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アデリーナによる授業

 今日こそは朝の職員会議に出席します。私は教員なのですから。

 気合い十分な私に対して、校門を通る際にレジス教官が挨拶してきました。



「おはよう、ってメリナ、お前、この時間に普通に登校して来るっておかしくないか?」


 は? 私にしては早過ぎる登校だとも?

 元担任なのに、私を知らな過ぎますね。


「私は遅刻をしたことなんて有りませんよ」


 そういう勝手な先入観は良くないです。私は優等生ですし、ベセリン爺とかメイドの人が起こしてくれるから、私は規則正しく学校に来ております。


「お前も教師になったんだろ? だったら、先に来て、俺と共に挨拶する側だと思わなかったのか?」


「そういう発想は御座いませんでした。レジス教官には頭が下がりますね。それでは、お勤めご苦労様です。ごめんあそばせ」


 やんわりと拷問への誘いをお断りして、私は先へと進みます。何が悲しくて私よりも劣った生徒どもより早く来て挨拶しないといけないのですか。むしろ、生徒が先に来て私をお出迎えするのが礼節ですよ。



 さて、校舎までの並木道。目の前には美術部の先輩2人が歩いております。私には気付いていないみたいでして、今日も仲良く会話をされていました。



「マールデルグ様、昨日は牛乳でお腹を壊されたのよ。心配だわ」


「エナリース、それは本当に心配ね。今日は早引きしてご看病した方が良いんじゃない?」


「うーん、でも、私、マールデルグ様の傍にいたら、私の頭もボーとしちゃうかも」


「うふふ、じゃあ、エナリースがマールデルグ様を看病して、マールデルグ様がエナリースを看病するのね。それって、愛だよね。素敵だわ」


 病人の子供になんて事をさせるんですか。しかも、お腹を下しているんですよ。エナリース先輩のおバカな行動に構う余裕はないと思うんです。黙って柔らかい紙を差し入れるのが最善でしょう。



「そう言えば、ラインカウ様と同じクラスになってしまったわね」


「そうだね、アンリファ。でも、何だか優しくなったのよ。ううん、いつも優しかったけど、友達みたいに思えるの」


「そうなんだね。良かったね、エナリース。これもアレだね。きっとアレだよ」


「うん。幸運の耳栓のお陰だと思うんだ。だから、私、いつもこれを持ち歩いているの」


「凄いわ、エナリース。それがあれば、無敵よね」


「違うよ、アンリファ。貴女と耳栓があれば無敵なの」


「うふふ、違いないね」


「えぇ」


「ちなみに私もエナリースと同じ耳栓を買ったのよ」


「まぁ、そうすると私達が一緒にいたら無敵の上の無敵ね」


 何でしょうね。凄くむず痒いです。優しい先輩方なので負の感情を抱いてはならないのですが、物には限度というものがあるとも申します。



「メリナとサブリナ、クラスが分かれても仲良くしているかしら」


「きっと大丈夫だよ。リナリナコンビは不滅だと私は思うな」


「そうだよね、アンリファ。2人の友情が眩しいわ」


「私達も負けていられないわね」


「うん、アンリファ。私達もキラキラしようね」


「もちろんよ、エナリース。何だか、昨日から怖い生き物も増えたけど、私達は青春しようね」


 ……怖い生き物……。それは、校庭に放置されたガランガドーさんの体でしょうか。それとも、何でも食べる大蛇オロ部長でしょうか。うちの生徒がご迷惑をお掛けしていて、すみません。



 さて、自然と鳥肌が立っている怪奇現象にも負けず、無事に職員会議に出席できました。その中で、昨日、近隣から騒音の苦情が頻発したとの連絡が入ります。迷惑な連中がいたものですね。学院の名誉を穢す輩は死刑で良いでしょう。でも、私は関係ないので聞き流します。



 うん、無駄ですね。それが職員会議を最初から最後まで我慢して聞いた結論です。

 明日からは欠席で良いです。朝の会みたいに出席も取っていませんしね。



 ふむ、2日目にして教師生活に飽きてきましたよ。由々しき問題です。

 しかし、教師には私が希望してなったのです。ここで、やっぱり辞めますというのは格好が付かない気がします。聖女を辞めますよりも難しいかもしれません。

 どうしたものか考え処ですね。



 悩みながら歩くこと、30歩くらい。職員室に程近い距離に我がクラスはあります。


 今日は昨日よりも生徒が多いです。昨日はアバビア公爵邸の準備が整わず、泊まる前にイルゼさんによってシャールに戻されていたらしいのです。そんなに視線が集まるとメリナ先生は怖いので、どっかに行って貰いたいです。

