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野望

 サルヴァは語ります。


 彼はナーシェル諸国連邦の中心国家であるナーシェルの王族とのこと。しかも、今の王様の直系らしいです。つまりは蛮族の中では優良種ということなのでしょう。

 但し、母親は卑しい身分の出身で、他の兄弟と比べると微妙な立ち位置にいると言いました。また、彼の母親は既に病気で亡くなって久しいという、少しだけ同情させる情報を出してきました。

 母が恋しいが為に女の乳を求めているかもしれません。だとしたら、不治の病なので駆除必須です。


 そんな彼も諸国連邦に所属する他国の王族や貴族達と将来の関係性を築く、この貴族学院に入学しました。しかし、そこで問題が発生します。


 彼には友人ができなかったのです。

 この学院の規則では、著しい成績不良者は親の地位に関係なく、蔑まれてしまいます。親交を深め一生の友を得る学院ですので、バカと仲良くなるバカはいません。賢くなければ偉くなることもないだろうという考えですね。

 その辺りを無視して付き合うと、自らの格も落ちてしまうんだと思います。


 サルヴァは全く勉学の才能に恵まれていないと言います。見た目通りなので、何も違和感はなくて、私は聞き流します。友達が出来ないのも当然ですし。

 それよりも気になる事があります。



「しかし、サルヴァよ、お前の言動は最悪です。成績云々の前に、そちらで退学になるのではないですか?」


 そう、私のように!!


「俺は王族だ! 他の奴等に何をしても退学なんてならねーよ」


 何だとっ!?

 この私が即日退学だったのに、この愚かな男は謎の力に守られていると言うのかっ!?


 サルヴァは続けます。


「俺は勉強はできない。しかし、実力は示す。暴力と智力で成り上がる。友など不要だ」


 ち、智力だとっ!?

 勉強もできないと自認している上に、おっぱい好きと公言するヤツが、そんな言葉を吐く現実に驚愕しました。この男はやはり正気ではない!


「俺に楯突いたバカは久々だ。どうだ、俺と一緒にこの諸国連邦を統一しねーか」


 ……本当にバカです。

 只の荒くれ者系不良なら、何となくそんな道も有りなのかなと思わない気もしないでもないですよ。将来、実際に天下を取るのは難しいかもしれませんが、軍隊みたいな腕力重視の職業に就くとしたら、却って箔が付く可能性も御座います。

 しかしながら、彼の素行不良には性犯罪者系が加わっています。そのレッテルを貼られたら、決して英雄にはなれません。クズはクズです。



「俺が、俺の頭が悪いのはお袋のせいだと兄弟にバカにされたんだ! 絶対に見返してやる!」


 いや、お前、冷静に考えろ。

 息子が初対面の女性に「乳を出せ。味見をしてやる」なんて言っているのを知ってしまった母親の絶望感を想像しなさい。勉学が苦手なバカだと笑われた方がマシです。

 むしろ、その母親の居たたまれない心痛を考えたら、亡くなっておられるのが幸運だったのではないかと、天に感謝してしまうレベルですよ。


 結論として、サルヴァという男はやはり致命的に脳ミソが腐っていると断言しましょう。



「分かりました。お前がバカな事は心底分かりました」


「ふっ、俺の野望は確かにバカだと思う。が、お前の武力と魔法、それを手に入れた俺は一歩夢に近付いた」


 は?


「まずは、この学院を支配する」

 

「お前、マジでバカですね」


 こんな学院をどうにかしても国家は動かんでしょう。

 ……あっ、いや、この学院は貴族学院。蛮族どもにとっては、ボス猿の子供達がいるところか。生徒を人質に、若しくは言いなりにすれば、何とかなるのかもしれない。


 しかし、アデリーナ様のような冷酷な人が相手なら息子や娘など簡単に切り捨てますよ。私でも戦闘が不利になるのなら両親を見捨てます。



「クラスを掌握した後には他のクラスを制圧する。ふっ、行く行くは誇り高き聖戦と呼ばれるかもしれぬな」


 お、お前、マジで価値観が常人と違い過ぎます……。学校を支配したところで、おままごとみたいなものですよ。聖戦って、私がアデリーナ様のお父さんを殺した時くらいのでも足りないと思うんです。

 それに、こいつは重要な事を忘れております。



「……おっぱい見せろという発言は誇り高いのですかね? もしかして、この国では普通ですか?」


「なっ…………」


「マジでクソ発言ですよ。私、今まで色々経験して来ましたが、トップレベルのクソですよ」


「そ、そうか……。悪かった。最近、少し方向性を見失っていたみたいだ」


 うわぁ、これ、本当にダメですよ。

 たった今、私の言葉で我に返ったんではないでしょうか。こうなると過去の言動の恥ずかしさで死んでしまうかもしれません。念のために訊きます。


「他の女生徒にも、そんな事言っているんですか? かなり嫌われていると思いますよ」


「もう止めろっ!! 訳が分からなくなって、調子に乗っていただけなんだよ!」


 言いながら、彼はダンッと建物の壁を殴りました。拳を痛めただけで建物が無事で良かったです。


「えー、完全にお前、女の敵じゃないですか? 早く人生を終えた方が自分のために良いですよ」


 サルヴァは首を横に振ります。

 そして、唇を噛みながら、私に叫ぶのです。


「俺は嵌められたんだ!」


 また壁を殴りました。もう一方の拳も痛めたようです。壁には一切の傷が入っていないので安心しました。



 サルヴァは言います。

 彼の兄弟がここの学院にいるらしいです。そいつは非常に優秀で、だからか、この最底辺の男サルヴァを敵視していて、陥れようとしていると妄想を吐くのです。例えば、廊下で擦れ違った時も無視するとか。


 それ、何も嵌められていませんよね。嵌められた事実が一切御座いませんよね。軽蔑の眼差しさえも勿体ないと思われてるんじゃないかな。

 おっぱい発言にそいつは何も関与していませんよ。


「くそっ! どうして俺は毎日、おっぱいを見せろって言っていたんだ!」


 毎日なのかよ……。

 ガツンと壁に頭を勢いよくぶつけました。壁が汚れるので、もう止めて欲しいです。ただ、こいつの頭が粉々に砕け散れという願いは叶わなくて残念です。

 何をしても取り返しが付かないですよ。彼もようやく気づいたのかもしれません。


 ここは諸国連邦の将来を担う子息が通っているのです。その中でサルヴァは最悪な振る舞いをしていたのですから、悪名は一生残るでしょう。最早、挽回不能だと思います。



「お前、忘れているかもしれませんが、孕ませるぞとか、言葉にするのも赤面な問題発言もしていましたよ」


「ジョ、ジョアン達がそう言えば盛り上がるんだ!」


 誰だよ、ジョアン。

 さっきの取り巻きか?


「数少ない俺の理解者達なんだ! あいつらが喜ぶならと思っていたんだ!」


 知らんがな。嵌められたとしたら、兄弟でなくそいつらですね。


「もう良いです。私はクラスに戻りますね。お前がバカである事は十分に認識しました。二度と私に話し掛けないでください。バカが移ります」


「ま、待ってくれ! 俺にできることなら、何でもする! だから、俺に手を貸してくれ!」


 何でもすると言われても、私に欲しいものなど御座いませ――――有るなぁ。



「サルヴァよ、私はこの学院に入学したい」


「お前、生徒じゃねーのかよ!!」


 あー、その辺りは複雑な事情があるんですよねぇ。


「静かになさい。他人の耳に聞こえてバレたら、ぶち殺すぞ」


 ほら、堂々としていたら、生徒みたいでしょ?


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