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クズだな

 レジス教官が呼び掛けて皆は着席となりました。あと、隣のクラスの先生がやって来て、やかましいと怒られました。

 レジス教官は凄く不本意な顔をしていましたが、「窓の外を見なかったのか?」「見る訳ないだろ。仕事しろ」とのやり取りで諦めていました。


 サルヴァも戻って来て、土まみれの机と椅子に座っています。


「さすがは巫女だ。たった三日でクラスを統一するとはな。フッ、俺が見込んだだけはある」


 バカの呟きは無視です。

 しかし、こいつの取り巻き二人はどこに行ったのでしょう。登校もしないとは全く許せません。頑張って来ている私を見習って欲しいです。



 少しざわついた皆に、レジス教官が静粛にと言いました。教室の中は私が揺らす椅子の音だけになります。


「さて、まだ大切な話の続きだ。皆、色々と有り過ぎて頭が追い付かないところはあるだろうが、もう少し我慢して聞いて欲しい」


 レジス教官、体格も良いし、言葉遣いも男らしいのですが、基本は腰は低いんですよね。いやー、これは異性にモテると思いますよ。


「サブリナが言った通り、俺達はブラナン王国の国力には敵わない。兵力については、さっきのメリナの力で分かったな。絶対に正面からはぶつかれない。だから、俺達の武器は結束力だ。メリナの前で言うのは気が引けるが、ブラナン王国は各街の思惑がバラバラだ。そこに付け込んで、俺達は存続してきたし、これからも存続し得る」


 んー、確かに王国は各街の自治が進んでいます。一応、爵位は王様に任命権があるみたいですが、どんな法律を作るか、税金の使い道などは各街に委ねられています。各街の距離的な間隔も開いていて、意思統一みたいな物はないですね。


 でも、王国は負けない。ここの人達は魔力が弱いから。

 山から見た時に神殿の人たちだけで諸国連邦を制圧できるし、統治も出来るかもと思いましたが、デュランの聖女候補だった人達でも十分でしょう。打ち破るだけなら、私が空から魔法を連射すれば終わりますし。


 デュランがここを攻めないのは、それだけのメリットが感じられないからなんだと思います。いや、ショーメ先生によると、既に間接支配しているみたいでしたね。



「職員会議でダグラス先生に責められた話をしただろ?」


 ここで話題が急に変わりました。


「俺は言い返してやったんだ。『ダグラス、俺の生徒、正しくは二、三名だけだが、彼らをバカにしては良いが、俺はバカにするな』ってな」


 酷い保身に溢れた言葉だと思いましたが、三名となると、サルヴァとその取り巻きのことでしょう。


「ダグラスはそれを聞いて『ふん、生徒のせいにするとはクズだな』と」


 まぁ、そうでしょうね。レジスの言葉は教師という聖職には相応しくないですよ。仲間内の軽口として言ったとしても、生徒には伝えるべきじゃないです。そんな感覚も麻痺しちゃっているのかな。それともストレスがそんなにまで高まっていたのでしょうか。


「更に、ヤツは言ったんだ。『フェリス・ショーメ先生もお前のような無能は嫌いだろうさ』ってな」


 ショーメねぇ。どうして彼女の名前が出て来たんだろう。


「可憐なショーメ先生がそんな事を想うはずがないっ! あいつはショーメ先生をも侮辱したんだ! やるぞ! 俺達は変わるんだ! これが俺が伝えたかった大事な事だ!」


 んー、多分に私情が入り込んでいるように感じました。全然重要ではなかったです。

 それにしても、ショーメ先生、スパイとしては目立たずが良いと思うんですが、ハニートラップ的な役目をしているんですかね。



 そんな時、ガラリと扉が開きます。


「おい、レジス。うるせーつってんだろ。いつまで朝の会をやってるんだ。あ? 桃組の連中は大変だな。さっさっと教師を辞めろよ。うちの1年シードラゴン組にも迷惑が掛かっているだろ」


 言うだけ言ってから、彼は去りました。恐らく、ダグラス先生でしょう。私は後ろ姿しか見えませんでしたが、スキンヘッドでした。サルヴァに負けない背丈や背中でさえ服の上から確認できる筋肉の膨らみからして、武闘派の強面だと推測されます。


 しかし、桃組とかシードラゴン組とかクラス名なんですかね。もっと単純で良いのにと思いました。



「フッ、レジスも愛に飢えているのか。ならば、巫女よ、俺達が導いてやろう」


 普通の椅子の上で座禅を組んでいるバカがこちらを見ながら、喋りかけてきました。

 疑問があるので、渋々ながら答えてやります。


「でも、何をするって言うのですか? クラスを纏めるって、真面目に授業を受けていれば良いではないですか」


「拳王様、私に良いアイデアが御座います」


 サブリナです。水色の髪の長髪をふわりと柔らかく揺らしながら、こちらを振り向きました。但し、私からは机にほぼ隠れています。


 ちょっと見え辛いので、私は安楽椅子を激しく前後させて、机の影から出てサブリナさんが確認できる位置に移動しました。こうやると、ちょっとずつ動けるんです。凄いんです。


「来週はテスト週間で御座います。皆で――」


 あー、黙れ。


 理解する前に体が拒否反応を示したのでしょう。テストには良い想い出が御座いませんから。過去に受けた時は乾いた笑いしか出なかったのですよ。


 気付いたら、引き出しから取り出した生肉をサブリナの顔面にぺちっと投げ付けていました。


 それから窓から飛び下り、空中回転を数度して着地致しました。

 下が花壇なので足が土にめり込み、衝撃が緩和されて良かったです。


 そのまま、メリナ山へと走りました。お弁当のお肉は勿体無いですが、これは仕方ありません。不可抗力です。山でドングリでも拾って食べましょう。


 全く、突然にテスト週間なんて始めるものなのですね。来週は毎朝、お腹が痛くなる予感ですよ。……どうしよう……。


メリナの日報

 円周率が再び襲って来そうです。

 無理性を証明しろって迫ってくるんです。

 無理だって叫んでいるのに。それでは証明にならないのでしょうか。


 しかし、この日記を書いている最中に、私は思い付いたのです。

 テストを受けなくても怒られず、かつ、学校にも堂々と通う方法を。

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