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恩着せ

『死を運ぶ者たる我、見参っ!』


 ガランガドーさんが勢い良く現れました。この天井のない空間を空高く滑空していますが、皆さん、チラッと見てお仕舞いです。竜が大好きな巫女長でさえ邪神の動きに目を戻しました。


 ガランガドーさん、教えてあげますね。間に合っていませんよ? でも、見えていましたよね。


『…………』


 ガランガドーさん、反応してくれません。密かに涙を流されているのでしょうか。


『見参っ!』


 いや、もう一回大声を出しても時間は戻りませんよ。

 皆、どうしたら良いか不安になるので、もう止めてください。



 さて、邪神は苦しんでいるようです。ゴロゴロとのたうち回ることは無いのですが、激しく尾を床に打ち付けたり、首を回して胴体を叩いたりしています。



「巫女長、エルバ部長は回復させてあげないんですか?」


 巫女長の魔法で私は全快しています。それどころか、無限の様に力が涌き出てくるんです。今も体がうずうずして走り回りたいです。同じ魔法をエルバ部長にも掛けてあげるべきです。じゃないと、冷たい石床でお腹が冷えてしまうと思うんです。


「ヤナンカさんがね、任せてと仰るので控えたんですよ」


「そうだよー。他の人の魔力のかんしょーでエルバ・レギアンスの魔力が途切れて、この空間から強制退場されないよーに、ってー。意識を戻さず、でも、死なないギリギリでちょーせいしてるのー」


 …………エルバ部長を生死の境にずっと追いやっているのか……。ヤナンカはたまに怖いですよね。ブラナンもルッカさんの息子を500年くらい骨と皮の状態で生かしてましたが、自分が残酷な事をしている自覚はないのかな。



「巫女よ! 体は大丈夫なのか!」


 邪神に吹き飛ばされた時と同じ様なセリフをサルヴァが言いました。

 しかし、今の私の状態を見て、何をほざいているのかという思いですよ。


「ピンピンしてますよ。見て分かりませんかね?」


「そ、そうなのか! 右肩が腫れ上がっているのも筋肉の増大であったか!?」


 は?

 バカの言葉は気にする必要もないのですが、私は肩を触りました。


 見事に膨れています。普段の三倍くらいです。

 ……何これ? 巫女長、変な魔法を掛けていますか?



「サルヴァさん、大丈夫ですよ。うふふ、私は精神魔法が得意なんですから。メリナさんには、痛みを感じなくなるだけでなく、気持ちが良くなる魔法をお掛けしたのよ。空さえ飛べるとか思えるんですよ」


 おぉい!! それ、大丈夫な魔法ですか!? 依存性とかありそうなんですけど!


「……おぉ、さすがは巫女の長である。部下にそんな無茶を強いて、なお、心の苦しさを見せぬ笑顔……。人の上に立つには、やはり並々ならぬ覚悟が必要であるのか……。そして、平然とする巫女……。敵わぬ……」


 力なく呟くサルヴァにアデリーナ様が言います。


「最近は見せませんが、メリナさんは凶暴化の魔法も有りますからね。森の中で半狂乱で笑いながらゴブリンの首を踏み砕いたりしていましたよ。良いですか、それがメリナさんで御座いますよ。どう思われますか?」


「……繰り返そう。ナーシェルの民では逆らえぬ……」


 その答えにアデリーナ様は満足された顔をされました。抱いているふーみゃんをナデナデしています。私もしたいです。


 でも、迷惑ですねぇ、ふーみゃん。私の名誉を犠牲に諸国連邦に脅しをしていますよ。邪神に頭を噛まれたら宜しいですのに。



「アデリーナ様、邪神はもう良いんですか? 私、分かりますよ。オロ部長が寄生虫みたいに邪神の体内を食い荒らしているんですよね?」


「そうで御座います。対聖竜――いえ、すみません、大きな獣を相手にする想定で、カトリーヌさんの地中での推進力を利用する事を考えていました。カトリーヌさんもすぐに私の意図を察してくれて助かりましたよ」


「アデリーナ様、すっごく不穏な単語が聞こえたのですが? ここで死にます?」


「何がでしょう? メリナさん、誤解で御座いますよ。私も聖竜スードワット様の巫女で御座います。最近、ようやく聖竜を見直しましたところで御座いますから」


 スッゲー上から目線です。何様ですかね。お前なんて聖竜様が本気を出したらちょいのちょいなんですからね。勘違いも甚だしいです。いずれ天罰を喰らいますよ。



「メリナ様、それよりも今のうちに回復をしましょう」


 自分の足首も無くなっているはずのショーメ先生が私の心配をします。実際に彼女は片足立ちですので、私は肩を貸してあげようとしました。


「メリナ様! あなたは動いているのが不思議な状態なのですよ」


 うんまぁ、大袈裟です。

 でも、まぁ、念のために確認をしておきましょうかね。


 ガランガドーさん、どう思います?


『肋骨が折れて心臓を刺しておるな。何、心配は要らぬ。幸い、肺は損傷しておらぬし、我の回復魔法のお陰で心臓に穴が開くこともあるまい』


 っ!? お前、それ、完全に致命傷じゃないですか!!

 今すぐに治しなさい!


