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続々 確認される日報

 昨日は思わぬトラブルで学校を帰ってしまいましたが、マリールやフランジェスカさんが爆発で命を失っていないか気掛かりです。


 しかし、そんな些細な心配を吹き飛ばす事実が発覚しました。



 昨日は本来であれば学校はお休みの日だったのですが、内戦で学校が閉鎖されて授業が遅れている為に、登校しないといけなかったらしいのです。

 衝撃的です! そんなのを聞いていたら「知りませんでした」と休む口実に出来たのに、凄く悔しいです!


 しかも、来週からもずっと休みが週一になるらしくて、私は怒りを覚えるしか御座いませんでした! 今日ほど、解放戦線と帝国の連中を殺したいと思った日は御座いませんっ!!


 しかし、その事実を私に伝えてくれたベセリン爺が恐縮していることに気付き、私は憤怒を抑えて、努めて平静を保ちます。



 さぁ、気持ちを切り替えましょう。過去に拘っても仕方ありません。それよりも次の休日登校日をどう撤回させるかが大切です。


 私の様子に申し訳なさそうに頭を下げるベセリン爺に気にしないようにと言いながら、朝御飯を要望しました。


 そして、食堂に入るのです。



 すると、なんと言うことでしょう!

 いるのです、ヤツが!

 アデリーナ様がっ!



「おはようございます、メリナさん」


 優雅にナプキンで唇を拭ってから、アデリーナ様は私に挨拶をしてきました。


「おはようございます、副担任のアデリーナさん」


「ここは学校じゃありませんので、無理をせずにアデリーナ様とお呼び下さい」


 チッ。爽やかな朝が台無しです。

 休みだと知っていたら二度寝している時間だと言うのに、お前は遠慮を知りませんね。



「昨日はお見苦しい所をお見せしました。謝罪致します」


「今も見苦しいですから、帰って良いですよ」


 お互いににっこり。窓から入る日射しが温かいです。




「日報確認に来ました。持ってきなさい」


「ご飯の後にして下さい。不味くなります」


「あら? そんな酷いことをお書きなの?」


「まさか。私が書いている日報ですよ。心外です」




52日目

 今日は色んな事があった日でしたが、屋敷にいっぱいお客様が来たのが一番印象に残っています。


 ただ、一部招かざる客もいました。それは誰だか分かりますか、アデリーナ様? ヒントは母音から始まる名前の人ですよ。また、とびっきり偉い人です。分かりますか、アデリーナ様? 金髪ですよ。分かりますか、アデリーナ様?



「ほう……。いきなりで御座いますね」


「…………さて、正解は誰でしょうかっ!? さぁ、解答をお願いします、アデリーナ様!」


「イルゼですね。お偉い様である聖女ですし、母音から始まる名前で、しかも金髪で御座いますから」


 ……お前、躊躇いもなく、よくもそんな答えを言えますね……。恥ずかしくないのですか。明らかではないですか!? もう問題文に答えが書いてあるんですよ!


「では、アデリーナ様の中ではそう言うことにしておきましょう」


「メリナさんの中では?」


「えっ、さすがに私でも本人を前にしては言えませんよ」


「……ほぅ」


「……ジョークですよ。ヤだなぁ」




53日目

 ベセリンは優秀です。

 しかし、まさかあんなに美味しいとは思いませんでしたね……。

 剣王も含めて、皆さん、驚いていました。



「ん? どんな料理なのですか?」


「卵料理ですよ。興味あります?」


「えぇ、でも、私は食にはうるさいんですよ。満足させて貰えるのかしら」


「大丈夫ですよ。そう言えば、私の手料理をお食べになられた事が有りましたよね?」


「ん? 記憶に御座いません。聡明な私が言うのですから間違いないですよ」


「いやだなー。食べましたよ、ほら。ナタリアをラナイ村から救出した日ですよ。私がドングリと草を料理したの、覚えてないんですか?」


「あー、あれ。ドングリを炙って、雑草を水で洗っただけで御座いましたね。よくも自信満々にお出しになれたと感心しました。決して料理ではなかったで御座いましたね。私もよく口に入れましたよ」


「虫入りのドングリが当たりなんですよ。折角、私の分から差し上げたのに投げ返されましたよね」


「あんなものを食えるのはアシュリンくらいで御座います。それに、私は虫が余り得意ではないのですよ」


「えー、意外です。アデリーナ様にも苦手な物があったんですね。覚えておきます」


「忘れなさい。嫌な予感がしました」



54日目

 何か忘れていると、一日中、うっすらと思っておりました。しかし、寝る前とは言え、それを思い出せた私は優秀です。


 今日の上映会、オリアスさんも呼ばれていたはずです。もしかして、一日中、どこかの教室でお待ちだったのではないでしょうか。


 皆、冷たいなぁと思いました。


 あと、アデリーナ様が蟻の卵を美味しそうに食べている姿を神殿の皆にお伝えしたいので記憶石を下さい。一つ余っていますよね?



