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昔ばなし

 絵本を開けると、一枚目は黒塗りに黄色い文字だけでした。



 ある日、夜明けが無くなりました。

 ずっと夜なのです。


 お城の偉い人や学校の賢い人がいっぱい調べましたが、理由は分かりません。


 太陽が出ないと花も咲かずですし、松明がないとお互いの顔も見えません。だから、皆の心も沈んでしまいました。


 

 何枚か捲った所には、コミカルな絵柄でツバの大きいとんがり帽子を被った女の子が書かれていました。



 そんな真っ暗な中、一人の魔法使いが現れました。魔法使いは言います。空に何かが浮かんでいるって。


 皆で空を見上げます。でも、何も見えません。真っ暗です。お星様も有りません。



 ドンドンと頁を進めましょうかね。



 魔法使いは火の玉を空に作りました。でも、光が足りません。空は暗いままでした。

 皆は嘘をついた魔法使いを追い払いました。



 それから、また、たくさんの人が倒れました。お城のお姫様もベッドで眠ったままです。

 そんな時に、あの魔法使いが戻ってきました。今度は大きな白い竜を連れて。

 その竜はたくさん松明を焚いても全部が見えないくらい、山のような大きさです。


 魔法使いと竜は力を合わせて、とても大きな火の玉を空高くに打ち上げました。



 そうすると、見えたのです。空に浮かぶ女の顔が。その女は笑顔でした。でも、笑ったまま、表情が全く動きません。とても不気味です。



 魔法使いは言いました。

 あれが太陽を食べているのだと。



 でも、皆は心配していません。その魔法使いが退治してくれると言ったからです。

 それに新しい火の玉が、まるで太陽の様に世界を照らしているのです。少し皆に元気が湧いてきました。



 光に当てられた、空に浮かぶ女の顔は、焼かれたように苦悶の表情を見せました。そして、初めて口を動かします。

 そうすると、蜘蛛やムカデが雨みたいに降ってきました。それらは家や人を齧り始めます。


 それを魔法使いは風で吹き飛ばします。地を這う物は竜が食べます。



 次に、空に浮かぶ女の目から涙が溢れます。それは草木を枯らし、家や人を溶かしました。


 それも魔法使いは風で吹き飛ばします。地に落ちた物は竜が飲みます。


 その様子を見ていた空に浮かぶ女は怒り顔になりました。すると、その髪が伸びて、一本一本が蛇になります。


 魔法使いは雷でその大蛇を一匹一匹倒していきます。竜は纏めて焼き払います。



 最後に、魔法使いは光る矢を放って、空に浮かぶ女の額を貫きました。




「光る矢……」


「どうした、メリナ嬢?」


 このメリナ嬢っていう呼び方は何だか気障ッぽく感じる時がありますね。変な呼び方を改めないと女性に嫌われますよ。


「私の苦手なヤツと同じ魔法だなと思いまして」


「よく見る魔法ではないか」


 そうなんですかね。でも、光る矢はアデリーナ様の得意技なんですよねぇ。



 世界は明るさを取り戻します。でも、それは一日だけ。また明けない夜がやって来て、空には女の笑顔が浮かびます。


 魔法使いは白い竜の背に乗って、空に浮かぶ女と話をしました。何故に皆を困らせるのか知りたかったのです。



 女は言います。

 明るいのは怖いの。


 魔法使いは言います。

 皆は暗いのが怖いの。


 女は返します。

 皆って何?


 魔法使いは答えます。

 人も木も羊も。


 女は寂しく呟きます。

 蝙蝠も蟻も土竜も困ってないよ。


 魔法使いは困ります。

 だから、女の目に光る矢を突き刺しました。両手で両目に。



「中々の超展開ですね。この魔法使い、言い負けたからって酷くないですか。極めてデンジャラスな人ですよ。こっちの顔だけ女の人に同情しました」


「あぁ。実は色々なパターンがあるのだが、学者によると、これが一番実話に近い伝承らしい」



 女は怒ります。

 魔法使いは平気な顔です。

 でも、このままでは地上が更に荒れ果ててしまいます。


 白い竜は慌てて言いました。

 目が無くなったから、真っ暗になれたね。良かったね。



「いや、本当にバカにしてるでしょ?」


「竜は知恵者ではないか」


「こんなの目を刺された人が言われたら、激怒ですよ」


「そこは物語の作りだろう」



 女は騙されませんでした。



「ほら!」


「メリナ嬢、静かに。ここは図書室だ。あのバカと同じように叱られるぞ」



 女は顔だけでなく体も見せました。

 とても大きくて、山のような白い竜と同じくらいの大きさでした。そして、体も竜なのです。



「人面のドラゴンですか。この絵、滅茶苦茶怖いんですけど」


「異形だからな。絵で見ると、より引き立つ」


 

 長い戦いが続きますが、最後は魔法使いの光る矢が女を何回も貫いて、勝ちました。

 柔らかい日差しの中で、皆が喜んでいる姿で締められています。



「この太陽を食べていた女が闇の邪神なのでしょうが、何だかスケールが小さいですね」

 

「これは絵本だからな。もっと(むご)い話も伝わっている」


 そうかもしれませんね。歴史の暗いところは表に出にくいのです。昔、王都の情報局の書庫で読んだ書類も嫌な感じでした。



「で、これは何年くらい前の話なんですか?」


「ふむ、伝承によると二千年――」


「うぉー! 巫女よ! 可愛いペット飼い方辞典が出てきたぞぉ!!」


 黙れ。そこに竜が載っているとでも思うのか。

 しかし、二千年前。聖竜様が地上に居た頃と同じか。これは、ひょっとしたらひょっとしますね。

 諸国連邦のどこかに聖竜様の痕跡があるかもしれない。それをネタにして思い出話を聞きながら、私と聖竜様の絆を深める未来を想像すると、大変に興奮します。

 蟻のような薄汚い虫なんかを観察している場合では御座いませんね! 私にはそんな暇はないのです。



「なんと! 竜の好物は人間らしいぞ!!」


 バカが叫びました。

 しかも、載ってたのかよ。でも、それ、良くない情報ですよ。

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