同類集まる魔物駆除殲滅部
私はすぐにアデリーナ様の執務室に行ったのですが、書類から目も上げずに「ルッカを連れてきなさい」と命令されました。アデリーナ様がご自分で行けば良いのに、まるで私が暇を持て余しているとでも思っているのでしょうか。そんな事では太って肥満で早死にしますよ。
しかし、もうすぐで聖竜様とお会いできるのです。この際、不愉快な仔細は我慢してやりましょう。
私はルッカさんの所へ向かうことにしました。
場所は魔物駆除殲滅部の小屋の後ろにある林の中、大小の木々が並び立つところです。神殿の敷地はとても大きいのですが、こんな林までは必要ないと思います。アシュリンさんは「建材用の林だ。施設管理部が育てている。郊外にもあるのだ!」と教えてくれました。全くどうでも良い話でしたが、そこに生えている木々は将来は神殿の建物になるんですよね。
私とアシュリンさん、ここで血反吐を吐き合うくらいに殴りあったんですけど、とても罰当たりな気がします。枝とかも折っちゃいましたし。
さて、ルッカさんを簡単に発見しました。彼女はとても豊満な肉体をお持ちです。おっさん的な表現ですが、ボンキュッボンです。しかも、それを自慢するかの如く胸の谷間が露な服ですし、体のラインが見えるくらいに密着していますし、丈もパンツが見えてしまうかもしれないくらいに短いタイトなスカート状なんです。極めて破廉恥です。
「ルッカさん、久しぶりです。じゃあ、アデリーナ様の所に向かいますよ」
「巫女さん、本当にいつも通りね。久々に逢ったんだから、ちょっとはお茶でも良いじゃない? レッツリラックスよ、リラックス」
大人な雰囲気のルッカさんは本当に大人でして、子持ちです。しかも、その子は大昔の王様であり、アデリーナ様の本当の父親でもあると言う、普通の人では理解できない複雑な関係です。簡単に言うと、ルッカさんはアデリーナ様のお祖母さんに当たるわけですが、その二者の間にそういった情念は感じられません。
そう言えば、ルッカさんの子供は何処に行ったのでしょうか。彼は精子を取るだけの為に無理矢理に延命され続けていて、年老いたを通り過ぎて、骨と皮だけの乾いた死体みたいな外見でした。
「そんなの後で出来ますよ。さぁ、早く行きましょう」
私はルッカさんの手を取り、引き摺ってでもアデリーナ様の待つ新人寮へと急ごうとしました。ルッカさんは異常な回復能力を保有されていまして、ほぼ死なない体ですから、多少強引に地面に擦られて体が磨り減っても平気だからです。
たぶん、腕一本になってもそこから体が生えてきます。気持ち悪いですが、それが魔族なのです。
魔族はその名の通り、魔力をたっぷりと持っていまして、その能力を遠慮なく行使します。だから、人間からは嫌われています。だって、生命力と戦闘力の代替に倫理観を無くしている者がほとんどだからです。迷惑な存在なのです。
ゴミクズと言っても良いでしょう。言い過ぎの感もありますが、この悪感情の理由はルッカさんの横に悪い魔族代表のクソが控えていたからです。フロンです。アデリーナ様の飼い猫だったものが魔力が高じた存在だと本人は言っていましたが、真偽は分かりません。こいつは嘘つきですから。
老若男女、貴賤を問わず、フロンにとっては全ての者が性的対象です。過去には毒牙に掛かった巫女さんも何人かいるとか。最悪の害悪です。
「うわっ、化け物。左遷されたのに戻ってきたの? サイアクー」
ほら、外見は大人しそうなふんわり髪のほんわり娘なのに、毒舌です。
「あ? また殴られたいようですね。右頬を出しなさい。粉々に頭部を砕いて差し上げます」
「アディちゃんが許可すれば、寝首を掻いてあげるわ。その日を楽しみに待ちなさい」
「お前ごときに負ける私では有りません。ここで死ね」
対峙する私達。生意気にも私に勝つつもりなのでしょうか。フロンは片手を前に突き出し、その指先を長い爪に変化させました。それは猫の名残なのかもしれません。
「はいはい。バイオレンスは良くないわね。フロンさんは私のエネルギー源だからね。デリシャスな」
ルッカさんが私達の間に入り、それから、フロンの両肩を押さえて、首筋へと顔を持っていきます。そして、咬んでチュルチュルと中身を吸い出していきます。