「メッ、メリナッ! メリナッッ!!」


「どうしたんですか、アデリーナ様? 急に顔を赤くして」


「女王である私に、こんな下品な物を食べさせましたね!!」


「お代わりしていたじゃないですか。良い食べっぷりでしたね。サルヴァ並みでしたよ。さすが食にはうるさい方です、ぷふふ。あっ、すみません、笑ってしまいました」


「メリナッ!!! メリナァァアアアッーー!!!」


「叫んでも怖くないですよ」



55日目

 聖竜様が悍ましい姿に見えてしまって、すみませんでした。目眩で気絶するくらいに過労が溜まっていたと思うのです。だから、私が失礼な事を言ったとすれば、アデリーナ様をお責め下さい。


 目を覚ました時に聖竜様がちゃんと聖竜様だったので嬉しかったです。

 あと、また裸で寝ていたので犯人を見付け次第にぶち殺します。



「この日にぶっ殺しておけば良かったと、激しく後悔しております!」


「まだ興奮してるんですか? ダメですよ、アデリーナ様。それに私を裸にしたヤツを殺すんですよね? アデリーナ様も何かされたんですか?」


「次は首を落としてやります!」


「同感ですが、少し水をお飲みください。あっ、ボウフラが入っていたら、すみませんね。でも、アデリーナ様のお口には合うかもしられませんね」


「メリナッ!」


「冗談ですよ。私が魔法で出したヤツだから、むしろ聖水みたいな物です」



56日目

 懐かしのデュランに行きました。街には入りませんでしたが、パン工房の方々と再会するのが楽しみです。共同開発した魚のパン、デュランでも売れているかなぁ。

 あと、クリスラさんが名実ともにデンジャラス化してました。



「ぶはぁ」


「水を飲んで落ち着かれました?」


「えぇ。取り乱してしまい、申し訳御座いませんでした」


「大丈夫ですよ。今度、魚のパンを差し入れしますね」


「イルゼより頂き、もう口にしております。中々に美味でしたよ。良い腕をした職人が作っているのでしょう」


「今はメリナパンも開発中らしいですよ。私の美しい顔を象ったものです」


「是非欲しいですね」


「出来たら持っていきますね」


「えぇ。あっ、でも、食べ物を粗末にしてはいけませんね」


「うん? 確かに遊び心はありますが、食べられるパンですよ」


「いえ。貰った瞬間に踏んづけてやろうと思ったので御座います。すみませんね」


「なるほど。アデリーナパンを開発して貰います。グッドアイデア、ありがとうございました。貴族を中心に爆発的に売れそうですね」



57日目

 邪教の誕生の瞬間を目にしました。

 いえ、崇める対象はとても清純なのですが、とても気持ち悪いです。


 デンジャラスさんは終始無言です。私の家にまで来ているのに、すっごく無言で怖いです。


 今から寝ますが、これが最後の日記になりませんように聖竜様にお祈りします。



「何が有ったので御座いますか?」


「この日はデュランの暗部を潰した日ですね」


「それは私もイルゼより聞いております。イルゼも妙に元気になったのですよ。気になります」


「……イルゼさんは私を崇める宗教を作るって意気込んでいるんですよ。日記に書きましたが、何だか気持ち悪いですよね」


「ふーん、あなたを、ね……」


「何ですか? すっごい含んだ言い方ですね」


「色んな意味で邪教の名に偽りはないなと思いまして」




58日目

 今日は詩を作りました。


 愛はキラキラで身を包む

 それは光

 私の幸福


 愛はシトシトと心を打つ

 それは雨

 私の迷い


 愛はガンガンと未来を叩く

 それは拳

 私の攻撃



「酷いで御座いますね」


「えぇ、愛は残酷な面も有りますからね」

 

「こんな物を読まされた私の身になって貰いたいものですよ」


「お言葉ですが、アデリーナ様も少しは愛を知った方が良いですよ」


「大きなお世話です」


「アシュリンさんも心配してたじゃないですか?」


「大きなお世話ですっ!」




59日目

 ショーメのヤツ、許しません。

 館の外にお酒様を人質、いえ、酒質に取って私を誘きだし、その上で川に流すなんて!

 竜のお肉では水分が足りないのですよ!


 アデリーナ様、すんごいお仕置きをショーメにお願いします!


