第224話
色々あったけど、お互いに結構シャレにならない負傷をしているけど。
やっぱり勇者は私達と譲歩し合ったり、諦めたりする予定はないらしい。
彼は手のひらをこちらに向け、何か魔法を放とうとしていた。
この至近距離で自分が巻き込まれるような大きな魔法を使ったりはしないはず。
私は彼が何かをする前に、剣から光の力を取り出し、正方形のバリアを張った。
360度バリアに包まれたのは私ではない、勇者だ。
「悪いけど、そこでしばらく大人しくしてて」
普通の女神の力ならいざ知れず、この剣に蓄えられていた魔力なら、
きっと勇者も簡単には弾けないだろう。
下手に魔法を使うと、光の属性が跳ね返すだろうし、身動きが取れるほどのスペースは無い。
あの脚では、突破するのに時間がかかるはずだ。
私はふらふらと外に出ると、マイカちゃんとウェンの姿を確認した。
ウェンは腹部を押さえ、そこを庇うように戦っている。
マイカちゃんの優勢に見えたけど、彼女も額を切っているようだ。
流れる血液で、きっと左目はまともに見えていない。
すぐに加勢に行きたかった。
だけど、今の私が行っても足手まといだ。
せめて、彼女が有利になるように、サポートしてあげたい。
本当は身代わりにでもなんでもなってあげたいけど、そんなことをしたって意味が無いからしない。
——熱くなるな、冷静に考えろ。
何度も自分にそう言い聞かせていると、大きな破裂音が鳴った。
左の方に顔を向けると、そこには杖の先端から火の球を出すヴォルフが居た。
対峙しているのはフオちゃんとニール。
それにしても、なんか変だ。
杖を振るい、火球を飛ばすヴォルフに違和感を覚える。
やっぱり変だ。
彼なら、あんなまどろっこしい戦い方をせずとも、空から無数にそれらを降らせることができるはず。
事実、この街でも一度やってのけていた。
相手が複数ならなおのことその戦法は有効だろう。
まさか、勇者とウェンを気遣った?
いや、あのクソおじじに限ってそれはない。
威力が弱まっているとはいえ、周りの民家はかなりボロボロになっていて、火が燻っている箇所もある。
あれが配慮の末の光景だとは、とても思えない。
フオちゃんとニールは、レイさんに習ったであろう基礎の魔法を上手く使い、
ヴォルフの攻撃に対処している。息ぴったりだ。
いくらヴォルフの攻撃の威力が落ちているからと言っても、普通の魔導師ならあんな風にはならない。
おそらく今頃黒焦げだ。
フオちゃんはもちろん、ニールもやっぱり実力者らしい。
突飛な魔法を使ってるところしか見たことなかったから、全然そんな印象ないんだけど。
「ニール! 大丈夫か!」
「えぇ……! あれは、ランさん!?」
「何!?」
二人がこちらに気付く。
まずい、その一瞬の隙を、ヴォルフが狙わない訳がない。
私は悲鳴を上げる体に鞭打って、氷の刃をヴォルフに飛ばした。
「ぅおっと。なんじゃ、お主、カイルに何をした?」
私の攻撃は呆気なく躱されてしまったが、ヴォルフの気を逸らすことには成功した。
それで十分だ。
きっと彼ほどの魔導師なら気付いている。
あの強烈な光属性の気配に。
仲間が殺されていないことも。
口を開こうとした瞬間、頭の中に精霊の声が響いた。
私達は屈しない、と。
強制的に言う事を聞かせるヴォルフの魔力に、ということだろう。
そうか、だからヴォルフの魔法の威力が落ちて、フオちゃん達が魔法を使い続けられるのか。
あの戦闘を見ていて感じた違和感の正体に、やっと気付けた。
人だけじゃない。
精霊までもが、私達を応援してくれているんだ。
きっとあの二人だったら、私が加勢しなくても平気だ。
私はヴォルフの問いを無視して、ニールに届くよう、声を投げかけた。
「ニール! あそこのおじいさんね! ニールのこと、田舎者ってバカにしてたよ!」
「……………………マ?」
「マ!」
マじゃないけど。
マってことにしておこう。
ここでヴォルフに弁明されたら面倒だと思ったけど、なんと彼は高笑いして私の言葉に同調した。
「む? お主に言ったことがあったかのう? セイン国の外れは区画そのものが
田舎のように寂れていると。まぁよい、そんな世間知らずが勇者の役に立てるのだから
有り難くその使命を全うするんっぐっ……!!?」
「パチ殺してやるからな」
ニールは小声で自身の体に何か呪文を唱えた直後、ヴォルフの懐に潜り込み、
彼の腹に己の拳を埋めていた。
ハンパじゃない。
マイカちゃんを彷彿とさせる身のこなしだ。
ヴォルフは簡単なバリアを張り、後ずさりながら深く咽る。
というか、えづいているように見える。
今の勢いのニールなら追撃するかと思ったけど、彼女は自身の手のひらを見つめて立ち尽くしていた。
全身から湯気のようなものが出ている。
なんだ、あれ。
何かは分からないけど、あの無茶苦茶な力を連続して使用するのは危険だ。
本能的にそう思った。
「ニール!」
「おい! 聞け! やめろ!」
焚き付けたのは私だけど、あんな見たこともない力を使うとは思わなかった。
急に出した大声に耐えきれない体。
私はニールに声を掛けた直後、激しい痛みに再び膝を付く。
視線を落としていると、頭部に衝撃が走った。
痛くはない。
いや、一瞬痛かった気はしたけど、気のせいだったかも。
奇妙な感覚に顔を上げると、投球するようなフォームのまま私を見ているフオちゃんが居た。
「あんま無茶すんな! あたしはニールの援護に行くから、お前はマイカの方をどうにかしろ!」
どういう……?
足元に転がる、私の頭に投げられた物を見る。
「これは、精霊石……? あっ……」
そういうことか。
精霊石を拾って立ち上がる。
何が起こったのか理解した私は、広場の真ん中で拳を交えるウェンとマイカちゃんを見つめた。




