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侵入と奇襲

パットさんの本名を間違えていたので、前話を修正しました。

○パトリキウス ✕パトリック

パットさん、カッコいい名前だったんですね(^^;

 デンジャラスは拳に例の金属製の武器を装着します。そして当たりを確かめるためなのか、ガシンガシンとぶつけるのです。気合いをみせるためかもしられません。再び照り始めた日光が頭皮に反射してピカリと光っています。女性なのに……。



「クリスラ様! 工房に変な人が倒れているんですけど!」


 入ったばかりのパットさんが戻ってきて叫びました。

 その倒れているのは梅の人でしょう、きっと。


「パトリキウス、今の私の名前はデンジャラスです。そう呼びなさい。また、その者は暗部の人間です。事が終われば、また街の為に身を捧げるでしょう。丁重に看護なさい」


 見てないけど、絶対にデンシャラスはしこたま殴り付けていると思うんですよね。その口でよく言うものだと感心しますよ。



「その人から何か情報が取れたんですか?」


「意識を戻した瞬間に死のうとしたので、もう一度麻痺させました。デンジャラス様が即座に頭を殴って」


 ショーメ先生が答えます。


「それ、看病してもまた死ぬだけじゃないですか?」


「メリナさん、私の打撃が1日程度の自然治癒で戻るはずが有りませんよ」


 ……いや、そんな自信満々に言われても……。昨日の行為を忘れているんですか。あの若夫婦とか冒険者一家とか、私が回復魔法を唱えなければ、まだ意識不明の重体だった、って事ですよね?

 文字通り、危ないヤツです。



「今から乗り込みます。宜しいですか、皆さん」


「マイアさん、工房に護衛は置かなくて良いですか?」


「……構わないでしょう。もしも異常があれば私が単独ででも戻ります」


 そんな簡単に言いますけども、マイアさんを信頼して良いのでしょうか。

 ……ふむ、しかし、暗部を倒し、デンジャラスをシャールに連れていってマリールの実験に協力してもらわないとなりません。


 それを考えると、暗部を潰すのを急ぎたい。


 うん、こちらには万能のマイアさんがいるのです。トラブルが発生しても何とかなるでしょう。


 また、今からは死地に入るのです。仲の良いパン工房の方々と謂えど、戦場で敵の命か、味方の命かの二択を迫られたのなら、勿論、私は敵の命を奪う選択を取ります。勝たないと意味が有りませんからね。今も同じでしょう。



「よろしいですか?」


 マイアさんの問いに私は静かに頷き、転移魔法で街ではない、長閑(のどか)な村の近くに移動しました。



「デュラン東部の村です。フェリスによると、この近くの枯れ井戸が暗部の隠れ家に通じているとのことでした」


 というマイアさんの解説は有ったんですが、そもそもご存じであるショーメ先生の案内で、森の外れにあった古い井戸に着きました。石で組まれていますが、もう劣化が激しくて、所々は崩れていたり、草が生えたりしていました。



「これだよね、マイア様ぁ? ミーナ、先に行くね」


 断トツで一番幼いミーナちゃんはそう言うと、背負っている大剣を井戸に放り込み、続いて、自分の身も中へ投げ込みました。

 この思いっきりの良さを考え無しとするか、勇猛さの現れと見るかは難しいですね。


「ショーメ先生、いきなり入って大丈夫なんですか?」


「どうでしょう。私が先導するつもりだったのですが、ミーナさんはお若いから戦意の昂りに抗えなかったのでしょう」


「私達も続きますよ。フェリス、内部の案内もお願いします」


 ミーナちゃんをいつまでも敵中に独りに出来ない事もあり、井桁を乗り越えて中へと飛び降りました。



 王都の情報局の本拠地もそうでしたが、内装は殺風景です。枯れ井戸の奥に転移魔法陣が宙に浮く感じで置かれていて、今は照明しかない白壁の廊下に立っていました。

 後ろは行き止まりで、前にしか進めません。



「この先を曲がった所に門番が待ち構えています」

 

 ショーメ先生が教えてくれました。


「大した相手は御座いません」


 そうだと思います。このメンバーを相手に互角に持ち込める実力者は少ないでしょう。タコ殴りにして終わり。哀れです。



「マイアさん、暗部の頭領ってヤツはどっち方向にいます?」


「うん? この斜め下方向ですが、どうしましたか、メリナさん?」


「了解です。仕留めます」



 ガランガドーさん、いらっしゃいますか?


