他の同級生の結果
さて、私はお城から出まして学校へと戻っている途中です。
ガランガドーさんに運んで貰おうと、呼んだのですが、全く反応が有りませんでした。寝てやがるのかもしれませんね。
さて、その途中の道でサブリナと鉢合わせになりました。
「メリナ! 久しぶり」
「サブリナも怪我をしていないみたいですね」
「えぇ、ありがとう。ところで、フランジェスカさんとマリールさんはもう来ないのかな? 仲良くさせて貰いましたので、お別れならば、それなりにお礼が出来ればと思っているのだけど」
あー、校庭で一緒に爆発実験してました。そっかあ、だいぶ親しくなっていましたものね。
「またお会いする機会はあると思いますよ。で、サブリナもクラス対抗戦中ですか?」
「そうなの。レジス先生が張り切っているから私も頑張らないと。お薬の原料を買って調合を終えたところです」
「それを売るんですか?」
毒薬の可能性も有りますね。怖いなぁ。
それに、ショーメ先生のクラスは解放戦線狩りに入っています。サブリナも解放戦線の一員でしたので、狩られる可能性もあり、その瓶の中に入っている薬次第では言い逃れも厳しくなりますね。……目にも止まらぬ殴打で、瓶を破壊した方が良いのか。
「サルヴァ様からご相談を受けまして、前のクラスで一緒だったジョアンとカークスを見舞うところです。このお薬で治して、少し報酬を頂ければと思ってる」
今朝、サルヴァから聞いたところによると、まだ体調を崩しているんですよね。軟弱な奴等です。
「その薬が効けば良いですね」
「効くよ」
即座に強めに断言されました。薬関係にはかなりの自信を持っておられるのですね。
薬師処の人達に喧嘩を売った時みたいな迫力を感じたので、早めに退散した方がよいかもしれませんね。怖い、怖い。
「だって、私が飲ませた毒の解毒薬――あっ、メリナ…………これは秘密で」
マジですか……。
えっ、いつ、そんな毒を奴等に仕込んだのですか……。
思い返しましょう。
模擬裁判を受けさせるに当たって逃亡防止の目的で氷の槍で作った牢屋に彼らを閉じ込めました。で、裁判の2日後くらいに出したのです。この間はサルヴァが付きっきりだったので、毒を盛るチャンスは無かったでしょう。
牢から出た彼らは、顔は青白く体もガタガタ震えて死相も浮かんでいるのではと思うくらいでした。
でも、私は回復魔法を唱えなかったんですよね。何でだろう――あっ、体を温めるようにと、サブリナが白湯を飲ませたんだ。
それか!? それが毒入りだったのか!
何のために……? クラスを乱す奴等が気に入らなかったのか、それとも解放戦線的に存在が邪魔だったのか……。いえ、邪魔であるならもっと前に消せたはず、となると、邪魔な存在に変わったから……。
「ごめんね、メリナ。急がないと」
「え、えぇ。お気を付けて……。あの、サブリナ? 解毒薬とか言いながら猛毒を飲ませて楽にするとか……じゃないよね……?」
「うふふ。違うよ。…………それなら最初からそうする」
……なるほど。安心しちゃダメだけど安心しました。
私は彼女と別れて学校へと急ぎます。そして、よくよく考えたらあの二人の生死もそれ程深く考えなくても良いかなって思いました。
さて、教室に戻って参りました。
私はタフトさんの財布を開きまして、中のお金を数えます。金貨12枚と銀貨が6枚。タフトさん、結構お金を持っていますね。確か、アシュリンさんの1ヶ月のお給金が金貨10枚でしたから、それよりも多くのお金を持ち歩いているのです。となると、メンディスさんならもっと持っていると予想されます。しまったなぁ。そっちをカモにすれ――いえ、取引相手にすれば良かったです。
待ち続けて、やがてフロンが戻ってきました。ジャラジャラと何枚もの銀貨を机に置きます。
「ケチ臭い街ね。全然ダメだった」
「金貨が無いですね」
「そうよ! 全く腹が立つ」
「ちなみに聞きますが違法なことはしてないですよね?」
フロンは魔族です。短い距離ですが、転移魔法も使えることを知っています。泥棒なんて容易いんですよね。
「反則敗けを避けないといけないんだから当たり前よ」
「一応、何で稼いだか聞かせて貰いますね」
「花の転売よ」
花? 街の外には出てはいけないルールでした。となると、街に生えている花でしょうか。しかし、それだと元手が掛からないからダメな気がします。だから転売となって、つまり、誰かから買った花を売った? そりゃ、儲からないですよ。
「花を一輪だけ持って暗い路地裏の宿屋の横で立ってるとさ、体を売ってるように勘違いするのよ」
は?
「で、釣れた男から宿屋で金を貰って逃げるだけの簡単なお仕事。金貨を出せない貧乏人しかいないのが誤算だったけど」
は?
