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地上へ

 レギアンスは続けます。


「ヤナンカはメリナとアデリーナの2人に止めて欲しいって。素直じゃないね。でも、少し準備が整うまで待って欲しいんだけど、いいかな?」


「そんな条件を私が飲むとでも?」


 アデリーナ様が突っ掛かります。当然だとは思いました。


「飲んでくれたら、その足に憑いた精霊を外して上げる。そこだけ異質だよね。アデリーナ、困ってるんじゃないかな?」


「ほぅ……マイアを凌ぐ目か……。宜しい。その提案に乗りましょう」


 マイアさんの目云々は、たぶん、一目でアデリーナ様に掛かった呪いを見抜いたからです。感嘆の声まで発したのは珍しいと思います。

 でも、アデリーナ様ばかりズルいです。


「私も何かご褒美が欲しいです」


「褒美って……。メリナは本当に緊張感がないよね。うん、じゃあ、従者の竜を元に戻してあげようかな」


「それ、別に要らないです」


「遠慮しなくていいよ」


「いや、本当にどうでもいいんです。違うものを下さい」



 でも、レギアンスは黙って動きを止めたのです。納得いきません。私は何をモチベーションに戦えば良いと言うのですか!?



 願い事を考えていたら、アデリーナ様はぐったりしたままのふーみゃんを床から拾い上げまして、巫女長に託します。

 

「フローレンス巫女長、すみません。この猫をしばらく保護して頂きたいのですが、宜しいでしょうか」


「まぁ、アデリーナさん。他人行儀ねぇ。私は助っ人よ。そんなのお茶の子さいさいですからね」


 即座に巫女長は収納魔法でふーみゃんを消しました。その魔法は過去にオロ部長やアデリーナ様を生きたまま出し入れした実績があるので、ふーみゃんが収納先で死ぬことはないでしょう。



「どうして、ふーみゃんを?」


 巫女長という危険人物に大切なペットを預けるなんて驚きでした。


「抱いて戦う訳にはいきませんからね。ならば、一番安全な場所に避難させたまでで御座います。レギアンスは『私とメリナさんの2人で止めて欲しい』と言いました。メリナさん一人だと勝てないと告げているとも読み取れます」


「えっ、私とアデリーナ様をご指名なのに、私一人で、ですか――あーっ、アデリーナ様、もしかして私にだけ戦闘させようと思ってました?」


「勿論で御座います。メリナさんが苦戦する相手に私が参戦したところで、何の役にたちましょう?」


「相変わらずの卑劣さですね。戦わずに自分の呪いは解いてもらうつもりだったんですか? しかも、実際に戦う私は何も得ないんですよ」


「メリナさんは最強の名を得たら宜しいで御座います」


 アデリーナ様の返答にショーメ先生が微笑みを漏らしました。


「メリナ様は既に最強なんですけどね。素敵ですよ」


「いや、誉められても騙されないですから」


「はいはい。じゃあ、勝ったらシャールに戻して差し上げますから。感謝なさい、メリナさん」


 ……ふむぅ。


「もう学校行かなくて良いですか?」


「シャールにも学校は御座いますよ」


 アデリーナ様やアシュリンとかの目が届く分、シャールで通学なんて苦痛しかないですね。この世の終わりです。


「勉学に励む姿も素敵ですよ、メリナ様」


 適当にほざきますね、ショーメ先生は。



「アデリーナさんだって素敵よ。とても賢いもの。でも、おバカになることも大切だからね」


「ご忠告、感謝致します。フローレンス巫女長の様にはなれませんが、尽力致します」


 普通に考えたら、アデリーナ様は巫女長をおバカだと言いましたよね、今の。


「まぁ、うふふ、アデリーナさんは固いわねぇ。でも、素直になってくれて嬉しいわ。うん、私は結婚しなかったけど、あなた達みたいな巫女さんが子供や孫代わりね。幸せよ」


 久々に巫女長の気持ちの良い笑顔を見ました。そうです。やはり清浄で高潔な竜の巫女を纏める方なのですから、こうでなくてはなりませんよね。そのままの言動を維持して頂きたくお願いします。



