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デンジャラスの挑戦

 倒れた生徒が退場するのを待ちます。

 残った生徒はほんの数人です。大きな怪我とかはされておられないのですが、爆風で思わず地面に伏せたり手を付いた方が大勢おられたのです。


 あっ、太鼓を叩いていたのはエナリース先輩とアンリファ先輩ですね。体に固定していた太鼓を肩から外しているのが見えました。先輩達も風圧にやられて転げてしまったのでしょう。戦場の外へ案内する運営の人が近付いていました。

 そんな彼女らと視線が合います。私は軽く頭を下げました。



「メリナー! 頑張ってー! でも、うちのショーメ先生も負けないよー!」


 エナリース先輩の軽やかで暢気なお言葉を頂きました。私も「ありがとうございます。頑張ります」と返しました。



「懐かれてんじゃん」


「私の人望の為せる業です」


「それ……私にも欲しいわね」


「ん? 自分の精霊にでも願ったらどうですか? 真人間にしてくださいって」


「……その結果がこれなのよねぇ。誤算もあったけど」


 フロンの呟きの意味は分かりませんでした。しかし、それを問い質す時間は無いようです。



「これも誤算ね」


 デンジャラスさんとショーメ先生がこちらを向いているのです。お二人は3対1ではなく、2対2を選択されたようです。

 謂わば、竜の巫女対元聖女とそのお付きの形になったのです。



「ショーメ先生! 私と組めばデンジャラスさんに勝つ確率が格段に上がりますよ!」


 念のために揺さぶりを掛けます。


「あら? メリナさん、後ろに控えるレジスさんもお仲間みたいですよね。それなのに、私が味方すると思いましたか?」


 チッ。ここでレジス教官の存在が邪魔になるとは思いませんでした。

 ならば、もう一方です。


「デンジャラスさん! 私と――」


 私の呼び掛けを無視してデンジャラスさんが叫び直します。


「フロンさん! こっちに付きなさい! そうすれば、私がアデリーナさんとの仲を取り持ちますよ!」


 っ!? フロンを裏切らせる!?

 その可能性は全く考えていませんでした!


 デンジャラス、あんな髪型なのに頭が切れる策士です!



「ふーん、私がアディに邪険にされたことを知ってるんだ」


 いや、猫の時と違って人型になっている時は常に蔑んだ眼で見られていましたよ。誰でも分かります。


「気に食わないババアね」


 幸運にもフロンは私との共闘を選んだみたいです。



「おおっと! どうやらメリナ様を脅威と見なした、クリスラ様とフェリスさんが力を合わせるようです!」


「そうみたいですね。でも、パットさん。諸国連邦の王族は呼び捨てだったのに、ブラナン王国の方には敬称を付けるのはどうかと思いますね」


「あっ……。これは失礼しました! 何分、私もデュランの人間ですから、無意識に呼んでおりました。これからは平等に、呼び捨てとさせて頂きます」


「ご配慮、感謝致します」


「しかし、速い! クリスラ――いえ、デンジャラスはともかく、フェリスは凄い速度です! 先程のフロンの動きにも勝るにも劣らずです! 前職はメイドだったと言うのに、非凡な才能が諸国連邦で開花したのか!?」


「ん? ショーメ殿は武人ですよね? 先日、私は彼女の腕前を見ましたよ」


「えっ! そうなんですか!?」


「えぇ。とんでもなく強いです」


「衝撃の事実が発覚しましたが、フェリス・ショーメ! 彼女は王国最強と名高いメリナに届くのか!?」



 既に間合いを詰め終えた私達は、激しく殴り合っていました。今回のルールは転んだら負け。なので、すっ飛ばした方の勝ちです。

 拳が唸り、脚が轟きます。私の蹴りはデンジャラスさんにギリギリのバックステップで躱され、カウンターで鉄器が装着された彼女の拳が私の鼻に迫ります。完全に見切り、私は顔を振って避け前進。そのまま、おでこで頭突きを喰らわします。

