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極秘情報

 遅れて解放戦線の隠れ家にやって来たショーメ先生達は、扉を閉めました。


 男達は倒れてはいますが、血は少ないです。サブリナさんに血の海地獄をお見せするのはよろしくないと判断して、顔面といえど、鼻っ柱や口、頬といった流血しやい部位は避けましたからね。

 目や額を中心に殴っております。一部、陥没している人もいますが、ちゃんと生きています。



「……なんと鮮やかな制圧でしょうか」


「えぇ、本当にメリナさんは凄いですね。半年前の私に伝えたいですよ。決して挑戦するなと」


「あはは、懐かしいですね」


 ショーメ先生と私が出会ったのは半年前です。当時は聖女決定戦に参加することになった私はデュランの大きなお屋敷に泊まっておりました。その時に部屋付き女中としてお世話してくれたのがショーメ先生です。あの時は、メイドさんの格好でしたね。


 で、暗部に所属していたショーメ先生は飛入り参加した私の聖女適性を見定めていたんじゃないかな。


 聖女には武力も必要らしくて、軽く殺り合ったのを思い出しました。


「それだけの能力を持っているのに、大それた野心はない。稀有な人物だと評価致しますよ。昔は推薦されたクリスラ様がご乱心になられたのだと思い違いしておりました」



 さてと、昔話に花が咲きそうでしたが、まずはここでの仕事を終えましょう。



「一人ずつ訊いていきますか?」


 なお、完全失神されている方もいますし、もう少しで立ち上がりそうな人もいます。私が手加減したのは間違いないですが、殺意なしで殴るというのは本当に難しいことなのです。


「いえ、それでは時間が掛かりますね。サブリナさん、この中で1番偉い人はどなたですか?」


「……えっ、分からないです……」


 そうですよね。ショーメ先生はどうしてもサブリナさんを苛めたいのですね。


「そこの方かしら?」


 ショーメ先生が指差した人に、タフトさんが驚きます。


「なっ! アバビア公爵閣下! 何故に! 戦場に発たれたはずなのですが!」


 今日のタフトさん、声が大きいです。

 どうやら偉い人を発見されたみたいですね。


「ショーメ先生、その人を治療して口を割らせれば良いのですか?」


「どうでしょうねぇ……。あら、欲しかった紙が有りました」


 会議で使われていた円卓の上に1枚の書類が置かれていまして、それをペロッとショーメ先生は摘まみます。



「何ですか、それ?」


「デュランから解放戦線への命令書です」


「えっ!?」


 声を上げたのはサブリナさんでした。演技を忘れてしまったのですね。


「ビックリしますよね。ブラナン王国からの影響力を排除しようとしている解放戦線が、実は王国の一都市であるデュランからの指示を仰いでいたなんて。ほんと、奇々怪々です。でも、後世の人から見ると、解放戦線の協力者はきっと間抜けだったと判断されますよね」


「そんなの、お父さんは知らないです!」


 あー、サブリナさん、遂に自分が解放戦線側であることを告白してしまいましたか。


「勿論ですよ。これは極秘ですもの。普通は知り得ません」


「おかしいです! どうして、諸国連邦を食い物にしているデュランが解放戦線を支援するのですか!」


「支援では御座いません。基礎から解放戦線を構築したのですよ。そうすることで、人民のガスを抜き、そして、新たな体制から甘い汁を吸わせて頂くのです」


 うわぁ、聖女のイルゼさんは、自分の街がこんな悪どいことをしているって知っているのかなぁ。



 ショーメ先生は後ろの書類棚から幾つかの紙束を出します。


 一つは貴族学院襲撃事件の計画書です。

 内容によれば、襲撃が成功し生徒を人質に取れた場合、ご子息の救出を大義として各国が挙兵。そのまま、ナーシェルを陥とすと有りました。また、失敗しても、襲撃を理由にご子息を帰国させ、人質化を防ぐと書かれていました。


 更に、別の新しめの書類には、私への対処方法が記載されており、竜特化捕縛魔法の術士を派遣する旨の文章に赤色のインクでラインが引かれていました。


 ショーメ先生が迷わずにそれらを選んでテーブルに並べる事が出来たのは、恐らく、デュランの暗部を首になるまでは、ここに出入りしていたからでしょう。



「……酷い話です。……で、ショーメ殿は何故にそんな極秘情報をご存じなのですか? 場合によっては斬ります」


 それは、つい先日まで、その極秘を実行させる側だったからですよ。


「うふふ。私はブラナン王国の女王より、この非道を止めるように命じられた者です。これも極秘ですよ」


 間違ってはない。寝返ったのですからね。



 ショーメ先生は気落ちというか、生気を失い掛けた様な表情のサブリナさんに言います。


「ご安心下さい、サブリナさん。ブラナン王国の女王は、諸国連邦の完全なる独立を望んでおられます」


 ……アデリーナ様か。その甘い言葉の裏には必ず悪辣な考えが潜んでいますね。


「し、信用できません!」


「する必要は有りませんよ。ただ見ているだけでも良いです」


「どうしたいのですか! 貴女方、ブラナン王国は諸国連邦をどう虐げたいのですか!?」


「先程の言葉通りです。独立を願っております。そして、友好国として今後もお付き合い致したいと女王は仰っています」


 嘘くさーい。

 さて、そろそろ、私の出番ですかね。


「サブリナ、心配しないで。私がこの諸国連邦を解放してあげるから」


 アデリーナ様の意思にも沿うなら、勝手なことをしたと、私が怒られることもないですしね。


「メリナ……」


「大丈夫、サブリナ! 任せなさい!」


「ありがとう」


 サブリナさんの目には少し涙が有りました。それに感化されたのでしょう、タフトさんも続きます。


「おぉ! ならば、このタフトもご協力しましょう! 王子もきっとそうするでしょうし」


 ショーメ先生は、満足そうな顔をされて言います。


「はい。では、今から解放戦線を乗っとりますね。リーダーはタフトさんで、私は影のボスです」


 サラッと、実にサラッと良いポジションに自らを指名しましたよ!


「サブリナさんは内乱軍との橋渡し役、メッセンジャーです」


「内乱軍では御座いません! 革命軍です! 訂正をお願い致します」


 橋渡しはするんですね。

 うーん、まぁ、サブリナが少し元気になって良かったです。


「メリナさんは戦闘員ですよ」


「えー、カッコ悪い」


「チョー強い戦闘員です」


「よりカッコ悪くなっていますよ」



 その後、私は地下室に向かってきた兵隊っぽい人達を感知しまして、速攻で薙ぎ倒しました。ボッコボコです。一匹たりとも逃がしません。

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