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女子会解散

 私の日記を読み終えたのに、アデリーナ様は一向に帰ろうとしません。もうすぐ日が暮れるので早く帰って欲しいです。ベセリン爺が夕食を人数分用意すべきか悩んでしまいます。


「ヤナンカ、楽しかったよー。存外、楽しめたー。メリナ、面白いねー」


「えぇ、その通りで御座いましたね」


「本物のヤナンカもメリナの事を知っていたら、気に入っただろーなー」


 そうですね。死ぬ前にお会いしていたら友達になれたかもしれませんね。



「皆様、それではそろそろお(いとま)を頂きます。独り暮らしなものですから、夕食の準備をしたくて……」


 サブリナ、先程の日記読みの時は「あれ? もしかして、私をいじめて楽しんでいる?」と、うっすらと思いましたが、ナイスです!

 これは解散の流れが来ますよ。なので、私はその灯火を消さないようにご助力するのです。


「サブリナさん、お土産を用意しましょう。アデリーナ様、お手元のハンドベルを鳴らしてください」


「女王である私に命令するとは、相変わらず、メリナさんは礼儀知らずの命知らずで御座いますね」


 ぐだぐだ言う割りにはアデリーナ様は素直に鐘を振ってベセリン爺を呼び出してくれました。


 すぐにベセリン爺が恭しく腰を深く倒してから、部屋に入ってきます。そして、私はサブリナさんに何か美味しいものを持たせるようにお願いしました。それを受け、ベセリン爺は「畏まりました」と退出致します。



「メリナさん、ナタリアという娘をお覚えですか?」


「勿論です」


 ナタリアは不幸な女の子です。シャールの西側にあるバンディール地域に生まれ育ったのですが、役人に畑を騙し取られ、家族全員が奴隷に落とされてしまったのです。

 私やアデリーナ様と出会った時には、もうバラバラに売り払われた後でして、彼女は私の村の近くの別の村の村長の家で働いていました。

 凶暴な側面が今よりも強かったフロンに操られ、ナタリアは知らずに私に毒を盛ったりもしましたね。すっごく(から)かったので、私は吐き出して、部屋に撒き散らしちゃいました。今となっては笑い話です。


 勤め先の村長さんがナチュラル、且つ、真剣に危ない人だったこともあって、現在、ナタリアは私の実家で過ごしてもらっています。自分の家だと思って気兼ねなく暮らしているかな。まぁ、お母さんが居るから大丈夫でしょうね。お母さん、底抜けに明るいもん。


 ナタリアは私の妹みたいなものです。だから、彼女が大きくなって結婚した時に、私は盛大にお祝いする予定です。そのためのお金も既に準備済みです。


 実は私は偉くて、一応のところ、一代限りではありますが公爵ですので、ラッセンなる領地を持っております。一度も訪れたことなく、また場所も王都の北にあるとしか知らないのは、領民の方々には申し訳ないと思っております。

 でも、統治の実態はちゃんと有って、知人を行政官に任命して代理統治してもらっています。そこから献上される私個人の収益は積み立てていまして、それをナタリアが結婚したときに譲るつもりでいます。喜んでくれたら嬉しいなぁ。


 ナタリアは気が弱いけど、お隣の元気なレオン君とは毎日遊んでいるくらいには気が合うみたい。まだ子供の二人ですが、結婚してくれたらお姉さん的には最高です。


 ただ、ナタリアがフロンを慕っているのが問題ですね。あの淫獣は色々と倫理感に欠けるので悪い影響が出ないように離さないといけません。



「彼女のご家族のお墓参りは終わりましたので、メリナさんにもご報告致します」


 律儀です、アデリーナ様。


「よく、そんな約束を覚えておられましたね」


「約束を守るのは私の信条ですよ。特に善良な方々のものとは。逆に、私との約束を守って頂けるのも好ましく感じております。ですので、メリナさんが嘘でも毎日、日報を付けている事は、大変に誉めて差し上げたいところで御座います。しかし、そうすると、あなたは図に乗るでしょうから決してしません」


「いや、アデリーナ様、普通に誉めましょうよ」


「そーだよー。メリナは誉めて伸ばすタイプに見えるなー」


 ヤナンカの援護もありまして、アデリーナ様のお考えが変わると大変に良いのですが。


「残念ながら、ヤナンカよ、あなたの言葉には説得力が御座いません。初代ブラナンの変質はあなたにも責任があったと断言致します」


「だよねー。はっきり言われたの初めてだけどー、そー思うよねー」


「ところで、ナタリアには変わりは有りませんでしたか?」


「特に御座いませんよ。魔法の練習をしているそうです。誰でしたか、隣人の少年と冒険者になるんだと仰っていましたね」


 レオン君ですね。ふむふむ、まだ仲が良いようで微笑ましいです。



 そんなこんなで会話を続けているとベセリン爺がノックして入ってきました。準備が整ったようでして、サブリナさんに木の皮で編んだ小籠を渡しておられました。中にはご飯が入っているのが匂いで分かります。


 恐縮するサブリナですが、ベセリン爺がうまく言い聞かせていました。頼りになる人物ですね。



 皆が立ち上がり、いよいよ私が自由を取り戻す時間となりました。私、ニコニコです。


「ではな、メリナっ! 日々、精進するんだぞっ!」


「えぇ、アシュリンさんも私の腹を撃てるくらいには成長するように努力下さいね」


「グハハ!」


 アシュリンさんの笑いながらの一撃を華麗な横ステップで躱します。遅れて強烈な風圧が部屋を荒らします。

 挨拶代わりの一撃なのでしょうが、戦闘体制に入っていなくて皮膚の魔力強化もされていない今のタイミングで喰らったら、私の土手っ腹に大穴が空いてしまいそうでした。



 皆を玄関まで見送ります。

 ベセリン爺はイルゼさんとお話をしていました。彼女が爺を脅しているのではと危惧した私は聞き耳を立てています。


「メリナ様のベッドシーツは毎日取り替えていますか?」


「はい。勿論で御座います」


「部屋の換気は?」


「掃除の際に実施しております。……何か支障が御座いましたか?」


 あー、私のベッド臭い疑惑をまだ引き摺っておられたのですね。


「二日後にまた来ます。その際にメリナ様の使用後シーツを私に渡しなさい」


「洗濯後ではなくで御座いますか?」


「同じことを2度言わせないで下さいな。私は使用済みホヤホヤが欲しいのです」


 …………もしかして嗅ぐのですか? イルゼさん、私の使用済みシーツに興味があるのですか? 私の裸を見たい発言も有りましたし……。

 気持ち悪くて身震いするんですけど。


 あと、気持ち悪いで思い出して、慌てて自室からサブリナに貰った絵を取ってきて、ヤナンカに押し付けました。


メリナの日報


 今日は色んな事があった日でしたが、屋敷にいっぱいお客様が来たのが一番印象に残っています。

 ただ、一部招かざる客もいました。それは誰だか分かりますか、アデリーナ様? ヒントは母音から始まる名前の人ですよ。また、とびっきり偉い人です。分かりますか、アデリーナ様? 金髪ですよ。分かりますか、アデリーナ様?

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