 ガツンと当たりましたが、感触は弱く、衝撃を逃されたようです。


 フロンとショーメ先生もお互いにやりあっています。こちらは遠慮無く転移魔法を使っての空中戦です。どちらも気絶か絶命しない限り、地面に転ぶことはなさそうです。今もバランスを崩されて落下しそうになったフロンがショーメ先生の裏を取って反撃していましたし。



「メリナさん! 貴女もフェリスとレジスの交際を認めたいのですか!?」


 デンジャラスさん、戯けた事を仰います。

 この戦いで男性教師が優勝した場合、ショーメ先生とお付き合いが許されるという、本人不承諾の賞品があるのです。


「いいえ! 私は私で叶えるべき尊い願いがあるのですっ!」


 脇腹と見せ掛けて、肩を横から打ち抜くパンチを繰り出しながら私は答えました。


「所詮、聖竜様との色恋沙汰に関する願いでしょうに!」


 デンジャラスさんは肘を上げて私の攻撃を往なし、次いで、私の膝に向けて強烈な蹴りで襲って来ました。数ヵ月前に聖女決定戦で戦った時よりも鋭くて、あの年齢なのにまだ成長しておるようです。末恐ろしい女です、デンジャラスは。


「違います! 世界平和です!」


 間合いを詰めて、その一撃を腿で受け、私は体を回転させて裏拳をお見舞いします。もちろん、ダメージを回復するための魔法は同時に行っています。ガランガドーさんはあんな体たらくですが、魔法の発動はちゃんと行えたみたいで安心しました。


「子供でも分かる嘘を付くんじゃありません!」


 デンジャラスは姿勢を低くして、私の豪腕を避けました。


「嘘じゃないもん!!」


 膝を突き出して、デンジャラスの顔面を狙います。デンジャラスが取れる選択は土を転がってもう一度避けるだけです。私は勝利を確信しました。



 ドガッ!! と音がして鼻っ柱に当てたはずでした。

 しかし、なんと、デンジャラスは(てのひら)で私の膝を受け止めたのでした。いえ、そんなもので私の攻撃を捌けるものではありません。骨は砕けたでしょう。致命傷を免れたに過ぎません。


「若輩者どもが調子に乗るんじゃありません!!」


 デンジャラスさんが叫ぶと全身が輝きます。感情とともに体の中の魔力が暴れて、沸騰したかのように表に現れたのでした。

 そして、私の追撃に対して、到底、人間には不可能と思える軌道で後ろに真っ直ぐ跳ばれました。



 まだ続くのですね。私は深く息吹をしてから、次の乱打戦に向けて精神を研ぎ澄まします。



「す、素晴らしい攻防でした! 元聖女のお二人の能力の高さが十分に分かる戦いですね、タフトさん」


「押されてはいましたが、あのメリナさんとここまで戦える人間がいるのですか……。驚いております」



 フロンはショーメ先生に苦戦しているようです。転移魔法の能力はショーメ先生に分があったようでして、翻弄され始めていました。フロンが負けてショーメ先生が参戦して来る前に、デンジャラスを仕留める必要が有りますね。



 対峙する私とデンジャラスさんの間に入り込む影が見えました。


「メリナ嬢! 済まないが、にこやか純潔組のために倒されてくれ!」


 オリアスさんでした。サルヴァの攻撃で転倒されていなかったのですね。


 チャンスです! 彼の体が邪魔して、デンジャラスさんには私が見えないはず!

 即座に私はダッシュします。それから、オリアスの腹を強く殴り、デンジャラスさんに向けて吹き飛ばします!



