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ヨゼフの提案

 ミーナちゃんと対峙していたのかもしれません、緊張を解いたマイアさんとヤナンカは私の方へ歩んで来ました。


「メリナさん、宜しくお願いします。ミーナが剣士として生きていくには勝てない相手も知っておく必要が有るでしょう」


 ミーナちゃんはまだ10歳にもなっていないと思います。模擬とは言え、そんな子供相手に拳を向けるのは気が退けます。


「手加減って難しいんですよ」


「だよねー。分かるー。魔法無しでどうかなー」


「……殺したら、ミーナちゃんのお母さんに恨まれそうですし」


「大丈夫ですよ。ほら、ガランガドーがミーナちゃんの頭を砕いた時も私は治癒したでしょ?」


 私は見えていませんでしたが、ガランガドーさんが調子に乗って私を裏切った時、ヤツはやはりミーナちゃんを殺す気で攻撃したのですね。不逞野郎です。


「えー、でも、私は今からデュランを解放しないといけなくて」


「解放? だったら、私が協力しますから」


 ……うーん、あっ、でも、マイアさんが直々にデュランの人達に説明したら一挙に解決ですね。そして、マイアさんを降臨させた人を聖女イルゼさんであると宣告とすれば、イルゼさんの名声は留まることを知らなくなって、街を纏めることも簡単になりそうです。


「ちょっと待ってくださいね。相談してきます」



 私はまだ頭を下げ続けているデュランの四人の傍へ行きます。マイアさんも付いてきていました。


「マイアさんがデュランに行って、皆の前で喋ってくれるみたいですよ。良いですかね?」


「ほら、皆さん、立って。前までは普通に話していたでしょ。って? えっ、あなた、クリスラ?」


 デンジャラスは聖女から荒くれ者へ大転職していますから、やはり人生経験豊富なマイアさんさえも驚くのですね。


 さて、マイアさんに言われたにも関わらず、誰も姿勢を変えませんでした。ショーメ先生の頭だけが少し動いたのですが、他が身動きしていないことを確認して、また頭を下げました。


「立ちなさい。怒るわよ。あなた達、お互いに牽制しあって、私への崇拝を競っているつもりでしょうが、全く不愉快です」


 おっと、マイアさんが言葉以上に怒りを見せました。


「豊穣の間で、しばしば経験しました。それは信心ではなく利己欲です。今すぐに立ちなさい」


 マイアさんは体感時間として何百万年も異空間で過ごした経験をお持ちです。その異空間の一つの名前が豊穣の間なのですが、マイアさんは何度も街や生物を作っていたと聞いたことがあります。そして、いつも住民同士で戦争をしたりして全て滅んだと言っていましたね。マイアさん自身も住民を煽って楽しんでいたような事も言っておられましたが。



 マイアさんの一喝でデュランの人達はすぐに直立されました。


「驚きました。クリスラ、どうしたのですか?」


「聖女を引退しました。マイア様の前で申すのは大変に失礼なのですが、好きに生きようかと……」


「つまり、その姿は貴女の趣味ってこと?」


 鎖ジャラジャラの革服に、横を全剃りにして残った毛も鶏冠みたいに立てている髪形で、片耳に無数のピアスですからね。

 趣味ですと答えられても狼狽えますよ。


「違います! クリスラ様は新しい聖女である私を慮り、自らの威信を貶めておられるのです。わ、私はそれがとても悲しくて……」


 イルゼさんがデンジャラスを庇います。しかし、それはイルゼさんの思い違いで、私はそうじゃないと思います。

 その目的なら既に昨日までの服装や行動で達成されていますので、更に耳ピアスを追加する必要は御座いません。正解は本人が言った通り、趣味なんだと思います。



「これはこれはマイア様。叡知を授かったヨゼフで御座います。本日も麗しき――」


「思い出しました。メリナさんに連れられて来た人ですね」


「はい、私はマイア様の叡知に触れ、そして、世界を救うために――」


「御託は結構ですよ。あの時、私の古い家の鍵を渡したでしょ? 見付けた?」


「はい。勿論です。私は必死に見付けました。民には秘匿しておりますが、一部の学者達には開示してマイア様に関する遺跡であると認められました。デュランの歴史上、最大にして最高の発見で、現在は発表に向けて準備をしている段階です」


