生徒集め終わり
役目を終えたデンジャラスさんが授業に向かいたいとしつこいので、転移の腕輪で一旦学校に行きまして、私だけ再び神殿に戻りました。先生なんて来ない方が生徒の皆さんもゆっくり過ごせるってもんですが、デンジャラスさんにはその辺の機微は分からないのですね。
さて、とりあえず、マリールは確保したので、私は次の生徒候補を探しましょう。
うーん、誰にしようかな。無害な感じの人が良いです。
あっ。あいつを忘れていましたね。
ガランガドーさん、そろそろ遠出を終えて戻って来て下さい。
『おぉ、主よ、久方ぶりであったな』
えぇ、私、教師になったので学校に来てくださいね。
『ふむ、主の晴れ姿を見るのが楽しみである』
ありがとうございます。ガランガドーさんも生徒ですからね。今日は無理だとしても明日は遅刻しないように朝から登校をお願いします。
『……我も?』
えぇ。勿論です。
『貴族でも人間でもないのだが?』
何とかなりますよ。
『……ちょっと遠くまで来てしまっていてな。明日の朝に間に合うかどうか』
最大速度でお願いしますね。そうじゃないと、死を運ぶ者の自称を死を与えられる者に変えますよ。
『……バーダ、背中に乗れ。父の非常事態である』
うんうん、親子していますね。素晴らしいですよ。
これで、生徒二人目をゲットです。バーダちゃんはまだ幼いので勉強は早いでしょう。クラスのマスコットとして頑張ってもらいましょう。
次は誰にしようかな。シェラは後回しにして、エルバ部長が良いかな。あいつ、生意気ですが、魔物駆除殲滅部の連中を招き入れるより断然マシですものね。
「化け物、何をほっつき歩いているのよ。巣に帰りなさいよ」
背後から不躾に不愉快な文句を投げて来たのは、色狂いの魔族フロンです。ルッカさんに咬まれて魔力を吸われ、愛らしい猫ふーみゃんに戻っていたはずなのに、また人間の姿になっていますね。
「フロン、殺されたいようですね」
「ふん。私を傷付けたら、アディちゃんが黙っていないわよ」
「自意識過剰ですよ」
言い終えて、お互いに土煙を残して姿を消し、次の瞬間には至近距離での殺し合い。
魔族であるヤツの鋭くて長い爪が私の顔を切り裂こうとするのを身体を剃らして躱して、その流れから私はバク転に移行しつつ、蹴りを下から顎に入れてやります。
が、浅い。生意気です。
着地と同時に横飛びして、反撃を避け、それでも間合いを詰めてくるヤツの爪を数回左右に避けました。
「ここで死んでおきなさいよ!」
「お前が無に還りなさい!」
互いのフルスピードの拳が交差します。リーチは向こうの方が爪の分、遥かに有利ですが、破壊力は私。堅くした左腕で禍々しい爪を受け止め、右腕を振り抜きます。
しかし、空を切る。転移? 舐めた真似を!
切断はしませんでしたが、ヒリヒリ感はあるので、左腕には刺し傷が出来たのでしょう。回復魔法を唱え――
「貴様らッ! 止めろ!」
――即座に後方へ回転蹴りをというところで、大きな声で制止を受けました。アシュリンです。
「血気盛んな奴らだな。仲が良いのも大概にしておけよ!」
どう見ても不倶戴天の敵なんですけど、目が腐ってませんか?
しかし、私は言葉を飲み込みます。余計な会話をして、奴らが私の事情を知り、更に間違って生徒にでもなったら面倒です。
「お久しぶりです、アシュリンさん。それでは、ごきげんよう」
「メリナ、待て!」
待ちたくないです。
「アデリーナから聞いた!」
そこで、私は逃げ足を止めました。
「……何をですか?」
「教師になって生徒募集中だそうだな?」
耳、はやっ! どうして? あっ、イルゼかっ!? あいつ、アデリーナの所に行くっつーてたから、そこで喋ったんだな!
