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死竜、再び

 私の両脇にはナーシェルとシュライドの将軍が立っています。昨夜に私が助けた人です。

 私達の前には、両軍の兵士たちの内、回復が早かった者達が、部隊毎に真四角に隊列して並んでいます。


 なお、回復が遅れた人はハッシュカの街へと馬車へ運んでいる最中です。また、かなり早めに動けるようになった人は、ガランガドーが襲った南方の街へと向かってもらいました。サブリナさんも同行していて、解毒薬を作って配る予定です。



「諸君! 我々は諸国連邦をより良く発展させるために、シュライドと共に立ち、苦渋ではあるが、同胞であるナーシェルと事を構えたのである! しかし、昨日、死竜が現れた! 諸君も世話になった、ここにいる竜の巫女メリナ殿によると、本日も死竜は、その悪魔のような強さで我々を襲う! これは諸国連邦の危機である! 陣営など関係ない! 多数の犠牲者を作り出してきた死竜。諸君の大切な家族にも、死竜の餌食となった者がいるだろう。平時であっても、死竜に怯え、民の心は休まることもない。それほどまでに死竜は我々を虐げてきた。今は諸国連邦内で戦うべきではない! 昨日の矛は収め、今日の矢は死竜に向かう。さぁ! 我らの敵は空にいる! 万代の仇敵を討ち果たすのだ!!」


 シュライド側の軍人さんが演説を終えると、目の前の集団の左半分から歓声が沸き立ちます。


 次に、ナーシェル側の偉い人が一歩前に進みます。


「君達の想うところは理解する。諸国連邦の瓦解を意図するかの如くのシュライドの裏切り。そして、それに呼応した諸国への失望と落胆。しかし! 昨日に剣を交わした彼らとて、完全に同意しての行動ではない。彼らは軍人として国の命令に従ったのみ。あの混乱の中、暴虐の限りを尽くす死竜に、共に立ち向かった経験と感謝を、私は忘れない! そして、君達よ、悲観することはない! 圧倒的強者である死竜に対応できることを、諸国連邦の先達は証明している。重要なのは人類同士での敵対を止めることであり、今一度、それを個々の心内に刻んでほしい。さて、先程、ギャバリン王国の将軍殿がお触れになった、竜の巫女メリナ殿は悪しき竜を絶つ為にここに留まると仰る。私は彼女の勇気を讃えよう。さぁ、どうだ、諸君! 健気な少女が覚悟を見せる時に、我らが取るのは臆病な逃亡か、死を恐れぬ勇猛か!? さぁ、盾を鳴らせ! 諸国連邦を救うのは私達だと証を示せ!!」


 鎧兜姿なので気付きませんでしたが、この人は女性ですね。透き通った声は音量はなくても皆に届いたみたいで、右半分の兵士達は盾に甲や剣をぶつけて、金属音を響かせます。


 最後は私です。先程の女将軍と入れ替わる感じで前に出ます。後ろの2人が跪いた気配がありました。そこまでしなくてもと、少し戸惑います。


「はい。皆さん、お疲れ様です。援護も回復も私に全てお任せください。初撃は私がやりますが、その後は全力で攻撃をしなさい。また、もしも皆さんが苦戦したとしても私が仕留めますのでご安心ください。では、気合いを入れて頑張りますよ! エイエイオー!」


「「拳王に、剣を捧げよ!!」」


 背後の2人が声を合わせて叫びます。


「ダー、ファムデジカエウグディオ!!」


 たぶん、古語です。これが諸国連邦の軍隊の格式ばった返答の仕方なのでしょう。

 私の一人エイエイオーが空しくなりました。突き上げた腕を寂しく戻します。

 あっ、あと、大事なことも伝えなきゃ。


「あー、拳王ではないのですよ。竜の巫女ですからね」


 私の言葉は興奮する兵士達には聞こえなかったみたいです。


「「展開っ!」」


 戦意が漲ったと将軍達は判断したのでしょう。その指令に従って、遠くに見える山を望む形で、部隊が草原に広がっていきます。



 むぅ、誰も私の訂正に触れないよ……。準備完了しちゃってます。仕方無いか……。広いですものね。


 さて、ガランガドーさん、起きてますか?


