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塔の上から

 塔に入って、壁に沿って作られた長い螺旋階段を登ります。先を歩くタフトさんは恐らく頂上を目指しているのだと思います。

 天井の先まで階段が続いていますので。



「メリナ嬢ではないか?」


 うん?

 部屋には何人かの兵士が居たのですが、その中の白銀に輝く鎧を着た者が私に話し掛けてきました。

 なお、まだ、ここは頂上ではなくて、階段はまだ上へと向かっておりました。

 大きなテーブルが有りますので、作戦会議をする為の部屋かな。


「私だ。オリアス・ミモニアン・ケーナだ。解放戦線が学院を襲った日に話をしただろ?」


 え?

 あー、いたいた。すっかり忘れていましたが、もう一人の友人の方と戦争怖いなー的な会話をしていた人ですね。


「お久しぶりです。オリアスさんも志願されて此方(こちら)へ?」


「俺はそうだが……。もしやメリナ嬢も志願されたのか!? 可憐で非力なあなたが何故に!」


 非力だと? お前より遥かに強いんですけど。


 あっ、でも、そうか。解放戦線に襲われた時に、ショーメ先生の意向で、私は全く本気を出さなかったんですよね。ダグラスとかいうおっさんに羽交い締めにされても無抵抗だったんです。それを覚えていたのか。



「…………こいつが非力? 何の冗談だ」


 メンディスさんが少し笑いました。続いてタフトさんが話し掛けます。


「ケーナのオリアス王子ですね。すみません、ご学友の力が必要ですので、協力して貰っています。時間が有りませんので、私達は先に進ませて頂きますね」


 オリアスさんはメンディスさんとタフトさんに気付いていなかったようで、慌てて返します。


「申し訳ない。メンディス殿下、挨拶が遅れたことを謝罪する」


「良い良い。俺は常日頃から形式張った挨拶は遠慮している。さて、時間がないのは本当だ。俺からの挨拶も無しで良いな」


「オリアス殿下も今日は戦場でしょう。お互い、諸国連邦の名誉のため力を尽くしましょう」


 メンディスさんが更に階段を上ろうと進まれたので、私も続きます。一応、オリアスさんにもペコリと頭を下げました。



 いやー、しかし、あれですよ。メンディスさん、タフトさん、オリアスさんと、皆、整ったお顔です。神殿の礼拝部のお姉さん方がご覧になったら、キャッキャッうふふの展開になりそうですね。



 あっ、そんな事を考えたら、礼拝部の事を思い出しました。

 礼拝部では、月に一度、聖竜様に舞を奉納するのですが、王国の各地から貴族様や大商人がやって来るのです。しかも、かなり高額の観覧代を支払って。


 聖竜様の魅力って凄いなぁって、当初の私は思っていたのですが、あれ、舞を踊っている礼拝部の方々を観に来ていたんですよね。


 礼拝部は神殿を支える屋台骨と聞いたことがあります。どうも観覧者が気に入った巫女さんを嫁として身請けしているみたいでして、結納金的なお金が神殿にたんまり入るんです。

 もちろん、誰と結婚するかしないかは巫女さん本人の自由なんですが、礼拝部の方々はむしろ、その結婚のために巫女になったのではないかと思うくらいに、条件の良い男性を探しておられる素振りを感じました。


 礼拝部に所属しているのは貴族のご令嬢ばかりです。そんな事をしなくても良い結婚相手はいらっしゃるだろうにと、私は不思議に思っているんです。



「どうした?」


「お金を稼ぐのって大変だなと思っていました」


「……なんだ? 突然に話題が飛んだな」


「メンディス殿下、大丈夫で御座います。この数日、メリナ殿と共に過ごし、彼女は我らに害する者ではないと判断しております。今の発言もお戯れでしょう」


「そうか……。諸国連邦には居ないタイプの女だから戸惑う」


「ブラナン王国にも居ないと心より存じ上げます」



 石階段を私達は一歩ずつ音を立てながら進みます。その音は主にタフトさんの足音です。彼は全身を覆う形の鎧姿ですからね。足底も金属ですから、カツンカツン鳴ります。



「メリナ嬢!」


 下方からオリアスさんの声です。私は振り向きます。


「あなたも戦場に立たれるのか?」


 どうなんでしょうね。とりあえず、最後まで戦ったら、最後に立っているのは私です。


「メリナ殿は破滅的な戦争を止めるためにここに来ました。このままでは双方に恨みが残り、シュライドに勝とうと負けようと、諸国連邦の体制の維持が出来ません」


 タフトさんが代わりに答えました。



「……どの様な背景で、ナーシェルの次期王候補とその参謀が付いているのかは知らぬ。しかし、メリナ嬢を利用すると言うのであれば、思慮深いメンディス殿下の名折れだな」


 オリアスさん、メンディスさんとはかなり歳の差が開いているのに、喋り口は同じ感じなんですね。ケーナという国もナーシェルのようにそれなりに栄えているのでしょうか。


「心配するな。俺とこいつは対等の立場で取引をしている。利用じゃない」


「オリアス殿下、まずは戦場で生き残ることだけをお考えしましょう。そして、また学院でメリナ殿とお逢いされば宜しいのですよ」


「……そうだな。無礼を許して頂きたく思う」


 オリアスさんは、そのまま下へと戻って行きました。



「青春だな」


「えぇ、懐かしいですね」


「お前、オリアスと付き合っているのか?」


 あ?


「殺しますよ。私は聖竜様の物です。二度と悍ましい妄想を口にしないように」


「……あぁ、分かった……」


「殿下。オリアス殿下には私の方から説明しておきます」



 さて、塔の頂上は先程の不愉快な気分を一掃するかの如く、気持ちの良い風が吹いていました。私の長い髪の毛もサラサラと靡きます。


 広がるのは平坦な草原です。

 お互いに部隊が丸見えで、正面からのぶつかり合いになりそうですね。


 既にシュライド側の軍が遠くに着陣していました。部隊単位で真四角に兵を並べるのは諸国連邦の基本の形なのでしょう。昨日のハッシュカでも見ました。


 長槍の部隊が多く、その後ろに騎馬、歩兵。それから、例外的に横並びて、武器を持っていないのは魔法使いの部隊かな。

 そして、旗がいっぱい立っている場所が本陣ですかね。



 うーん、余裕。ここから、私の火炎魔法の一撃で壊滅できそうです。



「相手は待っているな」


「えぇ、ここでナーシェルの主力を叩いて終わらせようと考えているのでしょう」


「舐められたものだ」


「殿下を捕らえるくらいですから、実力も相応ですよ」



 私は未だじっくりと敵を確認しています。部隊の強弱をしっかり覚えるのです。で、強いのだけを叩き、その後にナーシェル側の部隊を潰すんですよね。

 メンディスさんに依頼されたのは、双方の兵隊さんの半殺しですから。



「あれ?」


「どうした?」


「いえ、強い人がいます」


 本陣の後詰って言うのかな。そこの部隊に一人だけとんでもなく魔力が多い人がいます。この距離で把握できたのですから、相当な量です。

 少なくとも腐竜よりは強い。


「分かるか、タフト?」


「どの辺りですか、メリナ殿?」


 私は指で示します。本陣の後ろであることも伝えます。


「あの旗はナワクか。小さな島国だぞ。そんな奴がいたか?」


「……いえ、ナワクにしては兵数が多過ぎますね。偽旗でしょう」


「気味が悪いな。よし、あれはお前に任せて良いか」


「はい。私でなければ抑えられないでしょう。あれが魔法使いなら一瞬で敗北ですよ」


 腕が鳴ります。

 自然と笑みが溢れてきました。

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