「安心しろ。部署として協力してやる」
「不安しかないのでお断りです」
「グハハ! 遠慮するな、お前らしくないぞ!」
いや、お前が配慮しろよ。どこに出しても恥ずかしい奴らしかいないのに、その自信はどこから溢れてくるのですか。
「フロン、メリナの為にナーシェルに行ってこい。勉強してくるんだ」
「「はぁ!?」」
「私は用事があるからなっ!」
「せめてルッカさんにしてください! 学院の淫乱枠は別の人で既に埋まっていますし!」
よくよく考えたら、ルッカさんも淫乱枠でした。
「私だって嫌よ! 化け物から何を学べって言うのよ!」
「ルッカは仕事中で留守だ! 血吸い馬の胃袋を取りに行っている!」
そんなゴミ、何の為に取りに行かされているんですか。ルッカさんも可哀相ですね。
「それから、フロン、部署としての行動だ! オロ部長も向かわれる。逆らったら、大目玉だからな。一時間後に本部に集合。分かったな!」
オロ部長だと……。ペット枠にはバーダちゃんがいますし、怪物枠もガランガドーさんで埋めたところですよ。優等生枠なのか……。
「無視したらどうなりますか?」
「あ? アデリーナによる折檻だろうな。あいつの指示だからな」
チッ。大変に不快です。
しかし、フロンはそれを聞いて喜色を表しました。
「それを早く言いなさいよ、軍人バカ。アディちゃんの願いなら、私が逆らうわけないじゃない!」
まずいです。アデリーナが動いたとなると、私が抗っても生徒の人選はヤツに主導権が移ることでしょう。転移の腕輪を破壊するか……。いや、そうなると、ナーシェルまでの移動手段を失くします。それでも良いと思いましたが、無理矢理に馬車などで移動させられたら帰ってこれなくなりますね。
最善の手は私が選んだ生徒を出来るだけ多くして、アデリーナ派の影響を薄めることでしょう。
くそっ。こんなことになるならば、デュランでスカウト活動すべきでした。イルゼさんのお住まいを破壊した気まずさで避けたのが災いしました。
その後、私は生徒募集に精を出します。折角の申し出なのに断る人が多数で、それでも手当たり次第に声を掛けまして、満足する成果を得られたと思います。シェラも来てくれるそうです。
地下深くにあるマイアさんのお住まいにも訪問しまして、賢いキャラ枠に彼女も誘ったのですが、断られました。でも、私よりも賢い生徒は不要だと気付いて、残念では有りませんでした。
マイアさんと同居しているゴブリンの師匠とシャマル君も来て欲しかったのですが、彼らは魔力が薄いところでは生きられないとのことで、断念します。また、ミーナちゃんはまだ子供なので学校には誘いませんでした。
それでも、ヤナンカが協力してくれることになったので無駄足では御座いません。あと、すっかり忘れていましたが、サルヴァが取り残されていたので回収しました。
帰り間際にマイアさんが寄って来ます。
「メリナさん、その転移の腕輪をまた使っているのですか?」
「えぇ。控えるようにとは言われていたのですが、全然平気ですね」
「そうですか……。杞憂だと良いのですが」
「何かあれば宜しくお願いしますね」
「はい。……それからヤナンカの様子がおかしいので、注意してください」
「おかしい?」
「ヤナンカ本体の記憶が流れ込んだかもしれません」
マジか……。ヤナンカっていう魔族は本当にしつこいですね。しかし、ショーメ先生でも勝てた相手です。どうでも良いでしょう。
地上に戻った私は、集まった生徒たちに円陣を組ませ手を握らせます。そして、一気に腕輪の効力を発動させて、集団転移しました。全員集まったかどうかは不明ですが、アデリーナがいけしゃあしゃあと同行しているのが確認できました。驚きです。
あいつと同じ屋根の下で寝るのは嫌なのと、部屋数も足りないことからアバビア公邸に皆様のお世話をお願いするのでした。執事の人、宜しくお願いしますね。
メリナの日報
目に見えない光があるそうです。マリールに教えて貰いました。同じように希望は見えなくても、近くに存在するのかもしれません。
そう、それは蒙昧な生徒達を導く私です。明日は身近にこんな大先生が居たのかと驚かれることでしょう。




