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お前の血は何色だっ!?

 邪神の出した魔物達は吹き飛びましたが、こちらサイドの者は私の咆哮で倒れることは有りませんでした。

 私が加減したのではなく、それぞれが己れを守ったからでしょう。それだけの強者でありますから。

 床に横たわったままのエルバ部長も巫女長かヤナンカが魔法防御壁っぽいものを出してくれたんだと思います。



 さて、深めの傷を負ったデンジャラスさんとショーメ先生に回復魔法を唱え、私は邪神への突撃を再開したく思います。今の私の魔法では彼女らの戦線復帰は無理ですが、失血死は防げるでしょう。



「メリナ様、敵の攻撃が見えていませんよね?」


 行こうとした私にショーメ先生が声を掛けて来ました。


「見えないですが、勘で避けます!」


「無茶ですよ。まだ遠いです。分かりました。私が予測して、その方向へクリスラ様に魔法を出してもらいます」


 見えない炎を感知して、そこを避けろと言うわけですね。


「了解しました!」


「気を付けて、メリナさん。あと、フェリス、私のことはデンジャラスと呼べと言ったはずです」


「すみません、クリスラ様。以後、気を付けます」


 戦闘で気持ちが昂っているのかショーメ先生が軽くデンジャラスさんに反抗しましたね。

 先生の軽口が心地よいですが、さぁ、再出発しましょう。半分以上は距離を縮めました。


 山が聳えるが如く存在する邪神をキッと睨んでから、私は疾風となって駆けます。


 真っ直ぐには突っ込めません。デンジャラスさんの炎が行く手を塞ぐからです。突然にそれは現れるので、私は敵がいないにも関わらず、側転、急ブレーキからの進路反転、大ジャンプなどを武芸の一人練習みたいに行う必要が有りました。

 道標のはずのデンジャラスさんの魔法であっても、それによって火傷を負えば私の動きが鈍るかもしれません。私の回復魔法は不完全になってしまいましたし。

 でも、私は恐れません。目の前の邪神に拳を入れる。その一心で突き進みます。


 謎の攻撃については、連発できないことが分かりました。一定以上の時間間隔でデンジャラスさんの炎が発生することで把握したのです。

 それが判明しただけで、私は余裕が出てきました。逃げた先で食らうことを警戒しなくて良いからです。



 遂に、私は相手の間合いに入ったのでしょう。

 向かう左側から土煙が突如発生しまして、私はすぐに巨大な尾による一薙ぎだと判断しました。


 精霊は人の心を読むと聞きました。

 私がもう一段加速するつもりだということも邪神は察しているのでしょう。


 そう思ったのは、私の進路方向にデンジャラスさんの炎が立ったから。

 

 邪神としては私の動きを制限したつもりなのでしょう。逃げ道は上方にしかないと言うわけですね。……たぶん、そっちには未知の罠が有ります。



「グアァアアアアーー!!」


 まずは咆哮。大声を出すと気持ち良いからです。気合いを入れる目的でもあります。

 これで気分が乗って、自分の限界を越えられたら良いのですが。頑張れ、私。



 そして、加速。デンジャラスさんの炎を無視して、邪神に接近します。熱いと思う間も無く、いえ、むしろ、私の素早さで搔き消す勢いなのです。

 予測など無意味。だって、私自身もどこまで出来るのか分からないんですもの。



 気付けば、もう邪神の白と黒の編み物みたいな体表が腕の届く位置に有りました。

 轟音をもって迫り来る尾はまだ到達していませんし、まさか、ここまで肉薄した私を打つとも思えません。邪神自身の体さえ鞭打つ形になりますから。


 では、不肖メリナ、邪神への初撃は頂きます!


 フルスイングを叩き込む。


 おぉ、堅い!! 今までのどの魔物よりも堅い!! 見た目通りに山肌を殴ったみたいな感触です!


 私の拳どころか肩や腰まで反動で悲鳴を上げますね。


 しかし、私は天才です。精霊は純粋に魔力だけで出来ている存在。ちょいちょいと魔力を操作してやれば、柔らかくなるのです。


 足腰に力を入れ直して最初の力の跳ね返りを我慢。肩の骨がギリギリと鳴っていましたが、歯を食い縛り、絶対に退かない所存です。そして、邪神の魔力濃度を下げる!



 ズボボっと肘も入りました! 勝てる!

 宜しい! 見てやりましょう!

 お前の血は何色だっっ!!



 そこで私は記憶は一瞬途絶えました。


 気付いた時には視界は真っ白でした。でも、風は感じますので動いている? あっ、アデリーナ様とかデンジャラスさんとかが一瞬だけ見えました。

 これ、宙でくるくる回転してるなぁ。



 ……チッ、邪神に吹き飛ばされたのか。



「メリナ、下がりなさい!」


 アデリーナ様の声が聞こえました。

 無茶言うなってか、既に強制的に敵から遠ざかっていますよ。


 体を捻って受け身の準備を始めたところで、激痛に襲われます。慌てて、お腹を見ます。

 ……良かった。エルバ部長がヤられたみたいな大穴は無かったです。でも、酷く痛みまして、内臓が潰されたのか?


 ガランガドー! 全力で回復魔法をっ!


『うむ!』


 全回復は期待できませんが、我慢できる痛み程度には癒してください。そして、邪神に手負いの獣、いえ私は獣じゃないので、怒りに満ちた人間の怖さを刻み込んでやります!



