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茶番

 おっさんとサルヴァはまだ戦闘中でした。

 だらしなく気を失っていたはずのサルヴァが立ち上がっていたのです。

 しかし、おっさんに殴り掛かっては逆襲を受け続けていて、その巨体には出来立ての痣と傷が目立ちます。



「苦戦しているようですね、サルヴァ。しかし、お前の闘志は認めましょう」


「み、巫女……。俺は、俺は愛する女も守れぬ愚か者なのかっ!?」


「守る守れぬに関係なく愚か者ですよ。何回言わすのです」


 私はサルヴァの横に立ち、おっさんを睨みます。

 ふむ、そこそこの強さ。魔力的にはシャールの騎士団でも上位レベルくらいかな。そこに加えて、体重のあるサルヴァを豪快に投げ飛ばした奇妙な技が厄介ですね。



「竜の巫女メリナ、先王と局長の無念を晴らさせて貰います」


 おっさんが言いました。言及した先王は恐らくアデリーナ様の先代のことです。彼はちょっと複雑な事情なのですが、アデリーナ様の叔父であり、兄妹でもあるという訳の分からない関係でした。故人です。アデリーナ様から彼を処刑すると聞いたのが最後の消息です。

 局長は、うーん、情報局の局長のことかな。私は知らない人です。ガランガドーさんが魔法で蒸発させていました。



「どっちの死も私は関係ないですよ?」


「あなたが居なければ、死にませんでした」


 んー、なんて逆恨みなのでしょうか。

 メリナ、恐怖です。恨むならアデリーナ様ですよ!


「お名前だけ聞いておきますね?」


「腕斬りのノクスです。情報局に所属していましたから王国を追放となり、諸国連邦に流れて来ました。竜の巫女、心より恨んでおります。永遠に輝き続ける我が祖国を破壊したのですから」


 あなたのお名前だけで良かったのに。

 私が不満を言おうとしたら、サルヴァが割り込んできました。


「ノクスとやら、お前はこの巫女に思い違いをしている。この巫女は確かに物事を破壊はするが、しかしっ! その後に事態は好転する。この俺のようになっ!」


「……認めません。安定した世界こそが万人の幸せに繋がるのです」


 万人ですか……。王都は確かに豊かでした。人々がいっぱいで、物資も沢山でしたね。

 でも、街の外れには獣人の方々が哀れな姿で、その日の食料にも困る生活をしていました。

 だから、彼の言う万人とは一部の者の事です。


「サルヴァ、こいつはお前に任せます」


「おうよ! 巫女よ、俺の勇姿を見ていてくれ!」


 いや、見ないですよ。私はショーメ先生の方に行くんですから。


「アドバイスです。お前は頭が弱いですが、肩の魔力だけは豊富にあります。殴打ではなくタックルです。それで勝負なさい。大丈夫。死んだら仇は取ります」


 嘘です。別にそんな魔力の偏りは有りませんでした。しかし、打撃系への反撃は敵の得意とするところで、腕や足を捕まれては投げられるでしょう。それを防止するだけの効果しか有りません。