『むっ、主か。うむ、起きておったぞ。もう用は済んだのであろうか。何にしろ、我はそちらに向かおう』


 会話に不審な点はないですね。私の命令通りに、ガランガドーは私の意識を読まなかったと思われます。



 やがて、黒い竜が視界に入ります。悠々と空を駆けているつもりでしょう。


『主よ、弱き者どもの軍が見えるが、襲っても良いであろうか?』


 もちろん、良いですよ。でも、その一番後ろの本陣には私がいますので、気を付けてください。


『グハハ、我の攻撃で主が死ぬわけがあるまい』


 いえ、そういう意味で気を付けろと言ったんじゃありませんよ。勘付くか試しただけです。

 どうやら餌に飛び付いたようですね。



 ガランガドーは空中で止まり、ブレスの体勢に入りました。喉のところに魔力が溜まるのが分かります。



 行きますっ!!



 私は土煙を置いてきぼりにしながら、全力で走ります。


『な、何だ!? 主よ!?』


 お仕置きですっ!!!


 十分に近寄ったところで、私はジャンプ。魔力をこれでもかと溜めた足で地を蹴ったのです。瞬時で大木よりも高い位置にいるガランガドーの顔に至りました。

 長い口の上に私は立つ。



「死にさらせーーっ!!!」



 少し汚い言葉になりましたが、そのまま私は下向きの正拳突きでガランガドーの眉間を殴りました。



『グアァァーー!!』



 驚いたガランガドーは口を開いて暴れるものですから、その上に立つ私は跳ね上げられて、空中に身を投げることになりました。

 しかし、それさえも攻撃へ繋げるのが私です。


 ガランガドーよりも高い位置を取り続ける私は両手を組んで振り上げる。

 狙いは愚かな竜の脳天。


「墜っちろーーっ!!」


 渾身の一撃は直撃し、一直線に体が地面に刺さります。


 ガランガドーは失神したのかもしれません。私が落下する中で、観察しましたが、動く気配はありません。



 あとは、兵隊さん達にお任せです。思う存分に斬りかかったり、魔法や矢の的にしてください。


 私が本陣に戻ると、恭しく皆さんが礼をしてくれました。昨晩から一睡もしていないので、私は本陣の裏で寝そべってお昼寝に入ります。いや、朝だから朝寝なのかな。



『……主よ、主よ……』


 うん? うーん、何ですか?

 私、気持ちよく睡眠中だったのですよ。


『酷いではないか……。我が何をしたと言うのであるか?』


 何がですか?

 ……あっ、そっかぁ、私、ガランガドーさんを殴ったんでしたね。


 いや、何をしたって。お前、人間を何百人、何千人と虐殺しようとしていたでしょう? ショーメ先生とサブリナさんに感謝して下さい。他の街にも治療に向かってくれたのですよ。


『わ、我は主に言われた通りに殺さぬように、睡眠導入のブレスを吐いたまでである。酷い誤解を主はしておる』


 は?

 私の回復魔法さえも妨害するような代物ですよ。どれだけ手が込んだ真似をしてやがるんですか。瀕死にするにしても程度があるでしょ!


『瀕死とは言っても、我は半刻で起き上がるように術を練り上げたのである』


 あ? まだ言いますか?

 反省の色が見えませんね。もう一度お仕置きが必要だと分かりました。覚悟しなさい。



 そんな時、軍にどよめきが走ります。

 明らかな異変。ガランガドーが反撃を始めたのでしょうか。


 私は急ぎ、本陣に戻ります。


「し、死竜だ! もう一匹いたぞ!」


「で、でかい! あっちが本体か!?」


 山の向こうに、ガランガドーさんとは別の、私が倒したはずの死竜が飛んでいるのが確認されました。体が腐っていて一部の骨も見えたりしまして、完全に邪悪な存在に思えます。



『我は、あの紛い者を許さぬ……。恐らくは、彼奴の仕業で我が痛め付けられたのであるな……』


 えぇ。とんだトラブルでしたね。

 私とガランガドーさんに離間の策を仕掛けるとは、見た目に依らず、中々に知性派です。全くの偶然かもしれませんが、策士ですね。

 しかし、ガランガドーさん、これだけは言っておきます。


 私は貴方を信じていましたからね。


『ほ、本当であるか!? これはヤツを引き寄せる罠であったか!?』


 ………………そうです……よ……。


『ほ、本当であるか!?』


 うっさいなぁ。早く、あの腐りかけを倒しますよ。

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