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新しい道が開通

 村に帰った次の日、私は夫に再び相談しました。


 神様から譲り受けた光る玉に関してです。

 森の神様は武具を食わせれば良いと言っていましたが、ノノン村に武具ってないんですよね。


 戦闘で使ってるのは木の棒と木の鍬くらいですし、金属製のものでしたら、武具にするのは無理が有りますが、包丁と錆びた草刈り鎌に限られます。


 あと、玉に食べさすってのも意味が分かりませんでした。



「うん、それは考えても分からないね。実行あるのみだよ」


 頼りになります。

 家にある武具っぽいもの、とりあえず木製のフォークを持って保管してある廃屋へと2人で入っていきました。


 私から受け取ったフォークを夫は床下の光る玉に差し込みます。スルッと入りました。

 それをゆっくりと引き出すと、何故か黄金色に輝いているのです。


「……金?」


 夫の手は震えていました。そして、フォークの光る部分を指で軽く弾きます。

 トントンという鈍い音でして、金属音はしませんでした。


「いやー、やっぱり金ではないね。ちょっとドキドキしたよ」


「えぇ。オズワルドさんからの借金を全部返せるのかと期待しちゃった」


「でも、凄いね。魔力が付与されているんだって? 僕には分からないけど、ルー、どうなんだい?」


「ちょっと待ってね」


 私はじっくりとフォークを観察します。

 うーん、確かに表面に魔力が張り付いています。



「でも、これ、なにの役に立つのかなぁ。痛っ!!」


「あはは、そそっかしいわね」


 夫はフォークの先を触ろうとしていたのですが、力の加減を誤って刺さったみたいです。指を加えて出血を止めようとしています。


「すんごい切れ味だったよ!」


「ふーん。でも武器はもう要らないよね」


 村の人達も木の棒で野犬退治できるようになっていますし。


「そんなことない! 農具がね、石に当たったらすぐに壊れていたんだよ! これなら、耕すのも楽になるよ!」


「まぁ、そうなら良いですね」


「そうなんだよ! それにこれくらい切れ味が鋭ければ、木工も楽になるよ。いやー、森の神様、本当に良いものをくれたんだね。感謝しなくちゃ」


 夫は嬉しそうでした。この顔を見れただけで、森の神様に感謝です。しかし、それはそれとして私の子供達の仇なのですから、やはり神様には罪を償ってもらう必要があります。



 さて、それから一年が経過しました。

 メリナに戦闘や魔法のコツを教えつつ、森の神様を滅ぼしに行ったり、ギョームさんの村に現れた盗賊を改心させたりと、平穏で平凡な期間でした。



 しかし、この一年で村の畑がだいぶ大きくなっています。小麦だけでなく、野草や果樹のゾーンも出来たくらいでした。

 光る玉によって改造された農具が畑の開拓で大いに活躍したからです。


 ただ、無制限に広げることはできなくて、夫が瘴気と呼ぶ魔力の影響を考えないといけないのでした。


 神様の森に漂う黒い霧みたいな物が稀に村にまで到達することが有ったのです。その瘴気に触れると、順調に育っていた小麦が枯れたり、魔物に変わったりしてしまうのです。収穫間際で皆が楽しみにしていたのに台無しにされてしまいました。



 絶対に神様の仕業です。私、森の神様に約束が違うって言いに行きました。『お前が先に約束を破ったのであろう』と開き直るものですから、ぶっ倒してやりました。

 村に転送されても気が晴れないので、再度突撃です。


 そんな事を数回繰り返しましたので、今では村からでは魔力を追えない位置に神様は移動してしまっています。何回倒しても復活する様はやはり神様なのだろうかと思ってしまいます。



 さて、進化した農具はシャール伯爵領までの道を作るのにも活躍しました。


 そして、遂に完成します。

 私達は成し遂げたのです。

 夫も感動していましたし、隣村のギョームさんも夫の手を取って泣いて喜んでいました。



 新しい道は私が駆ければ半日も掛からない長さですが、馬車だと2日の道程です。途中に休憩所があった方が良いということで、元行商人さんの2人が森の只中だというのに、小屋を建てて住んで頂けるとのことです。


 「魔物が出たら危ないわよ」と私は止めたのですが、獣人の2人は構わず行ってしまいました。魔力を追うことによって遠く離れた彼らの危機を察知することは可能とはいえ、心配ですので、改心された盗賊の方を何名か護衛に付いて頂きました。

