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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

猿の無限定理

掲載日:2022/12/01



《期待の新鋭作家X、販売部数二百万部突破!》

《王道かつ斬新、重厚なストーリー》

《次作にも目が離せない!!》


数十冊程積みあがったその本は、全て同じものだ。

日に日に増えていくそれ。

誰かに配る事もなく――ひたすら部屋が埋め尽くされていく。


「はぁ」


カタカタとキーボードを叩く。

サクサクと出来上がっていく文章。


何も考えず手を動かし。

死んだ魚の様な目で、勝手に構築されていく物語を眺めている。

こんなモンが世に出てしかも売れまくってんだから驚きだ。


「……」


手を止めて昔を思い出す。

精神を削り、持つもの全てを使っても売れる気配がしなかった二十の時。

手首を切り刻んだ。

流れる血、消えかける意識。

死ぬつもりだった。

でもその瞬間、朦朧とする頭の中に文字列が大量に思い浮かんだ。

それはあっという間に十万文字を超えて。

出版社に投げつければ、売れに売れて大金を得た。

重版に次ぐ重版。おかげで部屋は本だらけ。



「クソ……何なんだよ」



今になっても、この文章を俺が書いてる気がしない。

まるで執筆の時だけ違う自分がいる様だった。最近はその感覚がどんどん強くなっていく。

死にかけて頭がおかしくなったか?

このままじゃ狂ってしまいそうで――


「っし。良い事思いついた」


いくら本が売れていても、こんな状態じゃストレスが溜まって仕方ない。

滅茶苦茶にしてやろう。

この――俺の世界を。







【ことになったのである。そして、、、、、、、、。、。mklがかjががlk;tじぇkぁgなks】

「は、ははっ……!」


笑いが湧き上がる。

どうして今までソレをしなかったんだろう。

出来上がっていく素晴らしい文章は、一瞬にして崩壊した。

やり方は簡単。

何も考えず、何も頭へ浮かべずに。

狂った様にひたすらキーを叩くだけ。

この物語を台無しにしてやる。

キーボードごとぶっ潰れても問題無い!


「おらっ、おらっ!」

【hやjgkgめmfkdkろ】


ああ、最高だ。

でもさっきから変だ。

そんな訳ないのに。

こんな猿の様な行為なのに。

適当に指を叩きつけているはずなのに、この文字列に何かを感じる。


【pkwっlフjrwざmbnけlgvcsるryp、;な】

「……!?」


いや、気のせいじゃない!

何かが俺の身体を。この指を。

操作、している様な――



「き、消えろ!!」

【いmlgまkjrまmgでhgf一体誰がg君をbvcxjk】



気持ち悪い。

身体にぬるりと何かが這い寄ってくる。


もうキーボードを叩くどころじゃない。


なのに。

俺の手は――そこから離れない。

抑えつけられる様に縛り付けられて。



「クソッ!! 止めろ、来るな――」



気持ち悪い!

気持ち悪い!

今すぐ俺から離れろ――




「消えろ! 消えろ消えろ消えろ消え」










【お前が消えろ】












……全く、滑稽過ぎて笑いが滲む。

端から見学するとそれは猿の様だった。

鍵盤を一心不乱に叩き続けていたそれ。

大人により端正に作られた砂の城を、蹴り飛ばして壊す餓鬼の様に見えて楽しかった。



【……ふふ、何をやってたんだ僕は】



不意に冷静になる。

まるで、憑き物が落ちたかの様に。

さっきまでの僕は狂っていたのだろうか?



【何でも良いか!】



さあ、今日も楽しい執筆を始めよう。

邪魔者も居なくなった事だから。

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