 しかし、それは向こうも同様に考えることだったようで、気絶しているはずのオリアスさんが急に止まります。デンジャラスさんが間合いを詰め、オリアスさんを受け止めたようです。


 私達は白目を剥いたオリアスさんを間に挟んで殴り合います。


「早く拳を止めてください! オリアスさんが死んでしまいます!」


 と言いながら、デンジャラスの脛を叩き折るつもりで斜めに蹴りを打ち下ろし、見事に当てます。良い音がしました。


「半端な覚悟で戦場に出てきた報いです! フェリスの教えの不甲斐なさを罵りなさい!」


 私の渾身の一撃が入ったのに、デンジャラスは一歩も退かないつもりですね。手と足を折ったのです。でも、どうして、眼が死なないのですか! そんなにも、ショーメ先生とレジス教官が交際するのを止めたいのですか! そもそもお付き合いしていないのに!



「メリナッ! 聖女の地位を愚弄した件、ここで晴らさせて貰います!」


 私怨も込もっていたのですか! そして、やはり私を恨んでいたのですか!


「デンジャラースナックルゥウ!!」


 サルヴァの影響でも受けたのか、技名らしきものを大声で轟かせ、崩れ落ち始めたオリアスさんの影から光輝く腕が伸びてきます。


 目の端では、ショーメ先生に組まれたまま地面に背中を付けた無様なフロンが見えました。ここでデンジャラスを落とせなければ、一気に形勢不利!


 私も本気の本気を出すしか御座いません!


「舐めるな!! クリスラァーーア!!」


 拳の速さでは誰にも負けない! そんなプライドを知らずに持っていたのでしょう。


 私達は防御を無視して互いの頬を殴りました。自分の歯が何本か折れる、嫌な音と感触がしました。魔力で十分に硬くしたはずなのですが、デンジャラスの決死の攻撃はそれ程だったのです。


 衝撃に二、三歩後退してしまいます。視野もぼやけますが、倒れることだけは避けないとなりません。朦朧とする意識の中で、何とか回復魔法に成功します。


 対するデンジャラスもまだ立っておりました。タフさに驚きます。しかし、片足は骨折、両拳から流血という状態でして、戦闘能力は格段に落ちているのが明らかでした。

 再び殴れば倒せそうでが、手負いの獣ほど仕留めづらいか。



 ぐらつくデンシャラスは何とか片足だけで踏ん張ります。詰めようとしたら、無数の透明な炎で守備を固められました。



「もう敗けを認めてはどうですか?」


「力勝負ではやはり勝てませんでした。しかし、私は命が尽きるまで立ち続けます」


 いやー、本当にそんな雰囲気なんですよね。デンジャラス、よく考えてください。これはそんな大切な闘いではなくて、お遊びみたいなものですよ。


 困った私が時間を与えてしまったために、フロンを倒し終えたショーメ先生がデンジャラスさんの横に転移しました。


「フェリス……。私はまだ負けていません。メリナさんに勝てれば、後でお相手致しましょう」


 なるほど、私を倒す為、一時的に手を握ったに過ぎない関係なのですね。

 しかし、ショーメ先生はゆっくりとした動きでデンジャラスに肩を貸します。


「未だ主従関係を保つと言うのですか。全く……。宜しい。貴女の望みを叶えるため、メリナさんを倒しましょう」


 ショーメ先生の存在に勇気付けられたのか、一段とデンジャラスさんの眼に闘志が籠るのが分かりました。手強いですね。


「くそババア、油断したわね」


 それが転移後に初めて口を開いたショーメ先生の言葉でした。そして、そのまま無事だった足を引っ掻けてデンジャラスさんを転ばせます。



 ショーメ先生はフロンでした。

 完全に忘れていましたが、フロンは他人の体を乗っ取る事が出来ます。ラナイ村ではアシュリンさんでさえ、その術中に嵌まり、私と戦ったのです。



「終わりね」


「えぇ。さぁ、早く座りなさい。それで、我が組の勝ちです」


「はいはい。早く体を返さないと、あのバカ強いメイドに殺されるかもだしね」


 素直にフロンはお尻を付けて着座したのです。


 では、あとはレジス教官とサブリナ、それから、他の何人かの生き残りを潰すだけですね。もう赤子の手を捻るより簡単です。

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