第209話
レイさんが手をひらひらとさせて「あー」とか「うーんと」とか言ってる。
多分、言葉を探しているんだろうけど、彼女が説明に困るようなことが、
果たして自分にきちんと理解できるかどうか、不安になってきた。
「簡単に言うね?」
「おう。っつーか、とっとと言えよ。モンスターに見つかったら面倒だろ?」
「だよね、分かった。んじゃ、ランちゃん。あとよろしく」
「はい?」
やっぱりレイさんの言うことは難しいなぁ。
想定はしてたけど、全然理解できないもん。
何コレ。
「ちょ、ちょっと待って。何をすればいいの?」
「磁場? っていうのかな、滝とか、エネルギーがあるものは魔力に近い力を蓄えてるんだよ。
で、できるだけその源泉に近い場所にその剣を封印したいんだよねー。
でも、ここじゃ離れ過ぎてるじゃん?
出来れば滝の一部をこう、競り上がるようにして台座を作ったりできればいいんだけど」
「……あのすごい勢いで流れてる滝の中にですか?」
ニールが思わず口元を押さえてそう言った。
キャラじゃないからしなかったけど、気持ち的には私も彼女と同じ気持ちだと思う。
わお、としか言いようがない。
「そそ。普通の魔法じゃそんなのできないからさ。だからランちゃん頼みってこと」
「そ、そっかぁ……」
レイさんの言ってることは分かった。
「何も考えてないけど、あとよろしく!」ということじゃなくて良かったとは思うけど、
だからと言って明確に案が出されている訳でもない。
要するに方向性だけ提示されて丸投げされているのだ。
というか、精霊に呼び掛けるにしても、そんなのどの精霊になんて呼び掛ければいいんだ。
腕を組んで難しい顔をして唸っていると、マイカちゃんが近寄ってきて私の名前を呼んだ。
「ラン、私に考えがあるんだけど」
「何?」
「私のこと、後ろからぎゅってして」
「……?」
私だけじゃなくて、その場にいたみんなが驚いている。
クーは鞄からカリカリを取り出してなんか食べてたけど、それ以外はみんなぎょっとしていた。
近くに立っていたフオちゃんなんか、心配するようにマイカちゃんの
頭のてっぺんからつま先までを観察している。
「何よ」
「えっと、それはいいんだけど、なんで?」
「マイカちゃん可愛いとこあんじゃん。もしかして、さっきランちゃんと
クロが仲良さそうに歩いてたのが……?」
「これにはちゃんと理由があるの。あとランがクロとどれだけ話をしようが
私はいざとなればランを力ずくでどうにでもできるから大丈夫」
「それ、ヒノクニですら犯罪だぞ」
フオちゃんだけならまだしも、ニールですらマイカちゃんに呆れるような視線を向けている。
だけど、マイカちゃんはそんな視線を物ともせず、私に手招きをして早くこっちに来いと催促した。
私は戸惑いながらも、滝と対峙する彼女を後ろからハグした。
「ラン」
「うん?」
「それじゃ邪魔よ」
「マイカちゃんがしろって言ったんだよね!?」
こんな理不尽なことってある?
私だって人前でイチャイチャするのは抵抗があったけど、頑張ったのに……。
落ち込んでいると、マイカちゃんはこうよ、と言って私の腕を掴むと自分の腰に回させた。
「えっと……?」
「いくわよ……!!」
「え!?」
まず何をするつもりなのか教えて欲しいんだけど。
私が抗議する間もなく、マイカちゃんは両手を合わせて右脇に寄せると、思いきり突き出した。
彼女の両手から放出される莫大なエネルギーが風を切って、真っ直ぐに滝へと突き進む。
「うっわ、マジ?」
「エッグいな」
放たれた波動は巨大な滝を割って、その奥、壁というか崖になっている岩石を穿つ。
土と風の属性で構成されたそれはすごい破壊力だった。
水しぶきでほとんど見えないけど、滝の奥がガンガン削られていくのはなんとなく分かる。
石に込めた精霊の力が尽きるのを確認すると、マイカちゃんは得意げな顔で振り返った。
「あとはあの中に入る方法考えなさいよ」
「あ、う、うん……あんなの、よく思いついたね」
「なんとなくできる気がしたのよ。私には精霊の声は聞こえないけど、
精霊石がいつもよりぐっと重かった感じがするっていうか」
遠くの様子を観察するようにおでこに手を添えながら、レイさんは滝の様子を見守っている。
何をしているんだろう。
「滝の近くじゃなくて滝の中、か。盲点だったなー。
あれ以上抉ってたらあたしがマイカちゃんにストップかけてるところだったよ」
「どうしてよ」
「水って重いんだよ?」
レイさんに言われてやっと気付いたけど、地面を削ったら
そこから崩れてしまう可能性もあったんだ。
幸い、大丈夫っぽいけど。
マイカちゃんが自分で精霊に呼びかけられるタイプの子じゃなくて良かった。
あれを続けていたら本当に危なかったと思う。
「言われてみればそうだな。そうしたらあの滝から感じる魔力にも影響があったかもしれない」
「マイカさんったら……もっと考えて行動しなければいけませんよ……?」
「多分、マイカもニールにだけは言われたくないと思う」
とはいえ、これで封印場所は確保できた。
あとはあの滝をくぐって封印すればいいだけだ。
私は手応えを感じて、真っ直ぐと滝を見つめていた。




