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なし崩し

 索敵しましたが、失敗しました。私の魔力感知が働く領域の外からの攻撃だったのです。残念です。


 まずはショーメ先生が割れた窓から飛び立ちます。その際にも何かが撃ち込まれましたが、先生は頭を軽く振って避けました。

 矢よりも速いスピードだったのに華麗に躱せたのは、先生が優れた魔力感知の能力を持っていると改めて感心しました。攻撃の軌道を簡単に読めて羨ましいです。

 しかし、そうであっても、自分の読みが間違えて死ぬかもという恐れを示さない先生の胆力は誉められて良いでしょう。あと、館の最上階にあるこの部屋から躊躇せずに飛び降りたことも加えます。



「ミーナ、大丈夫ですか?」


「う、うん。マイア様、今のは何?」


 マイアさんは手にした物をミーナちゃんに見せます。私もそれを覗き込みました。


 茶色い石かな。いや、表面に皺が見えますね。何かの種ですかね。サイズは小さいけど、胡桃(くるみ)みたいです。



「硬いですね。この大きさだと空気摩擦で減速しにくいし、飛び道具としては良いと思います」


 マイアさんが分析している中、また数発が部屋の中へと飛んできて、壁に当たったものが跳ねます。危ないです。当たったら、とても痛そうです。許せません。


「デンジャラスさん、どこから射っているか分かりますか?」


「はい。把握しています。しかし、既にフェリスが到着しました。間もなく制圧するでしょう」


 おぉ、ショーメ先生は優秀ですね。



 廊下側が足音などで騒がしくなります。


「イルゼ様のお部屋から異音が聞こえたぞ!」


「賊の侵入か!?」


「警備の者は何をしていたっ!!」


 彼らの言動から状況が読み取れました。窓ガラスが割れた音程度で混乱している様子ですね。本当に賊が忍び込んでいたら、彼らの発言は迂闊ですよね。見に行くので今から隠れなさいと言っているのも同然です。

 なので、武に携わる職ではなく文官達だと判断致しました。脅威では御座いませんので、このまま放置ですかね。


「私が静めましょう。大変な失礼になりますが、マイア様が降臨されていると伝えても信じないでしょうしね。お任せください」


 元聖女、つまり、扉の向こう側で騒ぐ人達の元上司であるデンジャラスが言います。


「また殴り倒すんですよね?」


 容赦の無く打ちのめすのだと思った私は戦慄しまして、聞き返しました。

 罪のない人達を殴るなんて私はしたことがないです。きっと、ないです。たぶん、ないです。


「私は10年ほど聖女であったのですよ。彼らとは気心が通じています。イルゼの今後には悪いですが、元聖女としての権威を使わせて頂きます」


 おぉ、頼りになりますね。

 微笑みを見せるデンジャラスから、チンピラが意外な優しさを見せた時のような、何故か心暖まる物を感じました。



 (おもむろ)にデンジャラスが扉を開けます。


「騒々しい。此処を清らかなる聖女が安息を求める場だと心得て――」


 しかし、デンジャラスさんの言葉は途中で遮られます。


「おい! 貴様は誰だ!?」


「大変だ! イルゼ様の居室に暴漢が入り込んでいたぞ!」


 静まることはなく、むしろ混乱が増しました。


「クリスラです。私の顔をもう忘れてたのですか?」


「この無礼者! クリスラ様を、我らを長年率いた偉大なる聖女を愚弄するな!」


「そうだ! クリスラ様を騙るなら、せめて似せてから言え!」


 ……本人だと思われていないみたいですね。それは仕方の無いことです。清楚な長髪で白い宗教服にいつも身を包んでいた人が、真ん中だけ残して剃り上げて、鶏冠みたいな髪型になっていますし、服は金の鎖がジャラジャラした黒い革服、そして、片耳には無数のピアスですからね。同一人物とは誰もが思いません。


「私は知っているぞ! お前はクリスラ様を騙る冒険者! 通称デンジャラスだな! 報告が上がっている!」


「この不信心者め! 成敗してくれるわ!」


 はい。説得失敗です。

 どうするんですか、デンジャラスさん。


 扉の向こうの騒ぎに呆れて、私はマイアさんを見ます。マイアさんも私を見ていました。お互いに困惑です。



 そんな時、ドスッと重低音が響きます。

 っ!?


 デンジャラスが襲われたか!?


 いや、そんな事は有り得ません。

 デンジャラスが先頭にいた人の腹を深々と殴っていたのです。


「不可抗力です。すみません。会話で何とかしたかったのですが」


 そんなデンジャラスの言い訳にもならない弁明は人々の怒声と悲鳴で掻き消されました。もう少しデンジャラスさんが努力を見せて良かったのではないでしょうか。



「衛兵! 衛兵を至急呼べ――グホッ!!」


「た、助けて! グギャー!!」


「イルゼ様はご無事なの――グフォォ!」


 私の最初の予想通りに容赦なく、気心が通じていると本人が言っていた元部下たちにデンジャラスの拳が炸裂しているみたいです。



「ミーナもやっていいかな?」


「うーん、もう何をしても良い気がしますね」


 私は軽くそう答えました。


「それじゃ、メリナお姉ちゃん、ミーナも行くね」


 ミーナちゃんは背中の剣を軽々と持ち上げ、前に構えます。

 それから、空を一閃。

 それで生じた風が私の長い黒髪をブワッと巻き上げます。


 何をしたのかと理解する前に、広範囲の壁が風圧で粉々に破壊されました。その瓦礫は廊下にいた人達に猛烈な勢いで襲いまして、多くの方が倒れます。血塗れです。地獄絵図が一瞬で出来ました。

 なのに、壁がなくなって動きが見えるようになったデンジャラスは、足を止めずに哀れな子羊達を仕留めていくのです。男女とか関係ないんですよね。


 ミーナちゃんは大剣を手にしたまま走り出しまして、廊下へと進みました。デンジャラスが攻めているのとは違う方向に対処するみたいです。


「クリスラ、ヒットアンドアウェイではないですね」


 マイアさんが呟きました。


「えぇ。そんな事よりもこれ、どうしますか? 収集付かないと思います」



「ひっ! メリナ様だ!」


「何! メリナ!? 本当か――グガッ!」


 あっ、遂に私の姿まで確認されてしまいましたね。了解しました。この慈悲深き竜の巫女であり、先代の聖女であった私がこの場を見事に丸く収めましょう。


 私はゆっくりと威厳を持って歩みます。微笑みも元聖女らしく慈愛に満ちているはずです。


「本物だ! やはり、あの娘はこのデュランを裏切っていたのか!?」


「殺せ! メリナが首謀者だ! 殺――ウワァ!!」


 すみません、敵意を持たれている方は、とりあえず殴り倒して、黙って頂きました。これは、変な噂が流れないようにするためで、致し方なかったのです。つまり、正当防衛です。



「流石です。メリナさん」


 横に来ていたデンジャラスが誉めてくれました。後ろではミーナちゃんがブンブン大剣を振り回しています。



「ここまで来ると、暴れきるしかないでしょう」


 マイアさんのご許可も頂きましたので、私達はこの聖女の館を制圧することに決めました。アデリーナ様にバレてもマイアさんの責任なので安心です。

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