 しかし、朝の会が終わったらイルゼさんに連れられて学校を去りました。嬉しかったです。

 マリールとフランジェスカさんも居なくなって、校庭へと出て行きました。死にかけたら魔法を掛けて欲しいとのことですので、了解しております。



 今、教室にいるのは、結局昨日と同じメンバーでして、巫女長、ヤナンカ、サルヴァ、エルバ部長、オロ部長、フロン、そして、アデリーナ様です。



「今日はこのクラスの名前を決めたいと思います。司会進行は副担任のアデリーナさん……様にお願いします」


 私は真面目ですので、クラス名を決めるという責務をちゃんと果たし終えました。あとは、アデリーナ様に一任です。


「クラス名? あら? もう昨日に決めましたよ」


「そうなんですか。では、それを教えて貰いますか。はい、エルバ部長、お答えください」


 部長は体が幼いので、一番前の席です。今日は帰らなかったみたいですね。


「おい! 昨日は忙しかったんだ。だから、帰ったんだぞ。ここで決めたことなど、マジで知らんぞ」


「調査部長のクセに言い訳は見苦しいです。分からなければ分からないとお答えください」


「ぬぐぐ……」


 うふふ、悔しそうな顔をしても無駄ですよ。


「一年一組……」


 は? 何ですか、その何の捻りもない答えは。こいつ、マジで使えないです。


「廊下に立っていなさい。エルバ・レギアンス君」


 やったー。一度言ってみたかった台詞です。楽しいです。



「次は、んー、そうですね。サルヴァ、あなたの答えは?」


「巫女よ、俺も昨日は体育館で修練をしていたのだ。すまないが、分からない」


「分からないなら、分からないなりに頭を使って考えなさい。サルヴァ君、君は廊下で倒立しますか?」


「おうよ! 筋力を付けよとのアドバイスであるな」


 サルヴァは嬉しそうに出ていき、それは不貞腐れた顔で未だ席にいるエルバ部長とは対照的でした。その意味でも落ちこぼれですね、エルバ部長は。



「化け物、私が教えてあげるわ」


「お前からは良いです。冥土にでも旅立ってください」


「は? 腹立つわね。ラブミーアデリーナ組に決まったんだから」


 はん? ふざけるな、と思ったんですが、有りですね。私の手を汚さずにアデリーナ様をバカにできる組名です。アデリーナ様ほどの恥知らずでも、さすがにクラス対抗戦で、今のクラス名を連呼されたら顔を赤くすることでしょう。


「メリナさん、その案は却下されました」


 残念です。


「一年B組です」


「うわっ。すっごい無味乾燥な案でびっくりしました」


 あと、エルバ部長が結構惜しかったなという表情をされたのが腹立たしいです。


「何か文句が?」


「いいえ。ちなみに誰の案ですか?」


「私で御座いますよ」


 ふーん。尋ねたけれども、どうでも良いですね。



「さて、授業を始めます」


 アデリーナ様が仕切ります。私は退出しようとしたのに、呼び止められ、何故か生徒側に座らされたのです。おかしいです。

 

「内容は邪神についです」


 うわー、本当に興味がないです。エナリース先輩、私にも幸運の耳栓を与えてください! 今すぐに使いたいんです!


「それでは、まず、この映像をご覧ください」


 いつぞやの、剣王に記憶石を使用させてゲットした映像をアデリーナ様は流します。白黒が交互になった模様を持つ竜みたいな怪物に関するものです。


「次に、こちら」


 あっ、聖竜様のお住まいですね。聖竜様、映ってないかなぁ。あー、居ない。バカじゃないかな。あんなに大きくて、神々しいのに視線が行かないって無能の極みですよ。

 アデリーナ様やルッカさん、マイアさんを見る前に、一番重要な方を忘れているんじゃないですかね。


 こちらの映像にも白黒の怪物が映っていました。但し、そいつの顔は私の物になっています。趣味が悪いです。


「このクソ映像は誰の記憶ですか? 私と化け物を同一視してる不貞野郎がいますね」


「聖竜様で御座いますよ」


 あ……。聖竜様はわたしを愛し過ぎて、全ての生物の顔が私に見えるんですね。ならば、仕方なし。その愛、私は受け入れましょう。

 聖竜様の視点にしては低すぎる感は有りますが、それは些細な事ですね。



「あら、アデリーナさん、それ、私も見たこと有るわね。ねぇ、エルバさん」


 巫女長です。


「ん? そうだったか? 私はマジで覚えていないぞ」


 エルバ部長は本当に何も知らないし、覚えていない無能です。こんなヤツを部長に置いている調査部は人材不足なのでしょうか。


「見ましたよ。ほら、精霊鑑定をしたでしょう? ガランガドーさんが最初に現れて、その後にうっすらと見えたのがその竜さんでしたよ。お顔はメリナさんじゃ有りませんでしたが」


 あー、そんなこと、有りましたね! もう半年以上前の事だから、すっかり頭に有りませんでした。


「あー、アレか! 思い出したぞ! 私は見えていないが、フローレンスは竜を見たと言っていたな。そうか、竜型の精霊が二匹も付いているとは、メリナは竜の巫女に相応しいな」


 おほほ、エルバ部長、お褒め頂きありがとうございます。お礼に廊下に立つ罰は取り消しますね。



「で、アデリーナ、メリナの二匹目の精霊がマジで邪神なのか?」


「私は当初、邪神ではないと判断していました。過去に別の場所で見たことがあるためです。しかし、昨日、ヤナンカより重要な情報を得ました。ヤナンカ、どうぞお願いします」


「おっけー。メリナが小さい頃にー、ヤナンカの本体はー邪神を入れたのー。今は悪いことしたなって思ってるー」


「化け物、憐れね」


 全然、平気です。それが事実でも私は私です。何も変化しません。


「フロン、無駄口は後にしなさい」


 アデリーナ様がフロンに注意すると、フロンは口を尖らせて机に突っ伏しました。私としては、その隙だらけの脳天に氷の槍を突き刺したい衝動が溢れます。


「しかし、ここで疑問が生じました。マイアによると、彼女は2000年前に邪神と対峙した経験があります。聖竜スードワットもそうです。何故、化け物と対峙した時に、それを思い出さなかったのか」


「アデリーナ様、聖竜様ですよ。様を付け忘れていますよ」


「すみません、メリナさん。無駄口は後にしてくださいね」


 ……お前も竜の巫女のクセにして、信仰対象を呼び捨てするなんて絶対にいけない事でしょ。私と敵対することを避けず、ここを死地と決めたのですか。

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