 弄した策を叩き潰してこそ、完全勝利が得られるとアデリーナ様が改めて主張されまして、ヤナンカが何かをしていますが、私達は地上へと降り立つことにしました。勝てば何でも良いと私は思うのですが、レギアンスの願いでもあるようなので、異論は御座いません。



 アデリーナ様とショーメ先生は先生の転移魔法ですぐに消えます。先生の転移魔法では4人も同時に連れて行けないらしいですよね。楽をしたかったのに残念です。

 続いて、巫女長はビューンと光の弾になって飛んで行かれ、私は一人になります。



 黒い雲を足で踏みながら、私は来るときに開けた穴へと向かいました。四つん這いになって、そこを覗き込むと、やはり真っ暗な地上。この隙間から入った日光に照らされた所と、回り続ける魔法陣の光だけしか見えません。


 うーむ、高いです。魔力の階段で降りるのは手間だなぁ。


 あっ、雲の味を確かめるのを忘れていましたね。早速、破壊して口に入れます。私、小さな頃から雲って美味しそうだなって思っていました。本当は真っ白な雲を食べてみたかったのですが、この際、雨雲でも構いません。


 さて、握り潰した欠片を口に持っていきます。メリナの念願、ここに叶う。


 モグモグ。モグモグ。


 ……味しない。石みたいに固いですし、食べ物では御座いませんね。残念。



 さて、戻りますか。

 氷の槍を雲を突き通します。それから、周りの雲を全力で叩いて破壊して、下を見ます。

 うーん、暗くて分かりませんが、たぶん、地上まで氷は届いているでしょう。


 先ほど殴った所を中心にしてビシビシと遠くまで、雲にヒビが走るのを確認しながら、私は急いで、その氷の槍に抱きつきます。

 そして、一気に下降。


 大変に冷たいですが、我慢です。


 途中、急に明るくなりまして、雲が順に瓦解して落ちてくるのが分かりました。空全体を覆う雲でしたから、あの固さで地上に降り注いだら、大変な被害が発生しそうでした。


 ヤナンカのヤツめ、更に重罪を犯しましたね。と、地上で真っ先に言うべき台詞を思い付きました。誰も見ていなかったので、私が殴ったことは秘密に出来そうです。犠牲者多数でも私の責任を追求することは、異様に鋭いアデリーナ様でも出来ますまい。



 このような心配事にも関わらず、下から歓声が上がりました。

 太陽の光が再び届いたことに喜びを爆発させたのでしょう。ヤナンカの魔物と戦っている最中なのに、両手を上げたり、空を見上げたりしている連中もいました。

 黒い雲の欠片は落下の途中で消え去っているのも見えました。まるで悪が崩れるような、神聖さを感じる光景でした。


 しかし、雲の欠片が当たって死者が多数発生することよりも重大な事態に、私は気付くのです。

 今日の私は巫女服姿です。つまり、下はスカートなのです。ヒラヒラしています。

 今現在、氷の槍を抱いた状態で、つーと滑り落ちていますので、そのヒラヒラはグオーッと翻っていることでしょう。特に背中側なんて完全に裏返って旗めいている事、間違いなしです。


 パンツ丸見え。最悪です。


 この緊急事態に気付き、私は直ぐ様に氷の槍を更にもう一本、斜めに出します。そして、そちらに飛び乗り、今度はその上に両足を置いてバランスよく滑って行きました。


「拳王! 拳王様が帰って来られたぞ!」

 

 どっかのバカが叫びやがりました。その名で私を呼ぶと言うことは諸国連邦のヤツでしょう。

 シャールでは私は聖衣の巫女として呼ばれるからです。やはり諸国連邦に私の居場所はないですね。



「うおー! 巫女よ! 敵を葬ったのか!!」

 