「完全に詐欺じゃないですか」
「何言ってるのよ。私は花は要りませんかって聞いただけだもの。訴えて来ても余裕よ。化け物こそ、恐喝か強盗で手に入れたんじゃないでしょうね」
「違います。お前に見損なわれても屁にも思いませんが、決して脅してはいません。快く出して頂きました」
「どうだか」
生意気なクソ野郎ですね。
「ほら、お土産。化け物、甘いもの好きでしょ」
フロンが懐から出したのはリンゴでした。それを投げ渡されまして、私は一齧りします。もうお昼時を過ぎていたので余計に美味しく感じたのかもしれません。
次にやって来たのは、サルヴァでした。
「どうでしたか?」
「すまぬ、巫女よ。俺はやはり商いの才は持ち合わせていなかったようだ」
そういう彼は銀貨を一枚だけ置きました。
「市場で野菜を買い、それを売って回ったのだが、全く売れなかった……。その銀貨は使わなかっただけだ」
まぁねぇ、珍しくもない食べ物だったら、いつも買うところから買いたいですよね。怪しいですもの。
それに、小さな街ですから市場もそう遠くないですし、行商で金が稼げるなら他の人がとっくにしているでしょう。
私は教育的罵倒をしようと思ったのですが、彼は続けます。
「本当にすまぬ。売れ残った野菜の始末に困り、屋敷を破壊された学長に全て与えた。無能と罵るなら罵ってくれ」
……学長の屋敷を破壊したのはガランガドーさんです。理由は何だったかな。あー、学校の休日を減らされたんです。内戦で授業が出来ない期間があったとかで、大地の曜日を登校日にしやがったんですよね。それを決定したであろう学長に天罰が落ちるのは、当然です。だから、私が天に代わってガランガドーさんに命じたのでした。
「屋敷の前で佇んでいてな。涙さえ流していたのだ」
「あー、良いです。そうですか、哀れな者に施すのもたまには良いんじゃないですかね」
ちょっとだけ罪悪感を覚えたじゃないですか!
時は流れ、ガランガドーさんが戻って来ないままに日が暮れようとしています。
「勝てますかね?」
「他のクラスの稼ぎ次第ね」
「俺が不甲斐なくてすまぬ。もしも仮に敗退した場合は腹を掻っ切って死のうと思う!」
「いや、もっと普通に死になよ」
フロンの指摘通りですね。猟奇的ですし、教室が汚れます。誰が掃除するのだと思うんですか? きっと、用務員である私ですよ!
机の上に並んでいるのは、金貨12枚と銀貨21枚です。数十枚の銅貨もありますが、金貨や銀貨と比べると価値はほぼありません。だから、無視して、その上で銀貨20枚を金貨1枚に換算すると、金貨13枚と銀貨1枚分になりますん。他のクラスが40人編成だとして、1人1枚で金貨を稼がれるだけで負けてしまうのです。
くそ! メンディスを襲うべきでした!
ガランガドーのヤツもさっきから念話で連絡しているのに無反応。確信しました。寝てやがります。昼からずっと、どこかで寝ています。
「化け物、負けたら?」
「それは有り得ません。他のクラスの不正を主張するか捏造します」
「了解。それでもダメなら?」
「うふふ、何故か血の海が出来るかもしれませんね」
「頼りになるわ」
「……巫女よ、それではデンジャラスが許さぬのでは……」
全く詰まらぬ男ですよ、サルヴァは。だったら、他の案を出せって言うんです。
「ガハハ、華麗なる貴公子ガランガドー、到着!」
ようやく現れた彼が片手に持っていた布袋を机に置くと、重量感のある音がしました。そして、自慢げに私達を見ます。
「黒竜、それ、お金?」
「ガハハハ! 我が才に恐れを為すか、薄汚い魔族よ」
調子に乗るバカを無視して、私は黙って袋の口を開けます。金貨でした。金貨がいっぱいです。
「黒竜、違法な事をしたんじゃないでしょうね?」
「くくく、発想が浅い!」
フロンに向けて言ったのでしょうが、私もイラッとしました。
「どうやったのですか? バーダを売り払ったのであれば、私がお前を処刑します」
「主よ、我を何だと思っ――えっ、本気で怖いのであるが……。わ、我を殺気に満ちた眼差しで見るのを止めて欲しいのである……。これは賭け事で稼いだのだ」
ギャンブル!? その手段があったか!
「どうせイカサマでしょ?」
「イカサマではないぞ。むしろ店側がしておった。我が指摘したら、奥の部屋に案内され、愚かにも我を殺そうとしたのだ。その後、色々あって、この金で手打ちとしたのである」
くそぉ! 絶対、そっちの方が効率的!
ガランガドーのクセに生意気です!
「お前、呼び掛けたらすぐに反応しなさい」
「すまぬ、主よ。この人となった姿では主の意識とコンタクトを取れぬようでな」
「じゃあ、その人化を戻しなさい」
「…………」
おいっ! 何で無言なんですか!
外を向いても誰も助けに来ませんよ!
その後、鐘が鳴りまして、運営の人がお金を数え、また、どう稼いだかを訊かれました。
私達は勝てたのでしょうか。明日の朝に発表らしいのですが、ドキドキします。
メリナの日報
ボケが勝手に私の転職を決めていました。極悪です。
この私を怒らせたらどうなるか、身をもって後悔させてやります。
なお、もしもアデリーナ様がこれを読む事があれば、冗談ですよ。冗談。上に書いていることは嘘です。フロンに書かされたのです。それは本当です。




