お金を稼ぐ
採点の終わった紙と共に、私達はお金を頂きました。正解数と同じだけの枚数の銅貨と、満点1枚に付き銀貨が1枚サービスされたみたいです。
つまり、問題用紙は40枚有りましたので、全て満点だと銀貨40枚と銅貨400枚を貰うことになります。でも、銀貨20枚で金貨1枚ですので最大限の額であっても、はっきり言うと端金です。
私達がゲットした枚数は、銀貨が5枚と銅貨が62枚でした。つまり、満点が5枚あって、残り350問のうち、12問しか合っていないというバランスの悪さです。
「あんた達、ちゃんとしなよ」
フロンが思い上がりと蔑みの両方が感じられる声で私達に言いました。
「何を言ってるんですか? 私の答えた地図と計算の2枚は満点だと思います。そうすると、最善でもお前は満点3枚だけど残りの正解率は半分を切っているんですよ」
「化け物、計算高くないのに計算早いわね……」
「主よ、もう良かろう。過去を振り返っても何も生まぬぞ」
ガランガドー……、お前が全く正解していないことは分かっていますよ。眠り続けていましたものね。そんなヤツが言う台詞じゃないです。
「巫女よ、確かにその竜の言う通りである。我らは対抗戦で優勝せねばならぬ。この金をどう増やすか考えたい」
まぁ、そうです。サルヴァの言う通りです。私は打倒アデリーナという全人類のための目標があるのです。
沈黙が流れます。
その理由は分かります。
私はここにいる他3人と好き嫌いはあるものの、普通に会話が出来ます。しかし、彼ら3人だけで考えると、喋っているところを見たことがありません。
きっと気まずいのだと思います。
しかし、どうしたものか……。アデリーナの顔面を殴ってやるには、こんな所で立ち止まる余裕はないのですよ。
机に乱雑に広げられたお金を見ました。
銀貨はともかく、銅貨は久々です。神殿で貰うのはいつも金貨だったので存在を忘れていました。いずれもピカピカで緑の錆も出ておらず、今回のために用意した新品でしょう。
そして、私はこれを見てグッドアイデアが浮かびます。
「勝機を見出だしました」
「さすがは我が主」
人間の姿になってから、前より一層に無能な雰囲気を漂わせているガランガドーさんが、最初に私を誉めます。
「巫女よ、俺はそれに従おう」
「期待してないけど喋ってみなよ」
他の2人も次々と口を開きます。やはり私がいなければ纏まらない集団ですね。
「ダメです。誰かに聞かれると真似されます」
「確かに同感ね。デンジャラスは兎も角、ショーメは油断ならないし。私にも考えがあるわ。で、選択よ。集中と分散、どっちにする?」
……難しい言葉を使いやがってと思いました。意味を考えるのです! 集中とは中央突破、分散とは囲んでの殲滅戦の事でしょうか。お金を増やすのに何の意味があるのでしょう。
はっ! 既にフロンはアデリーナとの戦争にまで思考を巡らせていると言うのですか!? 何たる鬼才!
「その集中と分散とは何だろうか、フロンとやら教えてくれ」
「私、ずっと昔に商家で飼われていた事があるのよ」
「……妾か」
そう勘違いしますよね。でも、飼い猫だったんだと思いますよ。フロンが人型になったのはアデリーナ様がシャールに来てからだと聞いたことがあります。
「資本を集中投下して稼ぎを大きくするか、分散してリスクに備えるか。そういうことよ」
なるほど、一斉突撃と各個撃破ですね。分かります。
「質問です!」
私は手を上げます。
「アデリーナの布陣は予想が付くのですか?」
「は? 何? アディがどう関係してくるのよ。お金の稼ぎ方よ」
……そうなのですか。そうなると、戦闘と商売は同じような物なのでしょうか。
「金を稼いだことなど俺はないぞ」
ふむ、サルヴァの言葉ですが、恐らくこの学校は貴族学院ですから、そういった事には疎い連中ばかりでしょう。
「バラバラで良かろう。今日の日暮れまでに終わるのだ。それぞれで動くのが良いと我は思う」
ガランガドーさんにしてはまともな意見でした。
「化け物は?」
「それで良いですよ。お金も銅貨一枚で良いです。後は3人で分けてください」
私は一枚を手に握り、部屋を出ます。
「巫女よ! くれぐれも違法にならぬように。失格となるからな」
「サルヴァ、お前こそ気を付けなさい」
全く、この私が法を犯したことがあるみたいな言いっぷりでしたね。びっくりしますよ。
他のクラスも動き出しているみたいで、校門へと向かう方々も多かったです。その中にエナリース先輩とアンリファ先輩がいました。
「あら、メリナ、元気している?」
「はい。先輩方もお元気そうですね。今から街に出るのですか?」
「そうだよ。でも、今年は難しいね。困ったわ」
「エナリース、大変だけど一緒に頑張ろうね。私達が頑張れば、きっと勝てるよ」
「うん! ラインカウ様もいるし、絶対に今年は優勝できるよね、アンリファ」
「あのショーメ先生も実は良い人だったし、オリアス様とか、トッド様とかも頼りになるし、絶対に行けるよ!」
ショーメのクラスか!?
