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冒険者たち

 私は川に両足を浸けて立っています。もちろん、靴は脱いでいますよ。濡れた靴はとてつもない悪臭を放ちますので。この世の絶望を全て集めたかのような臭気です。


 さて、私が何をしているかと言うと魚捕りです。川の中を泳ぐ姿を見つけ次第、腕を入れて川原へ水ごと投げております。

 既に3匹をゲットしており、あと2匹くらい欲しいなと考えています。


 水面に私の顔が映っています。ちょっと自慢の長い黒髪も見えます。このナーシェルに来てから、女中さん達がブラッシングしてくれるので艶が増した気がします。髪に油を垂らすのって抵抗が有りましたが、良いものですね。


 ババッと今日の昼御飯を追加して、川から出ます。それから、捕らえた魚の口から木の枝を刺して、焼きました。

 塩はないですが、美味しいです。子供の頃は、よく隣の家のレオン君と遊びがてらに食べていたなぁ。

 ふと思い出して懐かしくなりました。冒険者になりたがっていましたが、彼には中々の才能を感じます。楽しみです。私も本気で戦えるかもしれない。いや、でも、子供相手には大人気ないかなぁ。せめて、今の私の歳くらいまでは我慢でしょうかね。



 さてと、それでは学長様にお会いしに行きましょう。川の水で口を漱いで出立の気合いを入れます。


 私は教師。熱血教師。汗は掻いただけ実力になると熱く説く教師になりたいです。

 良し! 自己暗示も兼ねた自己紹介ネタも一瞬で出来ました。



「よぉ、嬢ちゃん。こんなところで食事かい?」


 土手を歩くおっさんに声を掛けられました。進行方向から考えると、街へと戻る途中なのでしょう。よく見たら、3人くらい彼の仲間っぽい人を連れていました。

 おっさんの頭はツルツルでして、そこまで輝いていると頭を使ったからハゲているのではなく、毛が生える力さえも筋力に割り振る運命にあったのではないかと思えました。彼の図体がデカイってのもそう感じた理由でしょう。


「はい。はしたない姿をお見せして心苦しいです」


 全然苦しくはないです。でも、私は淑女ですので、どう答えれば相応しいかを知っております。



「もう食べ終えたなら、早く家に帰りな。さっきな、あっちの方から竜の咆哮が聞こえなかったか? やって来るかもだぜ」


 彼が指す方向は王宮の方角では有りませんでした。つまり、私の出した気合いの言葉では御座いません。


「そうなんですか……。それは怖いです」


 言葉のみです。

 むしろ、実は心がウキウキしてきました。楽しみです。竜のお肉は大変に美味しいです。竜の下腹部の干物も癖になる味でした。

 それに私は実は竜の生態というか、繁殖方法に大変な興味があります。できれば、(つがい)で来てほしい。そして、どんな感じで合体するのか、私は将来のために勉強しないといけません。


 聖竜様と私は結ばれる運命なのです。昔、約束しました。雌である聖竜様は雄化の魔法を、人である私は竜化の魔法を覚えて結ばれるのです。

 聖竜様が雄じゃないせいで、こんなまどろっこしい事になっています。


 そして、全世界を私達の子孫で埋め尽くしたいと思います。夢の国の誕生です!



 しかし、竜が迫っている様子は御座いませんでした。私の魔力感知の範囲は狭くて、それは仕方ないのですが、目視でも竜の気配は御座いません。



「嬢ちゃん。何なら俺たちが街まで送ってやる。なに、遠慮は要らないからな」


 街までって、そんなに離れてないので安全なのですが……。しかし、人の好意を断らないことも美徳です。私は彼の申し出を受けて、街へと戻ることにしました。それに、あの会議ももう終わったことでしょうしね。



 私に声を掛けた彼らは冒険者達でした。この諸国連邦の出身でなく王国の人達。遠征に来ているそうです。ただ、会話の中で知らない街の名前を言われてもよく分からないので、私は黙って聞いていました。


 女性もいまして、ロバの耳が頭に見えました。とても礼儀正しい言葉遣いで私と気が合いそうです。


 彼らは竜の巣と呼ばれる場所を探索する予定だったのですが、竜の雄叫びが聞こえたということで戻ってきたと言います。

 竜の巣なんだから、竜がいるに決まっています。雄叫びくらいは当然だと思うのですが、何を恐れるのでしょうか。



「別に竜殺しをしようって訳じゃないんだ。お宝を少し失敬できたらと考えていたんだがな」


「そうです。竜の巣は地名で、本当は竜なんていないと思っていました」


「いや、それは思えよ、エスリ」



 仲の良さそうな人達です。冒険者の方は何人か知っていますが、皆、優しくて好ましいです。レオン君も昔から冒険者になりたがっていましたが、彼らのように良い人になって欲しいものです。