「……み、巫女よ……。巫女よ! 俺にはそんな才能が有ったのか!? このサルヴァにも特別な何かが有ったと言うのか!?」


 いや、まぁ、……何です? そこまで感動されると、凄く辛いんですけど。嘘だから。



「うおおおお!!! 覚悟するが良い! これが俺の本気だっ!! 先生の痛みを思い知れー!!」


 思い込みとは不思議なものですね。

 サルヴァの叫びと共に、彼の魔力が増幅します。それも目を見張る量です。肩だけ。


 そして、間髪入れずに突進します。


 誰でしたっけ? えーと、そうそう、敵のノクスは、少しだけ驚いていましたが、すぐに構えます。

 その反応から、ノクスは魔力感知を使えるのだろうと私に推測されました。


 ふーむ。サルヴァはクズでバカですが、ここ最近は本当に心を入れ換えて素直です。

 ならば、彼にもご褒美を差し上げましょうかね。飴と鞭です。



 私は人知れず気合いを入れます。その結果、魔力が溢れ、分かる人間には鋭い殺気となった事でしょう。

 それがノクスの意識をこちらへ向ける事となり、サルヴァの攻撃を躱す動作を遅らせます。



「ぐっ!」


 おっさんの我慢声が聞こえました。

 サルヴァも考えたのでしょう。只のぶつかりではなく、下から掬い上げるように相手の顎下から肩をカチ上げていました。

 そして、宙に舞うおっさんを両手で抱き締めます。ギューッと絞っていくのですね。最後には穴と言う穴からおっさんエキスが出てくるのです。気持ち悪いです。



「では、私は行きますね」


「あぁ、巫女よ、またもや助けられた。ここは一番弟子である俺に任せるが良い!」


 ……弟子ではないだろ。

 しかし、敵はまだ残っています。サルヴァを叱る時間が勿体無い。私はショーメ先生の方へと急ぐのです。



 最初に司会と見せ掛けて、私を悪く言ったダグラスの近くは、武具を持った人間が多いです。これは、何人かの男子生徒が彼を抑えようとしたことと、それを防ごうとした敵側の人間が集まったせいですね。


 ショーメ先生なら簡単に制圧すると思っていたのですが、何をてこ摺っているのでしょう。



「ショーメ先生! メリナ、やって来ましたよ!」

  

「メリナさん、よく来て頂きました。さぁ、皆さん、もう一息ですよ」



 ショーメ先生は数人の男子生徒を前にしており、自分では戦っていませんでした。基本は睨み合いのみなのですが、敵が襲ってきたら、上やら下やら左右やらを伝えて、防御に専念しているみたいです。

 自分でサッサッと仕留めろよと思いました。


 倒れたままの副学長とレジス教官の安全は確保済みで、ショーメ先生の後ろに見えます。サルヴァもそれを知っているから、あのおっさんと闘っていたのでしょう。



「クハハ! ショーメ! 甘かったな! こいつを人質にしてやる!」


 へ?

 私ですか?


 ダグラスは私に近付いて来ました。

 剣は持っていますが、私を刺そうとする動きはなく、完全に無防備です。


「メリナさん、危険で御座いますーぅ」


 若干、棒読み気味のショーメ先生の声も響きました。


 え、これ、殴り倒さない方が良い感じですか? はっきり教えてください、ショーメ先生!



 瞬間的とは言え、悩みに悩んだ結果、私はダグラスに体を抑えられました。いや、ちょっと力を込めたら抜け出せるので抑えられたという表現は違いますね。



「やはり拳王などというのは戯れ言だったようだな! ショーメ、この小娘の命が惜しければ、土下座しろ! そうしたら、考えてやるぜ」


 もう宜しいですかね。男の息が臭いので限界で御座います。ショーメ先生にも何かの策で、こいつを生かしていたのでしょうが、私の体に触れている事は万死に値します。



「ダグラスっ! メリナ嬢を放せ!」


 私がダグラスを殺そうかなと思ったところで、若い男性が突っ込んできました。

 彼には見覚えがありまして、朝に喋った人です。名前は知りません。


 凡庸とまでは行きませんが、戦場の最前線では戦えない程度の動作です。当然にダグラスも対処を試みます。


 私はショーメ先生と目が合いました。先生はにっこりされました。全く意図が掴めず、アイコンタクトは失敗です。


「オリアス! 前から、お前はいけ好かねーと思ってい――」


 これはいけません。たぶん、ダグラスの剣の方が速いですね。私は指先でダグラスの腰の辺りを突きます。当然に皮を破りグリグリです。



「――ひっ!」


 飛び上がるように跳ねた彼の首に傍には、男子生徒の剣先がありました。寸止めです。

 これを機に他の男子生徒も戦意を失いつつある敵に襲い掛かりました。


 もう勝ちですね。


 力を抜かして倒れたダグラスから私は離れます。


「怪我はないか?」


「いえ、大丈夫です」


 助けに来てくれたらしい男子生徒に、礼を言うべきか考えましたが、特に必要はないかなと結論を出しました。私が彼の命を救った訳だし。



 あら? ショーメ先生に手招きで、私をお呼びですね。


「メリナ嬢、ここは危険だ。先生の傍へ」


「……ありがとうございます」


 腑に落ちませんが、やっぱり感謝は言わないと不自然な感じですね。



「メリナ様、お疲れ様です」


 ショーメ先生が小声で言ってきました。


「何ですか、最後の茶番は?」


「メリナ様が強すぎると知られたら、また敵が潜むでしょう?」


「えー? 私、講堂のあっち側ではノリノリで殴って来たんですけど」


「大丈夫です。ダグラスを逃がします」



 あっ、もう戦闘は終わったみたいですね。良かったです。レジス教官の股間、ご無事でしょうか。回復魔法を唱えておきますね。


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