「私がマイア本人だと信じてもらえれば良かったです。恥ずかしいので公表は止めなさい」


「承知いたしました、マイア様」


 マイアさんは満足そうに頷きました。

 対して、ヨゼフは更に口を開きます。



「マイア様、私は世の行く末に心を痛めております。国を治めるべき優れた王が死に、徐々に乱れていくでしょう」


「……アデリーナさんがいらっしゃるじゃない?」


「如何に人間として優れていようと、その子供はどうでしょう。100年も経てば、その者も滅んでおりましょうし、国も存続の危機に立たされているかもしれません」


 アデリーナの子供は生意気そうですね。いや、生まれることは有るのか。そこから甚だ疑問です。


「で、貴方はどうしたいと? いずれ人間が死ぬのは当然ですよね。魔族に治めさせたいのなら、止めなさい。魔力暴走は必ず起きます。一層の悲劇が待っていますよ」


「マイア様に統治して頂きたく存じます。デュランに降臨して頂けるのであれば、聖女ともども私もマイア様の側近として協力致します」


 つまり、聖女の地位を保証するってことですね。イルゼさんにとっては良い話かもしれません。


 マイアさんはすぐに回答しませんでした。視線をデンジャラスに持って行ってから、ヤナンカを振り向きます。何らかの情報を求めたのだと私は判断しました。


「そーだねー。それは良いかもー、と私なら思うよー」


 ヤナンカが軽く言います。それを受けて、マイアさんが薄く笑いました。次いで、ヨゼフに答えます。


「話の続きは、ミーナとメリナさんの模擬戦を終えてからです」


「全てはマイア様の御意に」


 悠然とヨゼフが言いまして、私がミーナちゃんと戦うことが規定路線みたいにされました。

 仕方ないかな。それでは、やりますかね。



「待って欲しい。向こうに見える童女がミーナなる者であろう。このサルヴァ、拳王メリナの一番弟子として、師匠に挑む資格があるのか確かめたい」


 正気か? ミーナちゃんが強いのは間違いありませんが、相手の外観は子供ですよ。大人げないとは思わないのでしょうか。


貴方(あなた)、ナーシェルでもお会いしましたね。お元気そうで何よりです。良いですよ。前に進んでください」


「おう!」


 マイアさんの許可を受けて、サルヴァはノシノシとミーナちゃんへと向かいます。

 ミーナちゃんの他に誰かいると思っていましたが、お母さんのノエミさんでした。彼女も腰に剣を差しています。いずれ、このマイアさんのお住まいを出て、親子二人で暮らして行くために冒険者を目指されるとか聞いた事が有りましたね。

 あっ、シャマル君は見えないなぁ。どこかに遊びに行っているのかもしれません。



 さて、ミーナちゃんは体よりも長くて、幅も広い巨大な剣を構えました。かなりの重さで普通の人なら持ち上げることも出来ないと思います。それを軽々と手にしているのですから、ミーナちゃんの潜在能力は相当なものだと明らかに分かります。


 大剣の先端は広角ではありますが、尖っていて刺すことも一応できるみたいです。また、横に刃も付いているのも見えますが、それでもやはり叩くのが主体の武器ですね。



 開始の合図もなく、ミーナちゃんの間合いに入った瞬間にサルヴァはもの凄い勢いで吹き飛びました。撃たれた時に破裂音みたいな響きが部屋に轟きました。


 マイアさんが宙を一直線に斜め上に飛ぶサルヴァに魔法を掛けて、減速と治癒をしたようでして、戻ってきたサルヴァには傷一つ有りませんでした。


「勝てぬな」


「知ってましたよ。バカですね」


「ガハハ、いずれ勝つ!」


 サルヴァは愉快そうでした。私としてもミーナちゃんの実力を知れて良かったかもしれません。



「私も行かせて貰って良いですか?」


 タフトさんです。マイアさんはまたもや許可しまして、あっという間もなく吹き飛ばされたタフトさんを助けたのも同じでした。


「……最近は自信を無くしてばかりです」


「貴方の名前は失念しましたが、初撃を避けた動きは見事でしたよ」


「……私には同時に二方向から剣が来た様に見えたのですが、初撃とかあったんですか……」


 マイアさんの慰めにも、彼は失意の顔を隠しませんでした。



 さて、ようやく私の出番です。前へと出ます。


「メリナお姉ちゃん、宜しくお願いします」


「えぇ。ミーナちゃん、宜しく」


 私は足を止めずに挨拶をしました。

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