 シャールと比較すると貧弱で、高さもない石作りの門を通って、ナーシェルの街に着きました。


「ありがとうございました」


「おう。またな」


 お別れです。短い間ですが、私は感謝の印として、皮袋ごと宝石を差し上げました。もう無用のものですから。


「う、受け取れねーよ、こんな高価なもん」


「気持ちですから、どうぞどうぞ」


 しかし、彼らは固辞します。とても謙虚な方々でより一層、私は感心します。

 何か欲しいものが無いかと尋ねまして、彼らは冒険の役に立つものをと答えました。


 了解です!

 私、彼らに相応しい物を贈りましょう。



「さあ、皆さん。お好きな物をお選びください。既に代金は支払い済みですし、皆さんが選ばなければ、店主が丸儲けですからね」


「お客様、ご自由にお選びください。私どもも丸儲けをするのは本意でなく、また非常に申し訳ないことですので」


 街の人に訊いてやって来たのは、この辺りで一番大きい武器屋です。私は宝石を全て出して、武具を四人分頼みました。そうすると、奥から店主が呼び出されまして、何でも持って行って良いと仰ってくれたのです。


 冒険者の方々は思い思いに選んでおられます。しかし、自分の特性を把握していませんね。


 特にリーダーのハンスさんとロバの獣人のエスリさんは普通の剣では勿体無いと思います。もっと適した物が飾ってありますよ。

 あとの二人は、んー、そうですね。特筆するものは御座いません。逆に何でも良いかな。使い慣れた剣が一番でしょう。



 見ていられず、私はハンスさんにアドバイスしました。背筋と腕の魔力が凄いから、大剣にしなさいと言いました。私の背丈ほどある長さの幅広の剣をお薦めします。


「こんなもん持って徒歩の冒険はできんぞ」


「すぐに慣れますよ。ほら、店主さんも試し斬りしてみようって言っていますから、行ってらっしゃいませ」


 渋々ですが、彼は店の中庭に向かいました。今の彼にはちょっと剣が重くて足がふらついていますが、三日もすれば走れるくらいに体内に魔力が根付くでしょう。



「それから、エスリさん」


「はい。何でしょうか?」


 この人の腕力は相当です。長袖で隠しておられるが、筋肉いっぱいなのでしょうか。

 流石の獣人ですね。恐らく、耳の他に腕にも魔力が局在しているのでしょう。


「あなたは、これですよ! これ!」


 私は大きな木槌を指します。ハンマーの部分はゴツゴツした丸形で、私の両手を回しても指先がギリギリ届くかなってくらいに大きいです。


「そうなんですか? でも私は剣が好きです」


「いいえ。絶対にこれです。さぁ、庭に行きましょう」


 彼女は私に従い、ハンスさんを追います。少し躊躇う彼女でしたが、もう軽々と肩に木槌を置いていまして、様になっております。



 ハンスさんが四足獣を模した藁人形を叩き切ったところでした。豪快な振りですが、ちゃんと地面の手前で剣の速度を抑えていました。うん、私の思った通り、使いこなせそうですね。


「き、気持ち良いな。嬢ちゃん、これ、確かに俺に合っていそうだ」


 うんうん。そうでしょ。



「エスリさんはそこの岩を叩きましょう」


「大丈夫でしょうか。衝撃で腕を痛くしそうです」


「一気に落としましょう。私が絶対的な保証をしますよ。だから、思っきりガツンと行きましょう!」


 エスリさんは巨大な木槌を振りかぶる。魔力が腕から武器へと伝わっていくのが見えました。

 そして、力を溜めて振り落とす!


 轟音を立てて岩が砕けました。

 ハンスさんも店主さんもビックリです。


 エスリさんの体内の魔力は結構な量でしたからね。相性の良い武器なら溢れて、破壊力が増すと思っていました。



「嬢ちゃん、本当に良いのか? せめて、名前だけでも教えてくれ」


「いえいえ。名乗るほどの者では御座いません。また再会できる縁を祈りましょう」


 私達は店の前で別れました。



 さて、では学長のところへ向かいますかね。まずは王宮に向かって――っ!?


 路地裏から鋭利な何かが投げられてきました。私はそれを叩き落とす。転がったのはナイフ。闘う為のじゃなくて、食事で使うナイフです。



「メリナ様、こちらへ」


 私を呼んだのはショーメ先生の声でした。


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