 うっさいヤツですね。到着とともに寄って来やがりました。


「サルヴァ、黙りなさい。まだ魔物が残っているでしょ。片付けなさい」


 巨大な魔法陣はまだ周り続けているのですから、地上にいる方々もだいぶ消耗が進んでいると想像していました。

 でも、思いの外、元気ですね。


「巫女よ、俺ではまだ打ち勝つことは出来ぬ。情けなくはあるが、国に帰れば、また精進しようぞ」


 サルヴァの顔は何故か晴れ晴れとしていました。もう出会った当初の様な汚れきって腐りきった人間ではなくなったのだと私は確信します。


「剣王でさえ子供扱いされるのがブラナン王国の連中なのだ。俺が進む最強への道は険しいのだな」


 バカなのは変わっていませんでしたか。


「はいはい。その続きはまた学校で聞きましょう。とりあえず、諸国連邦の軍を後退させてもらえませんか?」


「策があるのか?」


「いえ、策って言うか、今から邪神と戦うっぽいのでスペースが欲しいんです。巻き添えで死んだりしたら嫌だと思うんですよね」


「ふむ。分からぬが、巫女の言葉は絶対である」


 そう言うと、サルヴァは大きな体に胸一杯空気を吸い込み、そして、叫びます。


「兄者! ブリセイダ! それから、諸国の将よ! 一時撤退だ! 速やかに帰陣せよ! 我らの巫女の指示である!」


 ほう、中々に響く良い声でした。


「ではな、巫女よ」


「成長しましたね」


 素直な感想です。副学長との愛がここまで彼を育てるとは恐ろしい話です。グレッグさんもシェラではなく、シェラの祖母であるロクサーナさんとお付き合いされた方が良いのではと思いました。


「ガハハ! 今の俺は拳王の名を継いだのだからな! 先程の様にまだ巫女を拳王と呼ぶ者がいるが、あと数年で俺が真の拳王となろう!」


 へいへい。暑苦しいです。



 サルヴァは去っていきました。途中、進路を邪魔をする魔物がいたのですが、見事に魔力を溜めた肩をぶつけることで、吹き飛ばします。

 あいつ、拳を使わないんですよね。それなのに拳王っておかしいと思いました。



「メリナ? 帰ってきたの?」


 あっ、お母さん……。

 サルヴァが居たということは、アデリーナ様と戦った所の近くという訳でして、お母さんも傍にいたのでした。


「うん。空に敵が居たよ」


「倒した?」


「今は準備中。今からここで戦うの」


「お母さんが手伝おうか?」


「……ううん。私とアデリーナ様で殺る。たぶん、そうしないとダメな気がして」


「そう。分かった。じゃあ、メリナが倒れたらお母さんの出番ね。カッヘル隊長! 怪我人を収容しながら撤退!」


「ハッ!」


「魔法陣への干渉も解くから、体が重くなります。注意してください」


「イエス、マムっ!」


 カッヘルさんの部隊が迅速に動き出します。それを見届けながら、お母さんが私に言います。


「お母さんの魔力は皆の代わりにだいぶ吸われたから、出番がないようにしてよ」


「うん! 頑張る!」


「期待しているわよ、私の可愛いお嬢さん」



 カッヘルさん達以外のシャール側部隊も去っていきます。アデリーナ様の指令が出ているのだと思います。



 軽く肩を叩かれて振り向くと、アシュリンさんでした。


「メリナっ! オロ部長の御前だ。ご期待に沿えるよう頑張れ」


「は?」


「骨は拾ってやるからな! 全力でやって来い!」


「はぁ」


 何ですかね。上司のつもりでしょうか。

 アシュリンさんもそのまま走って去っていってしまいました。

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[一言] もう肩王でいいんじゃないかな
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