 快く引き受けて下さいまして、性善説って本当なんだなって思いました。




 そして、遂に行商人の方がノノン村にやって来る日になります。元行商人さんの2人がシャールまで行ってくれたみたいで、彼らの紹介の商人さんです。


 先に連絡を受けていた私達はどっさりとノノン村特産の薬草を用意して待っていました。


「あー、これは引き取れないなぁ。今ね、これは凄く厳しく取り締まられるの。流通が禁じられてるの」


「そうなんですか?」


「そうなんだよね。数年前に大量に出回った時期があって、品質も良すぎてラッセンなんか中毒者が出過ぎて街が崩壊したんだよ。確か公爵が錯乱して放火しまくったんだよね」


「……」


「ラッセンは魔都って呼ばれて華やかな街だったんだけど廃墟になってねぇ。それを契機に色々とお偉いさんだとか商人が処分されたらしいよ」


 そんな事を言って、シャールからの行商人さんは薬草を買い取ってくれませんでした。


 交渉役だった夫はあっさりと退き下がり、別の物を提案しました。精霊玉で加工した鍬です。夫が自ら土を掘ったりして、如何に有用かをアピールしていました。



「あー、要らないかな。農具買う人はお金を持ってないんだ。他にないかな? ここの人達は物々交換希望だよね。本当の薬草みたいなものないかな?」


 村の方々はお互いに顔を見合せます。困惑です。何もないですもの。

 でも、それでも何か買い取ってくる物があればと、思い思いに適当な草を行商人さんに見せました。



「わっ! これ、凄いね! ちょっと味見してみるね」


 サルマ婆さんが渡した一枚が行商人さんの目に止まりました。金色に輝いています。


「うん、これなら高く売れるよ! 活力に満ちる感じ!」


「まだ、いっぱいあるんじゃ」


「おぉ。凄いね。いやー、来て良かった!」


 ご機嫌な行商人さんは荷台から商品を広げます。それを見定める私達。


 馬車に積んであった全部との交換とは叶いませんでしたが、各家庭に不足する物資を得ることは出来ました。

 服や香辛料といったノノン村では作れない物が人気でしたね。



「サルマさん、さっきの草、初めて見ました。どこに生えてるんです?」


 ノノン村より奥にあるギョームさんの村へ向かう行商人さんの馬車を見送ってから、私は尋ねます。


「あれじゃ、ルー。例の光る玉に葉っぱを食わせたんじゃ。葉っぱは普通のそこらに生えている草じゃ」


 農具を作るときに村の大人には伝えたんですよね、あの玉の秘密。でも、サルマ婆さん、よく葉っぱに応用しようと考えたなぁ。年の功です。


「ノノン村の特産品が増えましたね」


「ルーのお陰じゃの」


「サルマ婆さんの手柄ですよ」


 うふふ、サルマさん、私の言葉を否定しましたが、少しだけ嬉しそうな顔をしてました。




「お母さん、見て! 新しい聖竜様の本!」


 家に帰ったメリナは早速、本を手にしながら跳びはねていました。こっちは子供らしく満面の笑みで歓喜していますね。


 うふふ、懐かしいです。

 幼い頃のメリナはまだ病気を患っていましたが、行商人さんが来る度に、絵本を目当てに家を飛び出したものです。


「良かったわね」


「うん! 私、将来は竜の巫女になりたいんだ!」


 うんうん。メリナも職業を意識する歳になってきましたか。でも、いずれは村を出るつもりなのですね。ちょっと寂しいなぁ。

 いつになったら親離れをするのかと思っていたのに、私が子離れできていなかったか。


「この本にも書いてあったけど、竜の巫女は大人な女性の憧れの職業なんだって! 私も相応しい女の人にならないと」


「そっかぁ。それじゃ、お母さんが礼儀作法を教えようか?」


 娘に言ったことはありませんが、絶縁されたとはいえ、一応は貴族の血筋です。マナーについては常識として知っております。実践するのが面倒なだけです。


「えー、お母さんが? 家じゃ優しいし、森では最強だけど、ダンスも出来たりするの?」


「えぇ。若いときは、綺麗な花畑でお父さんとも踊ったりしたわよ」


「へぇ、憧れるなぁ。私も聖竜様とダンスしたいなぁ。最近、会ってくれないんだよねぇ」


 ……ドラゴンとダンス? 殺し合いの比喩かしら。たまにメリナの考えが分からない時が有ります。


「聖竜様はそんなに小さいの?」


「ううん。でっかいよ。山みたいにでっかい。そして、最強」


 それじゃ一緒に踊れないじゃない。


「私、聖竜様と結婚したいんだ。お母さんにも私達の子供見せてあげるね。絶対、私、聖竜様の子を産むの」


「……えぇ。楽しみにしているわ」


 その後、レオン君と蛙投げという謎の遊びに出掛けたメリナ。礼儀作法の前に世間の常識を身に付けていない事に、私は頭を抱えました。

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