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興味深い

 武器を奪った教官連中が講堂の外の敵に対処してくれるみたいで、私達は暫く中で待っていました。

 その間は、傷付いた方々を癒す時間となります。私が回復魔法を唱えれば早いのですが、それはショーメ先生に止められました。なので、包帯や止血薬での治療が中心となっています。



 また、講堂内の敵が制圧されたために気持ちが緩んだのか、泣き始める女子生徒も幾人か現れます。それを慰める男子生徒達は、うん、麗しきかな青春って感じですが、人間と同じ動物である蟻さんなら、そんな弱い個体は放置してお仕事しますので、蟻さんの方が効率的で偉いなと思いました。



「メリナ嬢、どうして無防備に敵に寄った? 危ないではないか」


 この人はオリアスという名前です。さっき聞きました。朝、友人と戦場で戦いたくないと我が儘を言っていた人です。


「そうですねー」


 殺す気ではいたのですが、ショーメ先生の棒読みセリフで何らかの策を立てていることを察して、捕まってみたんですよね。正直に伝えたいところですが、先生からダグラスを逃がして泳がす作戦と聞いていますので、詳しくは説明しません。


「くはは、オリアス! お前が女に興味を持つ日が来るとは本当に思わなかったぜ」


「違う! トッド、誤解をするな。俺は女を盾にする卑怯者が許せなかっただけだ!」


「顔を赤くして怒鳴るなよ。そーゆー事にしてやるよ。しかし、メリナ、オリアスの言う通りだぜ。ノコノコ斬られに動いたのは感心しないぜ」


 ふむぅ、無性に私は腹立たしいですよ。

 私が本気を出したら、こんな国の二つや三つは余裕で消し飛ばせる事が出来るというのに、この扱いです。誰に向かって口を聞いてやがるんだって想いです。


「どうだい、メリナ? オリアスは良い物件だぜ。付き合っ――」


「すみません。私には想う方がいらっしゃいますので、先にお断りしておきますね」


 マジで死にたいのかな。

 これ以上踏み込んできたら、私は愛し愛される関係の聖竜様に面目が立たないので、こいつらを殺します。



「おっと、告白する前に振られたな」


「ち、違うと言っておるだろ!」


「良い物件なのは間違いないんだがなー」


 まだやるのですかね。もう殺りますよ?


「おい、トッド! いい加減にしろ。メリナ嬢が困惑している」


「おっと、ワリィな」


「あぁ、本当にな。では、メリナ嬢、我らは戻る」


 うむ、宜しい。オリアスと申す者、引き際が鮮やかで命拾いしましたね。



「先生! 無事か!?」


 後ろではサルヴァが片膝を付いて、副学長を介抱しておりました。私には大丈夫だと分かっていました。もう少しで復活なされます。

 

「……サ、サルヴァ君?」


 意識を戻した副学長は少し赤らめながら、サルヴァを見詰めているのでしょう。

 私は地獄絵図みたいなその光景を見たくないので、他に目を遣ります。



 さてさて、私も自分のクラスメイト達の所へと戻ります。知らない教官が代わりになったみたいでして、サブリナさんは扉係の役目が御免となり、暇そうにしていました。ただ、他の方々は各々で雑談をするくらいにはリラックスしていますね。


 なのに、私が近付くと急に静かになったのです。不本意です。如何に私が高貴すぎるからと言っても、ここまで静粛にしなくても良いのです。これでは、私が嫌われ者みたいですよ。


「ほらほら、皆さん、先程の通りにお喋りなさい」


 こんなお願いまでする破目になるとは、自分の気品の高さが怖いです。

 しかし、私の真摯な気持ちが通じて、皆さん、声を張り上げながら会話を始めました。

 うんうん、元気いっぱいで宜しいですよ。さすが、我が桃組です。



 本日のその後の授業は無しになりまして、もう下校しても良いと、完全復活した副学長が皆に言いました。教室に置いている物も取りに行くことなく、また、お迎えがない生徒は出来るだけ集団で帰れと申されます。

 解放戦線なる凶行集団に関しては、先生が軍や警吏に連絡して対処するそうです。



 指示通り、私は門の方へと向かいます。ベセリン爺の迎えは当然に来ていない訳ですから、徒歩で帰宅するしかありませんね。

 道順は覚えていますので余裕です。今日はどれだけ早く帰れるかにチャレンジしますかね。屋根伝いに直線コースを通れば、かなり時間短縮できる気がします。


 準備運動として、足首グネグネや首回しゴリゴリ、指の関節ボキボキをします。そんな時、一枚の紙が校門の横に張ってあるのが見えました。


 用務員募集

 栄えある貴族学院で、あなたの能力を活かしませんか?

 構えなくても大丈夫

 お家のお掃除、修繕と同じ感覚で輝かしい学院の歴史を一緒に作りましょう



 …………ほう……興味深い。

 …………募集要項は?



 貴族の推薦必須。生徒関連であれば尚良し

 経験者優遇

 年齢、性別不問

 シニア活躍中



 来たな、これ。

 教師なんて、私、一切興味はありませんでした。唯々、テストを受けなくて良い身分で学校に毎日来たかっただけです。

 この用務員さんならば、私の理想とする立場に違いありません。



 業務内容

 学院施設・設備などの保守管理

 校舎内外の環境整備

 学院内巡視

 その他事務

 


 くくく、楽勝です。

 神殿で鍛えられた私の清掃レベルは物っ凄いんですよ!


 採用担当:副学長



 完璧。

 サルヴァを経由すれば一発合格です。

 私は思わず、握り拳に力が入ります。早速、明日にでも応募しましょう。



「メリナ様、どうされましたか?」


 興奮の余り、紙をなめまわすように見ていた私は背後からの声にビックリしました。でも、サブリナさんです。敵では有りませんでした。


 髪に付いていた血が取れていますので、どこかで洗われたのですね。



「いえ、興味をそそられる紙を発見しまして」


「用務員募集……ですか?」


「はい。詳しくは言えませんが、天が私に与えた好機です」


「はぁ……。ところで、メリナ様は馬車をお待ちなのですか?」


「いえ、屋根を走って帰ろうかと思っていました」


「……屋根? 何だか、本当にメリナ様は不思議で御座います」


「そうですか? あっ、サブリナさん。私のことはメリナとお呼びください。私は友人に『様』と呼ばれて気持ちが良くなる人間では御座いませんので」


「……あっ、はい。友人とお呼び頂きありがとうございます。では……メリナ、あなたも私をサブリナとお呼び頂けますか」


「もちろん、よろしくです、サブリナ。さっきはお腹を貫いて、申し訳御座いませんでした」


「貫く……。本当にメリナは人間じゃないみたいです」


「えぇ、私はそういう意味なら獣人なんですよ」


「また冗談を。色々有りすぎて、どこから尋ねれば良いのか分かりません。あっ、どうですか? お時間がお有りなら、私の家でゆっくりとお茶でも如何でしょうか?」


 あら?

 誘われましたね、私。

 実は友人の家にお邪魔するのは、今までの人生で一度も御座いません。

 神殿の同僚であるシェラのご実家はシャールのお城なので、正確には訪れたことは有りますが、行事に参加したって感じですし。


「是非、お願いします!」


「お受けして頂き感謝します、メリナ」



 私達は並んで歩き始めました。お昼御飯とおやつも頂戴できそうで、私はとても嬉しいです。


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