この2人のクラスなんて余裕の落選だと私は先入観を抱いておりましたが、危ないですよ! ショーメは搦め手を含めて奇策を用意している可能性があります。
「先輩達はどうやってお金を稼ぐんですか?」
「ここだけの秘密だよ、メリナ」
「そうだよ、メリナ。先生が他のクラスには言わないようにって、お願いしていたからね」
「でも、言って良いのかな、アンリファ?」
「良いのよ。メリナは可愛い美術部の後輩よ、エナリース」
早く言え。
エナリース先輩が手で隠しながら私の耳許で囁きます。
「皆で武器を買って、解放戦線狩り」
っ!!
ショーメが今の解放戦線の裏ボス的な立場に付いていると記憶しています! つまり、自分の組織の者を売るつもりですね!
「そ、そんなのでお金が増えるのかなぁ」
エナリース先輩はまだ私の耳許に口を置いておりまして、私は前を見ながら横にいるエナリース先輩に訊きます。
「シッ! ……メリナ。秘密だけどね……いっぱい懸賞金が貰えるの」
「ど、どこにいるか分かるんですか? すっごいなぁ」
「先生、男子には伝えていたかな。私達はご飯とかお薬を用意するのよ」
ですよね。エナリース先輩だとむしろ人質にされそうですものね。
「さぁ、エナリース、行こっか。私達の栄光の勝利に続く道へ」
「うん、アンリファ。行こう、果てしない私達の未来へ」
お二人は私を置いて去っていきました。
不味いです。解放戦線を狙うとは、偶然ながら私の計画の邪魔になる可能性が御座います。急がないといけませんね。
時間を短縮するため、人の多い通りを走らず、私は建物の屋根を駆けたりジャンプしたりして、遠くに見える王城を目指したのでした。
メンディスさんからタフトさんがそこにいるとお聞きしましたので。
「おい! 待て! 紹介状を――ゴボッ!」
城前の堀に掛かった橋で邪魔する兵を蹴散らし、建物の門番はウインクによる顔パスで通過し、魔力感知を駆使して私はタフトさんの部屋を探し当てます。
「おぉ。誰かと思えば、メリナ殿でしたか。アバビア公邸では楽しまれましたか?」
そう言えば、ラインカウさんの誕生日パーティーで中に入れず困っていた私を助けてくれたんですよね。
「その節は有難うございました。で、用件なのですが」
机に向かって座っていたタフトさんは、立ち上がって私を来客用の椅子へと案内してくれました。
「何でしょう。私に出来ることであれば協力しますよ。何せ、メリナ殿は王の補佐官になられるのですからね。共にナーシェルを、諸国連邦を盛り立てましょう」
「この銅貨を金貨5000枚くらいで買ってください」
「……ちょっと私の給料では間に合いませんねぇ……。それに、それは普通の銅貨じゃないでしょうか?」
「普通じゃないです! 私の体温で温まっています! イルゼさんなら、金貨50000枚でも買うと思いますからお買い得ですよ」
「そうかもしれませんが、流石に金貨5000枚は持っていませんよ。私の年棒でも10年くらい掛かります」
「もう、じゃあ、有り金全部出してください!」
タフトさんは苦笑いをしましたが、机の引き出しから財布を出して、それごと私に渡してくれました。
私は快くそれを頂戴します。
「ジャンプしてみてください」
「はい。分かりましたよ。今度は何でしょうかね」
チャリチャリンと音がしました。
「ボケットにまだ入ってますね」
「これは仕事終わりの一杯の為ですので、ご勘弁を」
「ダメです。没収です」
「辛いですねぇ」




