第208話
私達六人は適当に広がって、滝の真ん中とやらを目指して歩いていた。
この辺だろうと思って転送陣を作ったのに、結構ズレているとレイさんに言われてしまったから。
レイさんがまたよく分からない装置を使って、「多分もうちょいあっち」と指差したので、
指された方に向かって歩いてる。
クロちゃんから発せられている、謎の憧憬の眼差しが怖い。
私は「恥ずかしい台詞を聞かれてしまったという出来事をもう気にしてませんよ」という顔で
道を歩いていた。
本当はすごく気にしてるけど。
恥ずかしくて死にそうなんだよね、本当は。
レイさんが言う滝のド真ん中は結構近いと思う。
目的地に辿り着けば、さすがにこの気まずい空気も消えるだろうと信じて今は進むしか無い。
手のひらの上に乗せたコンパスのような機械を見ながら先導するレイさんは、まだ止まる気配はない。
モンスターを警戒しながら歩いていると、クロちゃんがささっと早歩きで近寄ってきた。
そして私にだけ聞こえるように言った。
というか、崖を挟んだ向かいにある滝の音がうるさくて、普通に話すと
側にいる相手にしか聞こえないくらいにかき消されてしまうんだけど。
「いつからマイカとそういう仲になったの?」
まさかの話題に、私はぎょっとしてクロちゃんを見た。
だけど、彼女は歳相応の女子っぽい顔で私を見つめている。
さっきの視線って、そういうことだったのか……。
こういう話、まるで興味がないと思ってたけど、私の勘違いだったのかな。
いや、多分私達と旅をしていた時は少なくともそうだった。
変わったのは、きっとレイさんの影響だろう。
誰かにそんな話をしたことなんてなかったから、私は少し緊張していた。
相手は年下で、さらにしばらく一緒に旅をしてきた仲間だというのに。
どぎまぎしていると思われるともっと恥ずかしくなりそうだから、
できるだけ普通に聞こえるように話した。
「……えぇと、実を言うと結構最近……っていうか、正式に付き合うことにしたのは、
レイさんとクロちゃんの家に泊まった日なんだよね」
「は?」
クロちゃんの目がギン!! と急に鋭くなって、その視線で私を刺した。
おかしいよね、質問に答えただけでなんでそんな顔するの。
心臓壊れる、怖い。
言葉を失った私だけど、復帰は早かった。
彼女が何に怒っているのか、すぐに理解が及んだから。
「あ、大丈夫だよ。その、借りた部屋で変なことはしてないから」
「変なことって? 悪魔の呼び出しとか?」
「変過ぎるでしょ。それもしてないけど、ほら、えっちなこと」
「は?」
もうやだ。
クロちゃん怖い。
私には彼女が怒っている理由が全く分からない。
お手上げとばかりに黙って肩を落としていると、彼女はさっきよりも小さめの声で言った。
「ランが鈍感なのは知ってたけど、さすがにマイカのことを待たせ過ぎだと思う」
「あ、さっきのって「付き合うの遅いよ」のギン! だったんだ」
「挙句の果てに、折角付き合うことにしたのに何もしなかったとか」
「そのあとのは「むしろしとけよ」ってことだったんだね……」
要するに私の回答や選択は、傍目に見て常に裏目に出ている様だ。
なんかしんどくなってきたな、精神的に。
「……ランは、マイカの何が不満なの?」
「ちょっと待って。不満なんて言ってないよね?」
「でも、マイカは結構前からアピールしてたと思う。何か理由があって、
マイカの気持ちに気付いた上でスルーしてたのかとすら思える。
コタンの森の小屋で三人で泊まったときとか」
「あぁーそんなこともあったね」
あのときは確か、クロちゃんがベッドで寝たいからって理由で、
私とマイカちゃん二人がソファで寝ることになったんだっけ。
……え、ちょっと待って。
「もしかして、クロちゃん、その頃から気付いてたの?」
「まぁ。人が気を利かせてベッドを占領したというのに横じゃなくて
縦に重なって寝てるから引いた。とても」
「ごめんって」
蘇った記憶の中の私達は、うん、マイカちゃんをかけ布団みたいにして寝てた。
ちょっと一緒に過ごした当時のクロちゃんですら気付けるくらい分かりやすかったなんて……
頭が痛くなってくる、というかどんどん私が悪い気がしてくる。
「……マイカのこと、好き?」
「うん」
「……意外。即答するんだ」
「さすがにね」
クロちゃんは目を丸くして驚いてみせると、すぐに微笑んだ。
ここで即答できなかったら、マイカちゃんと付き合う資格なんてないだろう。
少なくとも、私はそう思う。
「私もちょっと気になってたんだけどさ、クロちゃん」
「なに?」
「レイさんと、何かあった?」
私がそう訪ねると、クロちゃんはちらりとこちらを見て、
それから何も聞こえなかったとでも言いたげに振る舞った。
……まぁ、別にいいけどね。
何かあったんだろうなって、もうその反応で分かるし。
「この辺だね。ここが魔力の反応的に、滝の真ん中になるよ」
「……そうなんだ」
私達は立ち止まって崖の向こうを見つめた。
視覚的な真ん中からは結構ズレてるんだけど……というか魔力の反応の真ん中ってなんだろう。
私は答えを求めるようにレイさんを見つめた。




