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今シェリーって言った?
どうしてその名前がここで出てくるの?
もしかしてバレたとか?……ううん。それはない。
だってシェリーの時は役に合わせてカツラを着けているし、瞳の色だってあのペンダントを掛けているから紫色だ。
今の私と役者のシェリーが同一人物だって気づく人なんていないはず。
だから落ち着いて対処すれば問題ない。
「一体それは誰なの?私の名前はシェリア・ハジェットよ」
「えっ、でも」
「ねぇ、その人と私は似ているの?」
答えは否だ。
さっきも言ったが、シェリアとシェリーに似ているところはない。普段はメガネもかけているしね。
「い、いえ、髪は分かりませんが目の色は違います。それに彼女はメガネをかけていません」
そのとおりだ。
シェリーが私だと裏付ける証拠なんてないはずなんだけど、なぜだか嫌な予感がする。
「それならあなたの人違いじゃない。言いたいことがそれだけなら私は失礼するわ」
もう彼女とは関わらないようにしないと。
そう思いここを離れようとした瞬間、
「『明けない夜はないわ』」
「!」
「これは少し前、とある劇団で上演された舞台の台詞です」
彼女の口ぶり……まさかあの舞台を見たことがあったの?
たしかにあの舞台は毎日満員だったから彼女が見ている可能性ももちろんあるけど、今ここでその言葉を言うのはなぜ?
「……それが何か?」
「私あの舞台が大好きで毎日観に行っていたんです」
「えっ」
「お金がなかったので毎回立ち見でしたけど」
毎日って……まじ?
それはすごいことだし、演じていた身としては単純に嬉しい。
でも、あれ?
私あの時はシェリアとして言葉を伝えたっけ?……もしかして無意識に役になりきってたりしてなかったよね?
「昔から舞台はたくさん観てきました。だからあの舞台の主演が新人役者だと耳にしてとても気になったんです。これまで新人が主演を演じるなんて、あのクララベル以外聞いたことがありませんでしたから」
ほとんどの役者は初舞台を端役で迎える。
王都一の劇団である『暁の星』でもそうだ。それが役者の世界の慣習のようなもの。
ただ例外があるとすれば伝説の役者であるクララベルくらいだろう。
彼女は彗星のごとく現れ、瞬く間に頂点に登り詰めた存在。
そしてそんな慣習を破って現れたのが私だと彼女はいう。
たしかに知らない人からしたらそうなのかもしれない。
だけど私は何年も裏方で下積みをしてきて、ようやくデビューすることができた遅咲きだ。
主演に選ばれたのもただ運がよかっただけ。たまたま私と役との相性がよかったからだと思う。
それでも巡ってきたチャンスだと、あの時の自分の持てる力の全てを出したのがあの舞台だった。
「……それで、どうだったの?」
舞台は満員だった。あの役者は誰かと話題にもなった。
でもそれは劇団の名が売れているからでは?
そう思うと不安で一杯になった日もあった。
だから気になってしまったのだ。
彼女は私の演技をどう思ったのだろうかと。
その結果、まさかあんなことになるなんて……