『我が来たからにはもう安心だぞ!』


 貴様ぁ、今さらヒーローは遅れてやってくるみたいなセリフ、許しませんよ。早く私を救いなさい! さっきの『見参っ!』の前にすることがあったじゃないですか!


『邪神の魔力を我が物とし、そして、主を回復するのである。暫し待たれよ。今は宙に浮かぶ魔力を追っておる』


 むぅ……。仕方有りません。早くしなさいね。

 私はドカッと床にお尻を付きました。


「暴れると危ないですよ」


「痛くはないんです」


「私のお陰ですよ、メリナさん。うふふ、私のお陰ですよ、私の」


「……感謝致します、巫女長……」


 納得は行きません。しかし、逆らってはまた何をされるのか知れたものでは御座いません。恐ろしい人です。牢屋にぶちこんで、魔法で永久封印しておくべきです。



「メリナさん、誉めて上げます。勝利の立役者はメリナさんでしたね。古竜の強さは皮膚の堅さです。魔族の外殻と同じ様な物ですが、よく割ってくれました」


「はいはい。感謝してくださいね、アデリーナ様」


 あれだけデカいと拳を避けられる心配は無かったんですよね。転移魔法も繰り出していた狐型精霊のリンシャルの方がよっぽど苦戦したと思います。


「でも、どうして邪神を倒そうとしたんですか?」


「色々と理由は御座いましたよ」


 そう言ってアデリーナ様は苦しみ続けている邪神を眺めます。答えをはぐらかそうとしていますね。

 あんな化け物がシャールとかナーシェルとか人の多い所で出現すると被害が甚大だからでしょうかね。


「大変ですね。偉い人は」


「……邪神って、本当かどうかは存じ上げませんが、神だと呼ばれるだけの存在感なんでしょう? 私よりも上位っぽいのが許せないで御座いますよね」


 うわっ。すっごいエゴ!

 それからチラッと私を見ます。


「……大バカを食らいそうだったのも気に食いませんでしたし」


「私を救ったって言うんですか? 恩着せがましいですね」


「何を言ってるんですか? あなた、私の恩で着膨れしてますよ。お早めに返して頂きたいのですが?」


 へいへい。減らず口ってヤツですね。



 轟音とともに邪神が倒れます。奇っ怪な声の断末魔も叫んでおりました。グガガゲゲコゴゴォォって感じで、少し哀れですね。

 しばらく様子を伺っていましたが、再び動く様子は御座いませんでした。


「死にましたか?」


「精霊は死なないよー。ただ、帰るだけー」


「帰るって、どこにですか?」


「さー。どこなんだろーねー」


 誰かが言っていましたね。精霊は魔力が意思を持った存在だと。だとすると、只の魔力に戻っていくのでしょうか。

 動物や植物といった生物は物質が意思を持った存在なのかもしれません。それらが滅ぶと土に還るのと同じイメージを抱きました。



「さて、戻りましょうか。子達が授業を待っておりますので」


 デンジャラスさんが提案します。ムカデに刺された腕の傷は塞がっていますが、傷跡は残っていて、荒くれ者ぶりが増しております。


「フェリス、あなたは職を辞しなさい。その足では引退するしかないでしょう。……仕方御座いません。レジスなる者との婚姻を認めましょう」


「認める必要は全く御座いませんから」


「強情な性格は治りませんね」


「二人とも後でおやりなさい。それでは、帰りましょうか。ヤナンカ、エルバ部長への魔力供給を止めなさい。それから、メリナさん、ガランガドーにあの死体を食わせておきなさい」


「えー。また子供を産むかもしれませんよ」


 ちょっと前にガランガドーさんは死竜を喰らい、その魔力が体内で濃縮してバーダが産まれたのです。ヤナンカがそういう生態だと言っていました。


「邪神を無力化するのに打ってつけでは御座いませんか?」


 ですって、ガランガドーさん。屍を啄むカラスみたいですが、宜しくお願いします。


『ぐっ……。我の活躍の場は無かったのであるか……』


 明日のクラス対抗戦で頑張ってください。



「まぁ、アデリーナさん、さすがね。私も食べてみたいって思っていたところなの! ガランガドーさんと一緒に楽しく食べましょうね」


 巫女長はそう言って、動かない邪神へと歩み始めました。誰も彼女を止められません。アデリーナ様さえ無言でした。


「食べられるんですか……?」


「美味しーかもー」


 なお、オロ部長はずっと食べ続けていますね。たまに邪神の体表から顔を出して、こちらを見てから中へと再突入したりしています。



 皆で食べた邪神のステーキは大変にデリシャスでした。ただ、最後はガランガドーさんから大変な異臭がして、眼が痛いほどでして、急いで戻りました。

 あれ、絶対にヤナンカが竜のうんちと呼んだヤツです。竜の子供じゃなくて、そっちを生むなんて、ガランガドー、やりやがりました!

メリナの日報


 とても美味しかったです。ドラゴンのステーキはどうしてあんなに私を満足させてくれるのでしょうか。もうガランガドーさんも食料に思えてきます。

 あと、たくさん食べていたオロ部長が成長しまして、背中に羽が生えました。魔物レベルが一段上がったんですかね。

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