 何とか空中で体勢を整え、巫女長の近くに着地します。つまり、スタート地点です。まだ横になっているエルバ部長とその護衛を任された2人もいました。



「ヒャッハー! カトリーヌさん、ヒャッハァァアーー!!」


 何事かと思ったら、アデリーナ様がオロ部長の背に乗って、私の代わりに突撃している声でした。

 アデリーナ様は乗り物を運転するとなると、とても陽気になります。国民には見せられない姿です。ぶりゅぶりゅ動画でも映しましたが、他の出来事のインパクトが強すぎて、話題にも上がっていないのが幸いかもしれませんね。



「巫女よ! 大丈夫か!?」


 サルヴァが大声で私を案じます。

 私よりも奇声を発するアデリーナ様にお尋ねしなさいと思いましたが、それを飲み込みます。

 まだ戦闘中です。冗談は後からにしましょう。


「行けます!」


 が、足を踏み出すとズキッとお臍の当たりに強い痛みが響きました。


「メリナ、痛覚を消す魔法いるー?」


 ヤナンカの提案は有り難かったのですが、回復魔法でなく、麻酔っぽいのが何か嫌です。だから、即答出来ませんでした。



「私に任せないね、メリナさん」


 優しい言葉は巫女長でした。私は緊張します。最も身を任せてはいけない人物だからです。

 でも、私の返事を待たずに巫女長は動き出します。


「我の御霊は聖竜とともに有り。我は願う。芬々と漂う星々を曬す貪婪(どんらん)に。または晦冥を蒼然と枯らす煌竜に。空合いは鈍く、(なぎさ)に遊ぶ(みさご)(ついば)む。陶冶(とうや)沙門(しゃもん)も深沈に尊び、やがて宸筆に至るやも。心痛は変転し、濛々と悠々と灯される礬水(どうさ)。其は尚、星竜の輝き」



 詠唱が終わると同時に、私は光に包まれ、体が軽くなるように感じました。痛みがなくなっただけでなく、以前よりパワフルになったように思います。驚きです。巫女長なのに!



「巫女長、ありがとうございます!」


「えぇ、アデリーナさんを助けてあげて。私、いつもお世話になっているから」


 巫女長はにっこりされまして、私は邪神に向き直します。そして、床を強く蹴り、前へ!


「メリナさん、竜の弱点はだいたい首よ、首。私が連れて行ってあげるわ」


 背後の巫女長が不思議なことを言いました。ルッカさんみたいに私を抱いて飛行魔法でも使うのかと思ったのですが、なんと、強風です。とんでもない風が私を浮き上がらせ、そして、すっ飛ばしたのです!


 やはり巫女長! 油断した私がバカでしたよ!



 何とか体のバランスを整えた時には、既に邪神は目前となっておりました。

 アデリーナ様が長い剣を振り回して戦っておられるのが見えます。オロ部長は離れて待機ですね。あっ、たまに口から変な液を吐いています。邪神に当たると、ジュッと変な音を立てます。でも、効いてなさそうです。



 そして、私は困惑です。

 巫女長は「弱点は首。私が連れていってあげる」と言ったのに、狙いが外れています。弾丸の様に胴体へ直撃コースです。



 頭を守るため、足を邪神側に向けてドロップキックみたいな形で着弾。衝撃によって全身がビリビリと痺れる感覚に襲われますが、空中で一回転して、無事にアデリーナ様への横に着地できました。


「驚きました。邪神の体が浮きましたよ。相変わらずの化け物ぶりで御座いますね」


「巫女長の仕業です」


 喋りながら剣を振るアデリーナ様にお答えしました。


「こいつの皮膚が堅いのよ。切っても修復するし、憎たらしさはメリナさんレベルで御座います」


 ガンガン斬り付けながら、そう仰いました。私の名前が出されたことにより、私が切られている錯覚に陥りそうです。お前も、邪神に吹き飛ばされろ。


 しかし、私は淑女。行うべきことを知っております。


「お任せください!」


 巫女長の謎の魔法でパワーアップしている私は連打を繰り出します。邪神による不可視の攻撃も無視です。

 何故なら、私への攻撃をアデリーナ様が剣で器用に受け流してくれているみたいだからです。



「ウララララララァァァア!!」


 およそ乙女の口から発せられたとは思えない叫びですが、先ほどの恨みを晴らすためですので、仕方有りません。


 魔力操作で大穴を開けるよりも、力勝負で勝った方が気持ちが良いのです!

 邪神の皮膚は確かに凹んでも元に戻ります。割れても左右から皮膚が伸びて回復します。


 でも、無視です。


 長い尾による攻撃もデンジャラスさんが巨大な炎を出して封じてくれていますし、巫女長も何かの魔法で邪神を攻撃しています。

 なのに、私が止まる訳にはいきません!



「早く死ねぃ!!!」


 乗りに乗った私の全力の殴打が炸裂しました。凄まじい威力に激しく邪神が揺れ動き、遂にその体表に大穴が開きます。残念ながら、血は溢れず、魔族の体内のように真っ黒でした。



「カトリーヌさん! 今です! 」


 アデリーナ様の指示はオロ部長に飛びました。それまで静観に近い感じだったオロ部長が跳ねて、私を飛び越します。


 そして、邪神に開いた穴から中へと潜り込んだのです。


「全員、撤退!」


 アデリーナ様の号令で私たちはエルバ部長が倒れた所へと移動しました。

 遠くで邪神が苦しそうに首や胴をクネクネさせています。

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