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学友と

 今日はお弁当を2つ持ってサブリナのお家を訪問します。貧乏生活を強いられているサブリナが空腹で倒れないようにとの配慮です。

 もちろん、バーダの様子は確認済みでして、今日も元気です。ガランガドーさんが戻ってこないのが気掛かりですが、照れ臭いのでしょうか。私が呼んでも言い訳してばかりです。あいつ、ダメ野郎ですね。



 ドアノッカーを叩いてサブリナさんを呼び出します。今日も頬に絵の具を付けていますが、それは毒ではないでしょうね。大丈夫かなと心配します。



「おはよう、メリナ。今日はどうしたの?」


「お詫びです。ほら、サブリナはうちのガランガドーの粗相の尻拭いをしてくれたじゃないですか」


 そうです。

 ガランガドーさんはちょっと調子に乗って、ハッシュカなど5か国を壊滅状態にしたのです。その為に解毒剤を持って、サブリナはショーメ先生と各国を回ってくれました。あれ以来お会いしていなかったので、様子伺いの他にお詫びもしておこうと思ったのです。


「まぁ、ありがとうございます。でも、そんなお心遣いは不要でしたのに。どの国もハッシュカみたいな酷い惨状ではなかったんですよ。黒い竜に襲われたのは間違いないんですが、皆さん、竜の毒には犯されていませんでした」


 ふむぅ、ハッシュカでは瀕死の状態で多くの人が倒れていました。あれは、ガランガドーではなく腐竜の仕業だったのか。


「私とショーメ先生は2個目の国でハッシュカに戻りましたが、一緒に来てくれていた兵隊さんは他の国も見てくれて、後日、教えてくれました」


 うんうん、良かったです。ハッシュカではたぶん死人は出ませんでしたが、すぐに助けにいけない他の国では危ういと思っていました。ガランガドーさんが悪逆非道な竜に堕ちるのは避けられたみたいですね。



「私からもお詫び致します、メリナ。解放戦線に協力していたのは事実でして、シュライドにいるお父さんからナーシェルの動向を調べるように言われていました」


「え? いえ、大丈夫ですよ。お気になさらずで」


 だって、ナーシェルが滅んでも私には関係のない事ですから。むしろ学院を粉々にぶっ潰して欲しいくらいの想いです。

 逆に、内戦でテストどころではなくなった現状は望ましいです。


「メリナは本当に懐が深いです。王国の方は血も涙もない冷徹な人ばかりだと思っていたのに。聖女のイルゼさんも気さくで、私、とんでもない思い違いをしていました」


「いいえ、安心はよくありません。アデリーナ・ブラナン国王は冷血ですよ。澄ました笑顔で人を殺せます。あいつ、とっても怖いんです」


 そんな会話をしながら、私は席に着きます。ここに座ると、いつも雑草のお茶が出てくるんですよね。今日もちゃんと湯気を立てた焦げ茶色の液体を淹れてくれました。

 私もバスケットからお弁当を出して、ちょっと早めのランチと致します。



 パンを手にしながら、サブリナさんと話をします。


「サブリナはまだ解放戦線に入っているんですか?」


 確か、今は組織を乗っ取っていて、タフトさんがリーダーになって、ショーメ先生が影のボスなのです。今までの指導者だったアバビア公爵はタフトさんの下になったはずですね。


 あら、このパンの中にはジャムが入っています。諸国連邦の人は高価な砂糖を簡単に使ってきます。


「……はい。正直、デュランとの繋がりはショックでしたが、ショーメ先生はブラナン王国から出された対等同盟の密書を見せてくれました。私はそれを信じます」


 密書ですか……。ショーメ先生経由だとアデリーナ様本人の物でしょう。しかし、この諸国連邦とシャールの距離は聖女イルゼさんの転移魔法じゃないと、短時間では移動できないと思われます。だとすると、聖女の街デュランの影響力低下について、イルゼさんが協力する形になっているのですが、イルゼさんが知らずなのか、敢えてなのか、少し気になります。

 イルゼさん、出会った頃みたいな抜け目のなさが無くなってきてますもんねぇ。苦労し過ぎて、思考能力が落ちてきているのかな。


「危なくないですか? もうタフトさんとかショーメ先生とか、大人に任せた方が良いですよ」


 手にしたフォークを下ろして、サブリナは頭を横に振ります。


「諸国連邦は素晴らしい故郷なんです。小さな国の集りだから貧しいですが、私はより良くするために生きたいんです。贅沢は要りません。でも、お腹を空かせて子供が死ぬみたいなのは見たくないんです」


 そうですか。サブリナさんが続けると言うのなら、私はもう止めません。


 私はガスッとお肉にフォークを刺して口に運びました。




「そう言えば、サブリナのお父さんは内戦で負傷したりしませんでした?」


「大丈夫です。前線には出てきていなくて、シュライドで働いていましたから。昔は戦士だったんですよ」


 良かったです。クーリルの戦いの後は大変な事になっていたと聞きましたから、巻き込まれなくて本当に安心です。


「戦場には兄が出たらしいです。長く旅に出ていて、全然出会ってなかったけど、手紙だけでも消息が知れて良かった」


 サブリナさんは葉野菜を口にしました。


「そうなんですね。もちろん、内戦でも無事なんですよね?」


 私も大根スティックをガリッと歯で砕きます。薄目の甘味が美味しいです。


「うふふ、メリナは優しいですね。えぇ、手紙は兄からでしたから生きてます」


 可愛い笑顔でした。サブリナさんは髪が水色なのもあって、清潔な透明感のある人です。絵のセンス以外は非のない人ですよ。



「さて、そろそろ帰りますかね」


「えぇ、ありがとうございました。また学校で。でも、いつ学校が再開するのか分かりませんね」


「そうですね。困ったものです」


 本当は困っていません。このまま授業のない日が続けって願ってます。



 そんな時、ドアが激しく叩かれます。

 ドアノッカーとは違う音で、どうも手で殴っているみたいです。とても迷惑ですね。


 私はサブリナと目を合わせます。緊張した面持ちで頷かれたので、私は表の誰かを殴り飛ばして良いとの許可を得たと判断しました。


「サブリナ! 助けてくれないか!?」


 あっ、この濁った太い声はサルヴァですね。


「バーダが!! 巫女に世話を任された竜を探して欲しいのだ! 頼む!」


 何ぃ!!

 バーダに何が有ったと言うのですか!?


 私は憤怒の顔で扉を開けました。

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