 ただ、竜のお肉を用意したらしいので、それに免じて命までは取らなくて結構です。慈悲をもって、四肢を折るくらいで勘弁してあげてください。忠実なる僕であるメリナの切なるお願いです。



「しかし、あれですね。日報だと言っているのに、読んでも端的にしか分かりませんね。この日は何があったのですか?」


「アバビア公爵家の息子の誕生日パーティです」


「あぁ、それでお酒だったのですね。そうですか、ショーメはやはりよく働いてくれます」


「そうなんですよ。実はメチャクチャ強いって知っていましたか? 暗部の頭領はヤナンカのコピーだったんですが、ショーメ先生がナイフを刺して爆発させてましたよ」


「無論、存じておりました。数年前にアシュリンが戦ったことが有りまして、引き分けていましたよ」


「想像以上にマジ強じゃないですか、ショーメ先生」


「まぁ、どちらも本気だったかは疑わしいですけどね」


「で、お仕置きは?」


「褒美を与えたいと思うくらいですよ」


「あぁ、腰を揉ませる刑ですね。ありがとうございます」



60日目

 遂に私の才能が認められて教師になりました。明日からビシバシ鍛え抜いて、どこに出しても恥ずかしくない紳士淑女を作り出す予定です。


 クラスの学級目標は「退くは地獄への一歩。全員突撃」にしようと思います。



「楽しそうで御座いますね、この日は」


「いつも楽しいですよ、学校」


「本当に?」


「はい。毎日、行ってますし」


「ショーメから聞いておりますよ」


「じゃあ、嘘じゃないって分かりますね。良かったです」


「ぬけぬけとよくも、というのが率直な感想で御座います」




61日目

 目に見えない光があるそうです。マリールに教えて貰いました。同じように希望は見えなくても、近くに存在するのかもしれません。


 そう、それは蒙昧な生徒達を導く私です。明日は身近にこんな大先生が居たのかと驚かれることでしょう。



「特段、触れる必要のない内容で御座いますね」


「そうですね。アデリーナ様が敢えて触れていなかったデンジャラスさんの話をしますか?」


「……メリナさん、クリスラの変貌を学校でも見ましたが、何をしたのですか?」


「私は何もしていないですよ。本当ですって。えっ……その目は完全に私を疑っておられます?」


「いいえ。ただ、クリスラがあんな低俗な格好をするなんて、余程の事で御座います。メリナさんが精神を汚染するような新たな魔法を覚えたのかもと危惧した訳で御座います」


「それ、疑ってるじゃないですか! えぇ、信じられないです。私みたいにお淑やかで善良な人間はいませんよ」


「そうだと良いんですけどね」




62日目

 フランジェスカさんにお願いして、酸を貰いました。アデリーナ様に「お疲れさまでした」と言いながらコップに入れて出したのですが、飲んでくれませんでした。勘が鋭いヤツですよ。



「ほら。どんな善良な人間が、国民に敬われている女王様に酸を飲ませようとするのでしょうね?」


「ご、誤解です!」


「誤解も何も、ここに書いてあるじゃないですか。これ、日報がそのまま犯罪供述書になりそうですね」


「でも、フランジェスカさんから聞いたんですが、酸を飲んでもお腹は大丈夫らしいですよ。ほら、胃液も酸らしいですからね」


「そんな訳ないでしょう。少なくとも口と喉が爛れますし、あの量なら胃腸も損傷します」


「……詳しいですね……」


「王たる者、万事に精通しないとなりませんので」


「そう言えば、フランジェスカさんが言っていたんですが、胃液は強い酸なんですけど、あれがどうやって出来ているか分からないらしいですよ。教えてください、アデリーナ様」


「それは魔力ですよ、魔力。昔、本で読みました。ふぅ、メリナさんも少しは学校で賢くなられたら、どうですか?」




63日目

 ガランガドーさんが夜に喋り掛けて来ました。


 彼は私を乗っ取り、この世で魔力を貯め、そして、邪神がガランガドーさんを乗っ取る計画であったと申しました。


 今日、思い出したそうです。


 彼から、日報に書いていて欲しいと言われたので書きますね、アデリーナ様。あと、普段からあれくらいの誠意で謝ってくれたら友達が一人くらいは出来るかもしれませんよ。



「さて、私は邪神を滅ぼしたいと考えております」


「どうぞどうぞ」


「邪神はメリナさんの中に居ますので、メリナさんごと殺して良いですか?」


「……アデリーナ様に出来るのであれば」


「ふふふ……。半年前ならいざ知らず、今の貴女を斬るのは手こずるので御座いますよ。特に戦闘態勢に入ると厄介です。固くて堪りません」


「なら、毒殺だとか捕縛魔法とか使いますか?」


「いいえ。意外、極めて意外なのですが、メリナさんは人望が有りましてね、そんな事をすれば、私の命も危なくなります」


「……では?」


「ガランガドーを構築するみたいに邪神をこの世に顕現してください。そして、共に倒しましょう」


「方法が分かりませんが」


「出来ますよ。メリナさんは私が友に選んだ者なのですからね」


「友達って選ぶものじゃないですよ。その辺りがアデリーナ様に友達出来ない理由だと思います」


「私は身分が高過ぎるから、人が畏れて近寄らないだけで御座いますよ」


「へいへい。村娘には理解できないですね」


「それでは、メリナさん、邪神の件を宜しくお願いしますね。困った時は、精霊の専門家であるエルバ部長にご相談ください」



 そう言って、アデリーナ様は去っていきました。ほっとしましたが、新鮮な朝の空気を吸って気分転換が必要です。

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