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勇者√←ディレクション!  作者: nns
魔法と冷気と拳と勇気

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226/250

第226話

 ウェンを完全に無力化したことで、ほんの少しだけ気持ちに緩みが出ていた。

 それを自覚したのは、「え? 誰?」と言いたくなるような怒号が聞こえてからだ。

 何事かと思い、慌てて振り返った。


 そこには背中から水色の翼を生やしたニールが居た。

 青白いそれはどう見ても幻想的なはずなのに、ニールが邪悪な笑みで息巻いてるから、

 かなり怖い映像になっている。


「まさか青の柱の巫女にこんな力が眠っていたとはの。

 驚きじゃが、主の相手などワシにとっては雑作もない」

「ニール! ここは一旦あたしに任せてその翼をしまえ! お前マジで死ぬぞ!」

「ぅるせぇ!!! 黙ってろ!!!!」


 怖い。

 フオちゃんの千倍くらい口が悪い。

 なにあの人。


 口の悪さはともかくとして、フオちゃんがニールの身体を心配しているということは、

 やっぱり彼女は良くない力の使い方をしているのだろう。


「うおらぁ!!」


 ニールが民家に手を付くと、氷柱が壁を走り、蛇のようにヴォルフを襲う。

 ニールの背後では、フオちゃんが彼女の名前を叫んでいる。

 追いつめられたかのように見えたヴォルフだったけど、最小限の動きや

 魔法でニールの攻撃をクリアしている。

 怒濤の勢いで迫る氷柱を軽々といなす老人、わりと衝撃的な光景だ。


「ちぃっ! ちょこまかと……! ならこれでどうだ! あぁ!?」


 がなるような喋り方で、彼女は憤りを隠さなかった。

 普段のニールの面影は全く無い。

 別人ですって言われても信じられるくらい。

 変人だけどおっとりしているところがニールのいいところだったのに。

 今の彼女は、私達なんかよりもよっぽど「悪者」って言葉が似合う。


 莫大な力が発露してしまった結果、意図せず翼が生えてしまったのかと

 思っていたけど、そうじゃないらしい。

 水色の何か。

 氷や水が翼に適するとは思えないんだけど、そのどちらかにしか見えない翼を使って、

 彼女は軽々と宙に浮いた。

 周囲の建物よりも高く飛ぶ。


「死ねやぁああーー!!!」


 両手に雪玉のようなものを出現させると、彼女は地上にいるヴォルフめがけて

 それを叩き付けるように投げた。

 誰もいないところに落ちたそれは、着地と同時に、先ほどよりも一回り大きな氷柱に変化する。

 さらに、ニールは手中からいくらでもそれを生成できるらしく、作った雪玉を投げまくっている。


 ここにいては危険だ。

 私とマイカちゃんは少しだけ後ろに下がったけど、フオちゃんは

 その場に留まってニールの名前を呼び続けた。

 氷が生まれては散っていく音が広場に響く。

 きっと街の外れに避難したみんなにも、この音は届いているだろう。

 場所によってはニールそのものが見えているかもしれない。


「おらおらおらおらおらおらおら!!」

「ニール! もうやめろ!! いい加減にしろよ!」

「黙ってろっつってんだろうが!!」


 二人の間に入っていけないだけで、私もニールは一旦休んだ方がいいと思っている。

 明らかにオーバーワークだ。

 ウェンとマイカちゃんの戦いに加勢する前に見た、ニールの身体から出る

 湯気のようなものが濃くなっている気がする。

 あれ、なんなんだろう……。


 さすがに力尽きたのか、ニールはやっと地上に下りた。

 だけど、視線は自身が作った氷の山に注がれている。

 ヴォルフがどうなったのか、気になるのだろう。

 フオちゃんはここぞとばかりにニールの身体を横から抱き、これ以上

 無理しないように引き止めようとしていた。


 待っても声はしない。

 やっつけたということにして、ひとまずはニールを休ませようとした、その時だった。

 氷の山の中から憎たらしい声が響く。


「うぅむ、田舎にはこんな風に人をもてなす風習があるのか。初耳じゃったわい」

「だとコラァ!!!」


 それにしても……怖いとは聞いてたけど、まさかこれほどとは……

 安易にニールを煽ったのは私だから、結構責任を感じている。

 あの様子だと、ヴォルフも継続的に煽っているようだったけど。


 でも……なんで煽るんだろう。

 ニールは怒れば怒るほど、魔法の威力を上げるはずだ。

 感情に呼応するように魔力の量が増えているようだから、それは間違いない。

 そういう術者の人は結構いるし、彼女もそういうタイプなんだろう。


 要するに、怒らせることは得策ではない。

 狙いが定まりにくくなることなんかはあるだろうけど、威力が増せば多少のズレは誤差にしかならないし。


「ねぇラン……ニールの身体、変じゃない……?」

「えっ……?」


 マイカちゃんは今更彼女の湯気に気付いたのだろうか。

 一瞬そう思ったけど、そんなワケがない。

 私なんかよりも目のいい彼女が、今の今まで気付かないなんて有り得ないだろう。


 つまり、マイカちゃんには私の見えていない何かが見えている。

 目を凝らしてみると、ニールの頬の様子がおかしい。

 手の甲も。


「あれは……霜が下りている……?」

「私には、体が凍っているように見えるわ」


 きっと、女神の力をその身に下ろして戦うという無茶な戦法のせいだろう。

 私だってやろうと思えばできるかもしれないけど、怖くて出来ない。

 崖の上から飛び下りるくらい勇気がいると思う。


 そして私は気付いた。

 ヴォルフがニールを煽る理由に。

 大変だ、早く何とかしないと。



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