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大会議

 メンディスさんとタフトさんの二人は床に伏せたままだったので、長椅子に座って貰いました。まだ意識が戻っていないので、体がずれ落ちない様にバランスを取るのが難しかったです。


 色んな物が散乱している中、無事なグラスに魔法で出した水を入れまして、彼らの前に置いています。



「大丈夫ですか?」


 反応は有りません。

 なので、この空いた時間を利用して、散らかった部屋を整頓していきます。



 もう一刻は過ぎたでしょう。お腹が空いてきました。いつまで寝ているのでしょうか。

 私は二人の前に着席して話し掛けます。


「もうそろそろ起きましょうよ。お昼御飯の時間ですよ?」


「あ、あぁ、あぅ……」


 メンディスさんは呻き声しか上げていません。これでは、今日中に私を退学にすることができないではないですか。

 なお、彼が失禁しているのですが、私にはどうすることも出来ません。火炎消毒からの回復魔法という最高コンボも有りますが、焼けた服は回復しませんので。

 そんな事をしたら、大変なことになります。ポロリ事案です。



 もう一人の男に目を遣るも、剣士である彼でさえも視線を下にしたまま、口から涎を垂らし続けています。



 これはダメです。回復魔法を唱えたのに回復していないことに疑問を生じますが、その件は後日に考えることにします。それよりも大切なことがあります。



 明日はテストなのです。何としても受けることを避けたいのです。


 どうすれば良いのか。私は考えます。

 今日中に、メンディスさんに悪辣な理由で私を退学させてもらう事は無理でしょう。とても残念です。



 学院に火球をぶつけ燃やす選択肢は最後に取っておきましょう。手っ取り早く、また、確実な方法ですが、私、メンディスさんの「他人の人生をなんだと思っている」という言葉が心が響きました。

 学院を破壊してしまうと、確かに学校好きの人の迷惑になってしまいそうですね。それは良くないと思いつつも、そんな気持ち悪いヤツはぶっ殺してしまえとか、そいつのせいで私は迷惑するのだからお互い様ですねとか、そんな思いも浮かんだりします。


 しかし、やはり、初志貫徹ですよ。今日中に教師になれば良いのです。この王宮に来ているという学長を探す必要があります。



「タフトさん、貴族学院の学長さんって、どこにいるか知りませんか?」


「あ、あ、あが、あぐ……」


 全く会話になりません。しかし、私の問い掛けに反応はしました。うっすらとした意識があるのかもしれませんね。

 だから、私は彼の体の動きに注目します。口が思うように動かないならば、他の手段で私に伝えようとすると思ったからです。

 だって、このタフトは良い人だからです。


 しかし、それは思い違いでした。

 全くジェスチャーも出来ぬとはクズですね。お持ちの魔剣が勿体無いです。



 部屋を出ます。もう自力で探しますから。

 手には部屋に落ちていた宝石の入った皮袋を持っています。これは私欲のためでは御座いません。学長に会うための小道具なのです。



 私は魔力感知を用いて一人で廊下を歩いている人を探します。

 一番近いのはこいつか。私は早足で向かいます。



「こんにちはー」


「あら、お掃除は終わったの?」


 あっ、メンディスさんの部屋を教えてくれた先輩メイドでしたね。奇遇です。


「はい。先程はありがとうございました」


「そう、それは良かったわ。めげずに頑張りなさい」


「はい! 心を込めて皆に尽くします! それで、また教えて頂きたいのですが、メンディス殿下より貴族学院の学長にこれをお渡しするように命じられました。学長様がどこにおられるか、ご存じないでしょうか?」


「まぁ、そんな事を命じられたの? 私達は何でも屋じゃないのにね。学長様なら、火食鳥の間におられるわ。そこで開かれている大きな会議に参加してるのだけど、場所は分かる?」


 人がいっぱいいる場所を魔力感知的に認識しています。そこですね。


「はい。分かります。ありがとうございました」


 私は深々とお辞儀をして感謝を伝えました。


「ところで、ねぇ、あなた。さっき、魔物の叫び声が轟いてなかった? 怖いわね。最近は街までは出ていなかったのに」


 ん?

 あっ、私が気合いを発した時の音ですかね。魔力の壁を作ったから外に漏れるとは思っていませんでしたが、どこかに隙間が開いていたのかな。うっかりです。


「いえ、気のせいではないでしょうか。全く聞こえませんでした」


「そう? うーん、そうだと良いのだけど」


「それでは、私はお務めを果たしに参りますね」


 私はそそくさと彼女から離れました。



 何事もなく会議が行われていると推測される部屋の前へと来ました。


 重そうで大きな両開きの扉は、開けたと同時に中の人の視線による集中砲火を浴びそうな予感がしてドキドキします。

 私は頭に載せたパンツみたいな装飾を整えます。身嗜みは大切です。



 そーっと扉をゆっくり開けます。アシュリンさんならいざ知らず、礼儀正しいと評価されたばかりの私は音もなく覗くのです。


 でっかい円卓にいっぱい人がいました。数十人です。どれが学長かわかりません。しかし、席の前にそれぞれの肩書きが記されたプレートが置いてあることに気付きます。


 でも、よく見えない……。


 仕方御座いません。今の私はメイドさんです。用事があるように演技しながら探しましょう。


 静かに入室しました。それでも扉が閉まる音はしまして、何人かはこちらを見ます。それをお辞儀をしていなす。



 手に箒とか雑巾を持っていれば良かったのですが、今の私は宝石の入った皮袋のみです。

 それでも、誰も私を咎めることはなく、進行を続ける何かの会議に戻っていきました。なので、私は部屋を移動するように見せ掛けて、プレートを読んでいきます。

 どっかの国の大使、軍の幹部、役人さん、そんなのがいっぱいいますが、学長は見当たりません。


 部屋をグルッと一周したのですが、やっぱり居ませんでした。



「最大の問題はあの魔法の進路であったか」


「うむ、良くない方向であったな」


「良くないだとっ! 最悪と言え!」



 白熱した議論をしていますね。

 私は小耳に挟みながら、もう一周します。先程よりもじっくりとプレートを見て回るのです。



「それで、今の竜の巣の状況は?」


「先程の咆哮を受けて、監視官に改めて報告させました。活性化しているようです」


「まずいな」


 えぇ、まずいです。いませんよ、学長……。

 このままでは、明日の朝はお腹が痛くてベッドから出られなくなりそうです。



「クソ! 忌ま忌ましい!」


「到着までの時間の猶予は?」


「恐らくは一日。明日には……」


「我が国の軍は間に合わなくとも出撃致します」


「心強い申し出、ナーシェル王も喜ぼうぞ」



 私はまた扉の前に戻って来ていました。

 そのまま佇んでいます。

 これは下策ですが、貴族学院を焼失させないといけませんか。問題用紙を盗み出す選択肢は、恐らく無駄。徹夜をして答えを調べた上で、朝方には乾いた笑いに陥ると推測されます。



「国家図書館長。貴様は貴族学院の学長だったな。どう責任を取る?」


「責任ですか……? では、ブラナン王国の申し出を断るべきだったと、ナルング国は仰る訳ですな」



「居た!!」


 私は思わず、声を上げてしまいました。

 だから、部屋を追い出されます。


 でも、もう大丈夫です。学長の魔力の質は覚えました。後からでも居場所を把握できるでしょう。


 お腹が空いたので、着替えてから王宮を脱出し、近くで食料を探すことにしました。

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― 新着の感想 ―
[一言] やべーよッ、やべぇよッwww 今から先輩メイドがとんでもないとばっちりを食らう予感がビシバシ伝わってくるよww
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