競技内容
長い足を交差させて、何故か開けた扉に背中を預け、更に顎を上げて、横目でこちらを見下ろす自称ガランガドーに内心ムカつきながら、クラス対抗戦の詳細が書かれた紙を手に取ります。
「主よ、我の姿はどうであるか?」
「どうでも良いです」
「我、鏡を探しに行って良いだろうか?」
「トイレにあるから勝手にしなさい」
紙を読もうとしているのに、バカが話し掛けてくるので先に進みません。
「ふむ。では、行って参る。情熱と静寂を兼ね備えた炎雪の貴公子という名乗りを新しく考えたのだが、それに値する姿であるか確認したいのだ」
こいつはガランガドーさんですね。間違いないです。考え方が寒々しいです。
スタスタと部屋から出ていきましたが、あいつ、二足歩行が上手いですね。四つん這いで動くものだとばかり思っていました。
さてと、ようやくクラス対抗戦の全貌が分かるわけですね。
「巫女よ、俺にも見せてほしい」
「ん? あっ、お前は学校生活が長いから読まなくても分かるんじゃないですか?」
「すまぬ。捻くれていた俺は真面目に参加しておらず、よく知らないのだ。そもそも、毎年、内容が変わるらしい」
「そうですか。期待外れです。お前、一体何の役に立つんですか?」
「辛辣ではあるが、俺の過去の報いであるな。これからは精進して、払拭していきたい」
クラス対抗戦について知っていることは、クラスの団結を深める目的で行われることと、学校ではなくナーシェル王国が運営する行事であることくらいです。
対抗戦というのですから、優劣を比較する何かの試合ですかね。血を血で洗う模擬戦形式なら自信満々なんですが……。
私は紙に一通り目を通し終えました。サルヴァやフロンも、私が持つ後ろから読んでおりました。
「な、何ですか、これは……」
私は愕然とします。足もガタガタなってしまいました。
「しかし、学校ではあるのだから、当然とはいえ当然であるな」
「人数の少ないうちのクラスだと不利になるかもね」
まず今日一日は予選です。そして、結果の良かった上位4クラスに絞って、明日に決勝が行われます。決勝内容は伏せられていて、明日に発表です。
で、その予選の内容が、稼いだお金が一番多かったクラスの勝ちだと書いてあります。
単純に金を集めるだけなら、アバビア公邸や王城を襲って金庫から拝借すれば良いだけなのですが、法に触れることは禁止です。
また、ナーシェルの街域から出てお金を稼ぐのも反則になります。つまり、魔物を狩って売り払うことも禁止されたのです。
自分のお小遣いなどを足すことも禁止でして、そもそもどうやって稼いだのかを申告する必要があって、法に触れたり、親から貰ったり、借金したりみたいなのは、全て不平でして無効となるみたいです。
よって、私が屋敷に置いている金貨を足すのはズルになります。
少額のお金を渡され、それをどう膨らませるかという競技だと理解しました。
さて、私が震えた点についてです。
元手の金額は今から決めるのです。なんと恐ろしいことに、テストでっ!!
テストの点数に沿った金額のお金を各々が渡され、それを元手にして街の人たちと取引をして、稼ぐんです!
テストっ!! 最悪っ!! テストっ!!
「巫女ならば満点であろうが、俺は足を引っ張るであろうな……」
「それよりも、あの黒竜を入れても4人しかいないわよ。既にそこで、他のクラスと10倍近く不利になってる。でも、クラス対抗なんだから協力して解答する形式かしら」
「あわわわわわわわわ……」
余りに非道な仕打ちに気を失いそうです。
そうだっ!
邪神を召喚して、無かったことにしましょう! 今なら出来る気がします! はっ! しかし、あいつ、もう滅んだのかっ!? 使えねー野郎です! そもそも、どうやって召喚すれば良い。そんな事を考える時間はないか!
「……化け物、どうしたのよ?」
「是非もなしです! 棄権しましょう!」
「はぁ? 私がいるのよ。大船に乗ったつもりでいなさい。全部、教えて上げるわよ」
っ!? まさかフロンが輝いて見えるなんて!
「た、頼りにして良いのですかっ!?」
「ふふふ、勿論。私は幼いアディに勉強を教えたことも有るのよ。長命を誇る魔族の、人間よりも遥かに優れた知識の蓄積を見せて上げるから」
いつもフロンから漂っていた不快な雰囲気はもう感じません!
「おぉ! サルヴァ、これは勝てるかもしれませんよ!」
「おうよ! そのふしだらな女を巫女に逆らう愚劣な女だと思っていたが、やはり竜の巫女の一員! では、巫女よ、早速テスト用紙を持ってきてくれ!」
「はい!」
説明の紙によると、テスト用紙は始業の鐘が鳴ったら、職員室へ担任が取りに行くことになっていました。
まだ鐘は鳴っていませんが、鐘と同時にテスト用紙を貰ってスタートダッシュを決めるのです!
意気揚々と早速、職員室に向かう私の足は不思議なくらいに足取りが軽くて、まだ巫女長の精神魔法が残っているのかと思う程でした。
「うむ、久しぶりだな。変わらず元気そうだ」
ナーシェルの王子であるメンディスさんがいました。今回の対抗戦の責任者だそうです。暇なんですね。
「昨日、アデリーナ陛下とお逢いした。女王陛下もお前が力を尽くすことに期待していたぞ。お前が貴族学院に来たのは、この布石だったのかもしれぬな」
っざけんな。最初から私をこんな辺境に押し込もうとしていたんですね!
「私としてもお前の武力は信頼している。諸国連邦の未来のため、共に王と国を盛り立てて行こうではないか」
私のナーシェル王補佐官就任の話を聞いている訳ですよね。私が素直に受諾する前提で。
……ふふふ、アデリーナ、その慢心を後悔させてやります。
「はい! 敵は全力で破壊します! 任せてください!」
「身内にすると、これ程心強いヤツはいないな。是非とも今回の対抗戦で活躍して、実績を上げておいてくれ。反対する貴族どもも、自分の子息が負けた人間だと知れば、文句を言い難くなるからな。よし、鐘が鳴ったか。渡せ」
メンディスさんは隣にいた、知らないおっさんに命令します。
「今日はタフトさんと一緒じゃないんですね」
「あぁ、あいつは今日は宮廷で内勤だ。報告書を作っているんじゃないか」
ふーん、いつも近衛兵であっても常に傍に控える訳じゃないんですね。
私達の簡単な会話が終わったのを見計らって、おっさんが説明とともに紙の束を寄越してくれました。
「40枚お渡しします。一刻後の次の鐘が鳴れば回収に向かいます。それまでに解答を終えて下さい。先生が一緒に解くのも構いません。ただ、自分の教室から出たら反則敗けですからね」
すぐにクラスへと駆け戻った私はフロンに全てを渡します。見なくても分かります。私とサルヴァには無理です。
しかも、一枚一枚、それぞれ記載されている問題が異なるみたいでして、何の嫌がらせでしょうか。
でも、ガランガドーさんがちゃんと戻ってきていて、開始と同時に失格になることはなくなって良かったです。




