魔法陣に到達
竜の巣という地名だからでしょう。あの後も何匹か竜が出てきました。しかし、全て出現と同時にぶっ殺しています。
竜って卵生だと思っていたのですが、何もない空間から魔力だけで現れるものなのでしょうか。
また、何らかの意図があるかのように、私達を邪魔する感じで現れます。これは、もしかして侵入者を排除するための罠だったのでしょうか。
まぁ、些細なことです。気にしません。
さて、いよいよ、魔法陣に近付きました。また緩やかな坂を下っているのですが、魔法陣と思われるオレンジ色の光が進路方向にうっすらと見えます。
「いよいよね、メリナ」
「そうですね」
ここも涌き水が足下を流れていて滑りやすいです。転げないように注意しながら、それでも私達は急ぎます。バーダが寂しく待っているかもしれませんからね。
通路は大きな空洞にぶつかって終わっていました。気付いた私が立ち止まった時に、パラパラと地面の小石が下に落ちていきます。
そうです。空洞の中程に出ていて、そこから先は絶壁なのです。深い底を覗くと、大きな魔法陣があり、複雑な文字が回転しているのが見えます。
かなり遅れて石が落下した音が聞こえ、その高さが伺い知れます。
「サルヴァ、押しちゃダメですよ」
背後から覗こうとするサルヴァに注意しました。お前が転んだら、私達は全滅ですよ。
「分かっている、巫女よ。しかし、立派な魔法陣であるな」
確かに。誰もいないのに動き続けているんですね。
あっ、私、こんな空洞を知っています。王城の地下で見ましたよ。あの時は王都中の魔力がこんな感じの空洞に集まって、王様が大きな鳥になったんです。同じ仕掛けでしょうか。
「メリナ。あなたの竜に何の魔法か尋ねられる?」
そうですね。
ガランガドーさん、見えますか?
『うむ。主の視界を通じて、我も把握しておる』
うわー、頭にガランガドーさんの声が響きます。私の感覚まで共有しているので、何だか体を乗っ取られた感じです。つまり不愉快です。
『魔力吸収の魔法であるな』
吸収ですか? あの捕縛魔法みたいな感じ?
『そうであるな』
全然、そんな雰囲気はないですよ。魔力の動きも穏やかですし。
『地中に何かが埋められておる。それを吸っておるか』
めんどいですね。バーダもいませんし、諸とも破壊しますか?
『むっ、主よ、あれは何だ?』
ガランガドーさんの指摘がどれかは分かりませんが、私の視界の中に何かが有るのか? でも、分からないですね。
地面とその上でくるくる回り続ける魔法陣くらいです。あと、壁。
「魔法陣以外に何か見えますか?」
困った私はサブリナとサルヴァに尋ねます。
『扉がある』
ガランガドーさんが補足しますが、見えませんよ。
「扉だそうですが、どこに有りますかね?」
「私には見えないかな」
ですよね。私も同感です。
「俺に任せるが良い」
サルヴァが私達を押し退ける様にグイッと前へと出ます。
「このバカ、危ないでしょ」
「危険な仕事は俺が引き受けようぞ」
いや、お前の行動が危ないつーてんですけどね。私とサブリナはサルヴァの後ろへと移動しました。
『主よ、底との中間にあるではないか』
えー、ないですって。でも、一応は一番前で見ているヤツに伝えますか。
「サルヴァ、真中に扉があるそうですよ」
「分かった。むっ、よく見えん――」
無謀にも彼は直立したまま覗き込んでいたのです。そして、何故か真下を見ようとして、自然に前傾姿勢になったのでしょうね。
そのままバランスを崩して消えました。落ちたのです。
悲鳴がなかったのが、逆に怖いです。
「メ、メリナ! どうしよう!!」
「落ち着いて下さい。大丈夫です。誰も見ていないから怒られないです! サルヴァは行方不明で処理しましょう」
「そ、そうじゃなくて! 早く助けなきゃ!」
いや、あの高さだと絶対に死んでますよ。ぐちゃっぐちゃで御座います。見たら今晩のご飯が不味くなること、間違いなしです。
人ってあっさりと死ぬんですよね。
気持ちの切り替えって大切です。だから、もうお星様になったサルヴァの事を考えるのは止めましょう。
「サルヴァ殿下ー!」
サブリナが下に向かって叫びます。
しかし、声が何重にもなって響くだけで返答は有りませんでした。
「殿下ー、でんかー、でんがぁ」と変化していくのがちょっと面白くて、思わずニヤリとしてしまいますね。
なので、私も呼んでみます。
「死んでたらお返事お願いしまーす!」
うふふ、「しまーす、しまーしゅ、すまーぅ」って段々小さくなっていきます。凄いなぁ。自然の神秘ですね。
「メリナ! サルヴァ殿下の姿が下に有りません! 魔力的にはどうですか!?」
腹這いになって穴の底を見ていたサブリナが私の顔を伺います。
サブリナさん、凄いですよ。服が水で汚れることも躊躇していません。うんうん、サルヴァもあの世で満足でしょう。
しかし、魔力的にですか。中々に良い着眼点ですね。私が魔力感知を使えるとサブリナさんは知っていましたか。どうしてだろう。
解放戦線絡みですかね。アバビア公爵邸に私に関する資料も有りましたものね。
「あれ? サルヴァ、居なくなっていますね。死体っぽいのも感じないです」
「居ないの?」
「はい」
ガランガドーさん、状況が分かりますか?
『扉を通ったようだ』
扉? 通った? あいつ、落下したんですよ。あっ、上向きに開いているのか。
『見えぬか?』
目ではそうですね。
「サブリナ、扉が見えますか?」
「……あれかな……?」
サブリナが指したところの地面が揺らいでいました。いや、違うな。底に着くまでの途中の空間に何か半透明のものがあるようです。
一度気付けば、魔力的にも何かが有るのが分かりました。
悔しいですが、私の魔力感知の能力がガランガドーさんより劣っているため、底の魔法陣の魔力が多すぎて、目で認識するまでは魔力で判別できなかったのだと思います。
「飛び降りましょう!」
「いやいや、サブリナ、待ってくださいよ」
私は地面を蹴って、石ころを落とします。しばらくして、落下音が小さく響きました。
「ほら、死にますって」
「でも、サルヴァ殿下は消えていますよ!」
「ガランガドーさんに確認しますね」
どうですか? サブリナさんが死にたがっているのですが、良い説得の文句は有りませんか?
『主よ、飛び降りるが良い。恐らくは異空間への門である』
えー、乙女の純血占いで懲りているんですよ。また時間の流れが違うところだったら大変です。日記を埋めるのが。
大体、お前は遠くにいるにも関わらず、主人に飛び込めとは良いご身分ですね。
「メリナ! 急ごう!」
……サブリナは意外に熱血です。逸りに逸っています。本日の死者が二人になってしまうかもしれません。
困りました。が、私は天才です。この短時間で最善手を思い付きました。
体内に秘蔵していた魔力を表に出して、コネコネ。ミニチュアガランガドーさんを作りました。
『……主よ』
流石、私のガランガドーさん! ちゃんと私の願い通り、こちらの体に意識を持ってきましたね。
『仕方なかろう……。主は言っても聞かぬ』
では、行ってらっしゃいませ!
私はガランガドーさんの尾っぽを掴み、穴の中へと放り投げました。
『主よぉ! 我、投げなくても行ったのにぃ!』
叫び落ちるガランガドーさんは途中で消えました。




