決勝戦出場クラス
結論として、私達は勝ち抜いておりました。
校門を通ってすぐの所で人集りができていて、彼らの視線の先に掲示板があったのです。そこに昨日の結果が貼られていました。
まずは、胸を撫で下ろします。
「主よ、我のお陰であるな。褒め千切って頂こうか」
ガランガドーさんは昨日から人の姿のままです。ベセリン爺が新たな客と勘違いして館に入れようとしましたが、ガランガドーさん自身が断って、バーダと共に庭に寝転んでいました。やはり人となっても竜としては腹を下にして寝るのが落ち着くのでしょう。
ただ、私の館の庭ですので、他人に見られたら「ここの主人、男を飼ってるわ」と噂される可能性に今朝気付きました。今晩は、外から見えないように布を被せておきましょう。
「お前、よく見なさい。あの横に書いてある金貨12枚は稼いだ額を表していると思います。つまり、お前のはノーカウントです」
「なっ! 何故であるか!!」
それは私にも分かりません。
1位から順に、1年気高き桃組、2年にこやか清純組、3年ダーティビースト組で、最後が我ら1年B組でした。
「1年が2クラスも入っているのか」
「1つは拳王のところだろうが、どっちだ?」
「シッ! そこに拳王がいるぞ」
「……おぉ……」
ザワザワし続けている群衆を掻き分けて、私達は離れます。
「主よ、納得いかぬ。運営からの説明を聞きたい」
「はいはい。では、職員室に向かいましょうね」
予選敗退を逃れた私は余裕が有ります。
「メンディスさん、いらっしゃいますかね」
「ふむ、ヤツか。おるな」
腐ってもガランガドーさんは竜でして、優れた魔力感知能力によってメンディスさんの居場所を探り当てたようです。
「なっ! 我の申告した店の者が否定したのであるか!?」
「そうだな。これが報告書だ」
紙を渡されたガランガドーさんはワナワナ震えながら、見詰めていました。
「で、メリナ、この不遜な者は誰だ?」
「あれ? 見たこと有りませんでしたか? 自称が冥界の支配者っていう竜です」
「そんな大それた自称をしているヤツに主と呼ばれるお前が怖いな」
「あくまで自称ですから」
私は朗らかに答えます。内戦の時にガランガドーさんが誤って何個かの都市を壊滅させたことは黙っておきます。私までもが責められる予感がしたからです。
「まぁ、冗談なのだろう。そいつはどう見ても人間であるのだから――あの黒竜か! ハッシュカで腐ったドラゴンの化け物にお前を飛び道具の様に打ち込んでいたあの黒竜がそいつか!?」
あー、思い出してしまいましたか。
私は黙って頷きます。
「……頭が痛くなるな。人になれる竜など、そいつだけであって欲しいぞ。クソ、死竜が人になることがあれば、既存の包囲網が効かなくなる」
メンディスさんが言っているのは、諸国連邦を昔から苦しめてきた骨だけの竜、死竜のことでしょう。目的は忘れましたが、ヤナンカが企んで洞窟の中に魔法陣を作り、定期的に出現させていたのです。なんだっけな。地の魔力を吸い取るとか、そんな実験の副産物だったかな。
「ガランガドーさん、納得出来ましたか?」
「……う、うむ」
「悪いな。ルールはルールだ。お前がイカサマを見破って金を稼いだのは真実なのであろうが、店側はそんな説明を証明するはずがなかろう。あくまで公的な賭け事での報奨だと主張していた。そもそも、イカサマを見破っての金だと言われても、元手としてもゼロだから失格だな」
「主よ、済まなかった……。本日の決勝で名誉挽回と致す」
「おぉ、珍しく前向きですね。えぇ、頑張りましょう」
ガランガドーさんがしおらしくなったので、私達はメンディスさんに背を向けて退室しようとしました。
「待て、メリナ」
私は呼び止められます。
「決勝について説明しておく」
「お願いします。ガランガドーさんは教室に向かって良いですよ」
「うむ。では、我は失礼する。何であろうと弱き者共など我は歯牙にも掛けぬからな」
失格者のくせに偉そうです。
さて、私はメンディスさんに向き直しました。
「俺としては、お前に優勝してもらいたい。その為に決勝は上位4クラスによるバトルロワイヤルとした。最後まで立っていた者のクラスを優勝とする」
「バトル……?」
つまり闘い、殴り合いですか……。なんて野蛮な。ここは貴族学院ですよ。
「くれぐれも学院の行事だからな。怪我人も出したくない。だから、ルールは足以外の部分が地に付いたら負けだ。やり過ぎるなよ」
「殺り過ぎない? 3人くらいなら殺して良いんですか?」
「ふざけるな」
声がとても冷たかったです。これから同僚としてやっていきたいと言った人間の態度とは思えませんでした。
「それと、他のクラスの情報を伝える。予選トップは、お前達と同じ1年だ。クラスメイトを助けるための薬を高額で売ったようだな」
「売った?」
「売ったと記録にある」
サブリナさん、あくどい! 自ら飲ませた毒の解毒薬を高く売ったのですか!
