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