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超絶政治闘争学園ノブリス  作者: 片里鴎(カタザト)
第四話 ある殺し屋への葬送曲
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プロローグ

 それは、彼がノブリス学園に入るよりも遥かに前。

 まだノブリスネームでなく、本名の雨陰太郎あまかげたろうと名乗っていた時の話だ。

 といっても、彼にとってその本名に意味はない。親がくれた名前でもない。拾われた時にしとしとと雨が降っていたから、そして彼が陰気な顔をしていたからという理由で、拾い主がつけた名前、それだけだ。

 単なる記号と違いはない。


 彼は幼い頃の時間を、ただひたすらに己を鍛え上げることに費やした。いや、強制的に費やされた。


 拾い主は彼を、人間ではなく道具として作り上げようとしていた。そのためには、人として必要なものを削ぐ作業と、道具としての利便性を高める作業が必要になる。

 その二つの作業を同時に行うため、拾い主は彼の人間性が構築されていくであろう時期に、徹底して道具としての純度を高めるための鍛錬を強制したのだ。


 体を鍛え、技術を鍛え、そして心を壊された。


 その結果、雨陰太郎は道具となった。拾い主が想像していたよりも数段優秀な道具に。単に強いだけではなく、応用性があり、任務に忠実、そして壊れにくい。

 だが、それはあくまでも道具としての話。

 人間は道具ではない。道具として優秀になればなるほど、人としては壊れていく。


 それでも拾い主としては構わなかった。道具として使えればいいし、人として壊れた部分をうまく隠す程度の応用力を道具は持っていた。


 そうして、その道具は、彼は、雨陰太郎は。

 あまりにも優秀な道具でありすぎた。


 道具は、持つ人間に使われるもの。その道具は拾い主以外の人間の手に持たれ、そして拾い主に向かって振るわれた。

 優秀な道具だった彼は、命を奪うその瞬間まで、拾い主に自分が別の人間の手に持たれていることを気づかせなかった。


 首を叩き切られた拾い主は、叫ぶこともできず、血を吹き出しながら手足をばたつかせ、そして死んだ。


 名前と役目をくれた拾い主の生温い鮮血を頭から浴びて、彼は覚醒した。

 その時、ようやく初めて雨陰太郎は己が何者なのかを実感した。


 すなわち、生粋の殺し屋。

 義理も情もなく、ただ命令によって人の命を奪うことだけが己の生きる道だと気づいたのだ。


 自分の本質に気づけたのが、嬉しくて。

 その長い髪を鮮血に濡らしながら、彼は哄笑した。

 笑いながら、生暖かい血が顔を流れるのを感じて、うっとりと目を閉じた。


 新しい彼の持ち主の命令で、ノブリス学園に入ることになったのは、それから五年後のことだった。





 名前は?


「ノブリスネームってことですよね、そりゃそうですよね。外のことを質問するのは校則違反ですし。夏彦です」


 学年と所属は?


「一年生です。所属っていうと……特別優良クラスの5、第三料理研究部、それから司法会監査課、こんなとこですか」


 趣味は?


「趣味? 特には……読書と筋トレ、あとは護身術の稽古ですかね、特に最近はいい師に巡り合えましたから」


 自分の長所は?


「運がいいところ。運が悪かったらあっさり死んでいてもおかしくない経験ばかりです」


 自分の短所は?


「はっきりした自分のないところ。がらんどうだ、とよく言われます」


 家族構成は?


「え、これ、外のことだから校則違反になるんじゃあ……ああ、そう言えば但し書きに『健康診断における必要最低限の情報は除く』ってありましたね。失礼しました。三人家族です。父、母、俺」


 家族関係は良好ですか?


「まあ。父も母も大人しい人ですし、息子に関しても放任主義です。俺も特に反抗することはないし、家庭内で問題はなかったですね」


 家族に連絡はとってますか?


「ああ、そう言えば全然とってませんね。向こうからも全然連絡ないし……でも別に仲が悪いわけじゃあないんですけど」


 友人は多い方ですか?


「普通じゃないですかね、多分」


 友人は大切にする方ですか?


「はい、と答えられないのがつらいとこですね、何せ友達と殺し合ってばかりですから」


 人には好かれる方ですか?


「あー……普通、です、多分。我が薄いし、特別好かれも嫌われもしないと思います」


 現在、精神的な悩みを抱えたりしていませんか?


「特になし。良好です」


 何か、ここで特別に言っておきたいことは?


「なし。これで終了ですね……けど胡蝶課長、いい加減、月一での健康診断、このカウンセリングの部分だけでも飛ばしてくれませんか? 面倒ですよ。もうすぐ選挙が始まって忙しいっていうのに」

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