「それ、助けられた方はメンディスさんの命令でサルヴァを煽ってバカにしていたって騙っていた奴等ですよ」
「あぁ。知っている。俺は否定したがな。愚かなことだ。その白状の為に、奴らは王子である俺やサルヴァを嵌めようとした人間だと見なされた。回復術士も薬師もその様な不届き者を相手にするはずがない。死ぬ運命であったのだ。だから、親は高価な薬に縋ったのだろう」
そこまで状況把握しての行動でしたか、サブリナはアデリーナ並に腹黒い1面を持っているのかもしれませんね。
「ただ、他に目立つ者はいないな。お前なら楽勝であろう」
そうですね。
「次に、2年にこやか純潔組だ。ここは、フェリス・ショーメが担任をしている。そいつは知っているな?」
「えぇ、メンディスさんもタフトさんから聞いているみたいですね」
「このクラスは他にもお前が知っているオリアス・ミモニアン・ケーナがいる。小国だが有能な王子だ。他にも俺の従弟に当たる、ラインカウ・テラス・アバビアもいる。まぁ、お前に掛かれば一撃だろう」
メンディスさんは言及しませんでしたが、トッドさんやエナリース先輩、アンリファ先輩も所属していることを私は知っています。
でも、やはり厄介なのはショーメです。ヤツはヤナンカのコピーと戦った際に、気配消しだとか残像だとか、敵を欺く術を使用していました。それに最後は釘で頭を打ち抜き、敵の体内で魔力を爆発させて殺すという凶悪な性格も表に出していました。ヤナンカの肉片を見ながら薄く笑ってやがりましたし。
「最後は3年ダーティビースト組だ」
ネーミングセンスがキテますね。たぶん、あいつが担任ですよ。
「どうかと思うが担任の名前はデンジャラスというイカれたヤツだ。偽名だろう」
やっぱり。
「そのデンジャラスさんですが、デュランの元聖女ですよ。タフトさんから聞いてないですか?」
「なんだとっ!?」
冷静沈着なメンディスさんが珍しく驚きました。
「どういうことだっ! 昨日、俺もデンジャラスを見たがどう見ても聖女なんて姿じゃなかった! デュランの連中は聖女を何だと思っているんだ!」
そうですよね。メンディスさんの興奮が収まるのを待ちます。
私の計画では、デュランと諸国連邦は手を握って残虐非道なアデリーナを退治する必要があります。つまり、無用な不信感は排除するに限ります。従って、私はメンディスさんの認識を改めないといけないです。
「ご心配なく。デュランの人々も諸国連邦と同じ様な美的センスをお持ちです。デンジャラスさんも聖女時代はイメージ通りの聖女の格好でしたし、何より私だって自慢じゃありませんが、実は元聖女なんですよ」
「……お前がか? ……より一層、デュランとは相容れないものを感じる。心から国境が尊いものだと思えた」
長年の諸国連邦の虐げられた歴史からすると、そう思うのも無理ないでしょう。
「もう一度、言いますよ。私も元聖女ですよ」
「何故繰り返した? 俺を追い詰めるな。頭が痛くなる」
メンディスさんは頭を強く横に何回も振ってから、私に言います。
「今の話は忘れよう。ダーティビースト組には俺の妹であるブリセイダがいる」
「あれ? サルヴァは学校に兄弟がいると言っていましたが、妹もいたんですか? 兄弟の方は廊下であっても無視されるって言っていましたね」
「ん? いや、おらん。サルヴァが言ったのはブリセイダの事だろう」
あぁ、女兄弟の意味での兄弟だったのですね。
「あれじゃないか。見境なく女に『胸を出せ、見てやろう』なんて叫ぶ兄はこの世から消し去りたい存在だろうから、無視していたんじゃないか。しかも自分より下級生の兄なんて恥さらしも良いところだろうからな」
きっついなぁ。改めて思い出しましたが、出会った当初のサルヴァは本当にきっついです。私なら正気に戻った瞬間に死にたくなりますね。
「あのバカのことは、まぁ良い。それよりもブリセイダだ。あいつはお前より弱いが、あの若さで軍の指揮を任される程でもある。集団戦では苦戦するかもな」
「そうなんですか?」
「いいや、戯れ言だ。クーリルで単独突撃するお前を見たら、戦術や戦略なんてものを考えるのがバカバカしくなった」
ですよね。
気を付けるのはショーメ先生とデンジャラスさんだけです。こちらは、私とフロン、ガランガドーさんと3人で対抗できます。
うふふ、余裕でしょう。お昼までに終わるかもです。