『うむ、我は健在ぞ。ダーバとともにおる。流転激しく、且つ、曠然(こうぜん)たる人の世界を堪能しておるところである』


 こうぜん? 意味が分からないんですけど。

 そんな事より今から魔法をお願いします。王都で情報局長を瞬殺したヤツでお願いしますね。方向は分かりますか?


『承知した。暫し待たれよ。我の意識を主の中へと移そうぞ。――ふむ、良かろう』


 私の中にお前を移すとか言うんじゃありません。すごく気持ち悪いです。


『それが精霊と言うものであるからな。早々に片付けたい。ダーバが寂しがる故にな』


 はいはい。最近、ガランガドーさん、私に対してぞんざいな言葉遣いですよね。気を付けた方が良いと思いますよ。


 そう伝えながらも私は体をガランガドーさんに明け渡します。体内の魔力が練られ、変質していくのが分かります。私の意思の外で、両手が動き、突き出す様に前へと出されました。



「メリナさん? 何を――」


『我は夢幻の瓊筵(けいえん)を守りし英武と成り得た者。拱璧(きょうへき)拾摭(しゅうせき)し盤渦を解く。芽甲の如き羞花(しゅうか)を苦艱すること勿れ。芳馥(ほうふく)にして窅々(ようよう)たる芳景を(おさめ)冢君(ちょうくん)に其を寿(ことほ)ぎ、嬉々たる降鑒(こうかん)(ふす)べる。(みずがね)を産みたる磴道(とうどう)も、(あかつち)を磨く坤元(こんげん)も、(あらがね)の如し胡言(こげん)(はし)る。然れども、迥遠(けいえん)なる暘谷(ようこく)を眺める(ひうち)とは思いきや。潰えよ、封閉。統べよ、盈虧(えいき)恤孤(じっこ)(ねが)う妖姫は琳琅(りんろう)にして、即ち、儼然たる死竜の(たけ)り、或いは烏衣の天殃(てんおう)


 視界を覆い尽くす真っ白い光が消え去った後には、ここの廊下と同じ程度の大きさの穴がマイアさんの指し示した方向に出来ていました。


 ガランガドーさん、お疲れ様です。今回もありがとうございました。


『ふむ。我は潜在する主の実力を少し手助けしたまで。礼には及ばぬ。いずれは主も自在にその力を扱えるようになろうぞ』


 いや、今の詠唱句を覚えるのは不可能だから。無理をいってはなりませんよ。



「メリナお姉ちゃん、すっごい……」


 ミーナちゃんの感嘆が響きました。

 しかし、マイアさん、デンジャラス、ショーメ先生は無言です。


「どうしたの、 みんな?」


 一向に動こうとしない彼女らを不思議に思ったミーナちゃんが声を掛け、それにショーメ先生が答えます。


「すみません、ミーナさん。余りにメリナさんの魔力が常識外れで思考が停止していました。デンジャラス様がメリナさんをデュランに置こうとした真意をはっきりと理解し、また、認識を改めました」


「……フェリス、誤解です。ここまでとは私も把握していませんでした……。マイア様はどうでしたか?」


 皆の注目がマイアさんに移ります。


「……予測はしていました。が、それを上回っています。物質崩壊からの魔素転換と、それを吸収してからの再利用――いえ、それは良いです。……メリナさん、今の詠唱の内、冢君、降鑒、天殃に心当たりは有りますか?」


「全くないです。以前にご指摘を受けた妖姫は妖艶な娘である私を示しているかもしれませんね。決して妖怪の類いでは御座いませんよ。ところで、詠唱って心当たりがあることを唱えるんですか?」


「理解していない言葉で唱える訳ないじゃない……」


 でも、私は知らないです。ガランガドーさんに訊いてください。私は初耳ですよ。

 お互いに呆れた顔をします。



「で、敵は潰しましたか?」


「えぇ……。防御魔法の発動は確認しましたが、それを貫通して塵も残さずに此の世を去りましたよ……」


「良かったです。これで終わりですね」


「えー。ミーナ、まだ何もしてないよ」


「ミーナさん、大丈夫です。そこの門番はまだ居ますから。私、フェリスがご案内します」



 私達は広間に向かい、そこにいた暗部の人が何かを喋っている最中に攻撃して、ぶっ倒しました。皆さん、私の魔法に奮起したのか、何だか鬼気迫る感じで殺気を隠しきれていませんでした。


 最深部まで何人かいらっしゃいましたが、ミーナちゃんが大剣で叩いたり、ショーメ先生がナイフを投げ刺したり、デンジャラスが執拗に殴打したりで、とても楽でした。

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