図書室
皆の案内のお陰で、図書室へはあっさりと辿り着きました。
なんと職員室の真上のフロアでして、レジス教官を追う形になりました。彼も手伝ってくれると言います。
しかし、メリナ、ビックリしました。だって、レジス教官は「メリナ、俺が良い教師だとショーメ先生に絶対に伝えてくれ。絶対にだぞ」と熱く想いの丈を語ったからです。それ、もう絶対に良い教師じゃないですよね。下心満載の烙印を押されますよ。
さて、図書室の扉をガラガラと横に開けます。本っていうのは独特の匂いがしますね。これは紙に由来するのか、インクに由来するのかは知りませんが、本当に気持ちを落ち着かせる芳香だと思います。
手前側に小さなカウンターがあって、司書の人が座っています。実は神殿にも図書館が有ったんですよね。アシュリンさんが一切そういった事を説明しないから、寮の同室の同期から聞くまでは存在を知りませんでした。
私、実は昔から本好きなんです。ナーシェルに来てからは蟻さん観察に力を入れていますが、神殿にいた頃は夕食後は読書タイムだったんですよ。お父さんが本をよく読んでいた影響かもしれませんね。
バーダちゃんを空いている机の上に置きます。動かないように言い聞かせましたが、人語を解すか疑問ですね。大丈夫かな。
あっ、また、きゅーきゅーって鳴いているの、可愛い。ずっと見ていられますね。あっ、こらこら歩いたら机の縁から落ちますよ。
「ヨッシャー! 探すぞ! 探すぞっ!! ダーバの飯を探すぞ!」
静かな空間だったのに、サルヴァのバカが叫びます。だから、司書のお姉さんに早速叱られていました。一応は王子なのにきつめに怒られています。サルヴァが逆上して暴力に訴えないか注視していましたが、それは大丈夫そうでした。
「では、メリナ。私は魔物コーナーを見て参ります」
サブリナさんは水色の長い髪を少し揺らしながら、奥の本棚がいっぱい有るところへと歩いていきます。他のクラスメイトも同じです。10人くらいいますが、彼らも各々、それと思うところへ向かったのです。
私の期待の星は、やはり、あの賢そうな髪型をした男子生徒でしょう。少し以前よりおでこが広がっている様に思えて、より一層彼は賢くなったのかもしれませんね。
しかし、それにしても、ずらりと並んだ本棚の列は壮観です。図体のでかいサルヴァの背丈よりも、ゆうに倍の高さがある本棚をぎっしりと揃えています。梯子も準備されているので、それに昇って取るのでしょうね。
本って結構高価なんですよ。短い巻物でさえ金貨を何枚か用意しないと買えません。なのに、ここにある書籍はきちんと革で装幀されているものばかりでして、さすがは貴族の学校だと初めて思いました。
「メリナ嬢、待っていたぞ」
不意に背の高い男性から声を掛けられました。誰だと思ったらオリアスさんです。こんな所で出会うなんて、本当に奇遇です。
キリリとした端正なお顔と金髪のサラサラ髪が女子受けしそうですね。
「急に騒がしくなったな。あの愚か者の仕業か。本当にこの学院には相応しくないヤツだ」
オリアスさんはサルヴァに対して軽蔑の目です。当然です。なので、特に訂正しません。
「ところで、オリアスさんは何をしに図書館へ?」
発言してから、私はハッと思い出します。闇の邪神についての話を聞かせてくれるという約束でした。これは、大変に気不味いですよ。
「む? 忘れたのか?」
「いいえ、私はあなたを試しただけです。もちろん、闇の邪神についてです。しかし、オリアスさんは不合格ですね。そんな返しでは乙女心を掴まえることはできませんよ。私を責めようとしたでしょう? それは絶対にダメですよ」
ナイス! 私の切り返し、グレート!
「す、すまない。慣れていないんだ……」
「良いのです。これから精進なさい。では、教えて頂きましょうか。その不遜な名前の化け物について」
少しだけ恐縮しているオリアスさんを前に、私は自分の成長を感じ取っていました。やはり多くの修羅場をこなして来ただけに、少々のことでは取り乱したりしなくなっています。
今なら、アデリーナ様の顔に向けて屁をすることさえ可能かもしれません。例えば「すみません。しかし、アデリーナ様の忍耐を鍛えているのです。感謝して下さい」と言えば、プルプルしながら怒りを堪え――ないな。半殺しにされるわ。あいつ、忍耐なんて言葉を知らないし。
オリアスさんは絵付きの本を持っていました。大人向け絵本か。お父さんが持っていた、いやらしいのではないですね。
「細かい描写が入っている物より分かりやすいと思ったのだ」
「えぇ。私も似たような本を持っています」
寮に置きっぱなしだなぁ、聖竜様の伝説の本。
さて、私はオリアスさんと横並びに座りまして、本を開きます。
「うおー! 竜の倒し方図解を見付けたぞー!!」
バカがまた騒いでいて、司書さんに怒られていました。私は無視します。そもそも倒してどうするのですか。




