第243話
広場に立ち、私は街を見渡していた。
街のみんなは壊していいって言ってくれたけど、それでも、できるだけ守りかった。
戦いが始まる時から考えていたことじゃない。
街を出ると決めたから、私はずっとここを守る為に戦っていた。
マイカちゃんだって、そのためにあの箱庭を作ったんだ。
こうして考えてみると、街を守りたいって気持ちが
カイルに勝てた要因と言えるのかも、なんて思った。
剣の台座はところどころがヒビ割れていた。
これまでキズ一つなかった台座があんな風になるなんて。
いくら剣が抜かれて力が弱まったとはいえ、元は女神達が作ったものだ。
ちょっとやそっとじゃビクともしないはず。
戦いの激しさが見て取れる。
広場を中心に、民家は相当なダメージを受けていた。
私の家は結構離れているから、もしかしたら無傷かもしれない。
人の家をこんなに壊しておいて自分の家は無事だなんて、ちょっと申し訳ないけど、
私の家が無事なら家を建て直す時に金具を作ってあげたりはできる。
街のことを客観的に考えると、無事でいた方が有り難い。
もう夜になる。
とっとと話をつけて、避難した街のみんなを呼び戻したい。
今後のことを考えていると、ウェンが口を開いた。
「一つ聞いておきたい。お前らは、オレらを……結局どうするつもりだ」
「どうするって。どうにも。もう二度とハロルドに近寄らないで欲しい。それだけ」
私は淡々と述べた。
まだ歯向かってくるようなら、こちらを覚悟を決めるべきかもしれないけど。
一時的に魔法を使えなくする枷を用意しようかとレイさんに提案されたけど、
それを聞いていたヴォルフとカイルが甘んじて受け入れようとしている様子を見て、
私はそこまでする必要はないと言った。
「そうかよ。はぁ……まっさか、こんなことになるとはな」
「こんなおいぼれもまとめて生かしておいてくれると言うんじゃ。
お言葉に甘えておいた方がいいじゃろ」
そうして彼らは、少し自分の話をしてくれた。
ヴォルフとウェンは、カイルが旅のメンツを募集した時に集まったらしい。
王族と旅ができると聞いた人々は、男女問わず名乗りを上げたという。
金や名誉の野心に駆られる者もいれば、明らかにカイルとの婚姻を狙っている女もいたとか。
そんな中、希望者を集めて戦わせて残ったのが二人だった。
道理で強い訳だ。
「本当は知人を連れて旅に出るのかもしれないけど、僕は友達なんていなかったから」
「でしょうね」
「マイカちゃん」
面倒だった、カイルはそう言った。
強がりではなく、本当にそうだったんだと思う。
彼は感情の起伏に乏しいというか、ある種の感情を初めから欠いているようにも見える。
簡単に言うと、笑った顔を見たことがない。
それを指摘した私の言葉を聞いたウェンですら「そういえば」と呟いた。
「……まぁウェン達もその辺は無頓着みたいだし、相性は良かったのかも知れないわね」
「確かに。笑うことを強要されるのは面倒だな」
適当に選んで選ばれた間柄かもしれないけど、この三人は結構馬が合うように見える。
私は、カイルの境遇を聞かされたときから、ずっと思っていたことを口にする。
「あのさ、故郷に帰るの、やめたら?」
「え?」
「世界は広いんだし。国の面倒な問題を放置しちゃうのもありだと思うけど」
カイルは私の提案を聞くと、目を見開いた。
王様はカイル達を国民のご機嫌取りに使おうとしていただけ。
そりゃ、伝説の剣があれば、攻撃してくるモンスターを退けることはできるかもしれないけど。
それって人間側の都合だ。
緑や水を奪われてモンスター達が苦しむのは可哀想。
「セイン国の王様は困るだろうね。でも、三人は本当に強いし。力ずくで連れ戻せる人なんていないでしょ」
「……言われてみれば」
「何よ、その発想はなかった、みたいな顔。情けないわね」
「マイカ。あたしはこいつは好かないが、こいつの言うことはよく分かる」
フオちゃんは一人、カイルを慰めるような目で見ていた。
そこで私達は、フオちゃんと初めて会った時のことを思い出す。
あぁ、ある意味で同類なんだ、彼女とカイルは。
「選択肢を奪われ続けるとな、人は選択肢そのものが見えなくなるモンなんだよ」
彼女が言うと説得力が違った。
マイカちゃんはバツの悪そうな顔をして、そうねと呟く。
重苦しい空気を察したのか、ウェンは地べたに寝そべったまま言った。
空を見上げているようだけど、もうほとんど夜だ。
あと少しすれば、星が瞬くだろう。
「ま、オレもあの国には戻れないし、じいさんもそうだろ」
「当然じゃ」
「……それも、いいかもしれない」
「カイル、いいだろ。もう復讐のことなんて、忘れてさ。こんだけ女がいるんだ」
ウェンは私達をぐるりと見渡した。
当然、他の人達は避難しているから、この場にはいない。
女がいる、というのは私達のことだろう。
ウェンがこれからよくないことを言おうとしてる気がする。
止めようと思ったけど、無理だった。
「例えば、この中の誰かを嫁にもらって」
「あ?」
この場に居た全員の声がシンクロする。
うん、私も言った。
マイカちゃんが寝そべっているウェンに近付き、脚を上げて顔の上で止める。
何をしようとしてるのか察した彼は、大声で何度も謝った。
巫女も私も、誰もマイカちゃんを止めなかった。