ビクンビクンとフロンは体を震わせます。微かな呻き声を出しているのに、恍惚の表情をしているのは流石の変態です。絶対に性的興奮を見出だしているのだと思います。近寄りがたいです。
ルッカさんは吸血鬼らしくて、たまにこうやってフロンから魔力を無理矢理に奪っているのですが、フロンが逃亡しないことから、フロン自身も楽しんでいるのではと私に推測させます。最悪です。
二人とも私と同じ部署というのが本当に嫌です。アシュリンさんも含めて人外を集めた掃き溜めみたいな所に私は入れられているのです。
ルッカさんが満足した表情でこっちを振り向いた時には、既にフロンは居なくなっていて、黒猫の姿になっていました。ふーみゃんと言うアデリーナ様の飼い猫の姿です。
ふーみゃんは可愛いです。フロンだという事実も消し飛ぶくらいに、私はお世話したくなります。魅了魔法と言う言葉が頭を過りはしますが、そんなの関係ないです。
「ふぅ、いつもグッドテイスト」
口元をハンカチで吹きながら、ニッコリとルッカさんは笑顔をされていました。知らない人が見たら、人間を襲う魔物として騎士団とかに討伐を依頼するレベルです。
「相変わらず仲良しですね。ルッカさんと雌猫」
「フロンさんは私に吸われて魔力暴走を抑えて、私は魔力供給を簡単に終わらせる。お互いハッピー」
「それ、ルッカさんが食物連鎖の頂点に立ってるだけじゃないですか。ルッカさんが暴走したらどうするんですか?」
「難しい言葉を知ってるわね、巫女さん。ほんと、意外にクレバー。でも、私、ベテラン魔族なのよ。だから、そう簡単に暴走しないって」
いや、してたから。王都軍を強襲したときに咬みまくって、理性を失うほどに滅茶苦茶していたのを覚えていないんでしょうか。
「アデリーナさんがお呼びなのよね。レッツゴーしましょうか」
道すがら、私は魔物駆除殲滅部の状況をルッカさんに確認します。ふーみゃんもトコトコと歩いて付いてきていまして、フリフリする尻尾が大変にプリティです。
「アシュリンさんは?」
「今日はホリデーよ。家で子供さんたちとスキンシップかしら」
あいつも子持ちだからなぁ。絶対に体罰上等、夜露死苦系の教育方針だと思います。代々、不幸の連鎖が続くのでしょう。
夫のパウスさんとも殴り合って愛を確かめる系でした。よくよく考えたら、アシュリンさんもダメクソ人間ですね。
「部長はお元気ですか?」
「オロ部長? うん、元気よ。って言うか、あの人、私より魔族寄りだよね。昔話聞いていたら、400年前の王様の話をしてた。ロングライフよね」
「ルッカさんも1000年くらい生きてるじゃないですか?」
「あー、そうだったわね。となると、私が一番年寄りかぁ。やだなー、ヤングになりたいなぁ」
「体はそれなりに若いから良いと思いますよ。息子さんなんか、完全に死にかけの爺ィでしたけど」
「ちょっと! 巫女さん、他人の愛息子をなんて言い方するのよ! クレイジーだわ! 巫女さん、本当にデリカシー不足のクレイジー!」
「どこであれを保管してるんですか?」
「あれじゃない! ノヴロクってちゃんとした名前があるの! 感動の再会シーンを覚えてないの!? アデリーナさんだって、涙を隠しきれなかったって言ってたわよ。センチメンタルだったでしょ!」
「あの鬼は涙腺なんて持ってないですよ、生物的に。それに、感動シーンって言っても、私、正直、裸で復活したルッカさんの下の毛が鬱蒼とした密林みたいだったことしか印象にないです」
「あー、巫女さんは本当にクレイジー! ……ノヴロクはマイアさんに託したの。生命維持の魔法陣に乗せているわ」
うわー、ブラナンがやっていたのと同じの、無理矢理に生かし続けるための魔法陣ですね。残酷です。
「えー、死なせてあげるのも愛情だと思いますよ」
「……一言くらい会話してから、そうするわよ。母の顔くらい死ぬ前に見せてあげたいの」
「爺ィですから、そんなの吹っ切れていると思うけどなぁ」
「巫女さん、死ぬ間際に思い出すのはファミリーなんだよ」
「目が覚めて早々に、売春婦みたいな女に母ですって言われたら詐欺っぽいですよね」
「……巫女さん、それ以上、私達親子をバカにするなら受けてたつわよ。私、マジになったらリアルにストロングなんだけど」
「すみません。ルッカさんなんて余裕で撃退できますが、私も言い過ぎました。爺ィが目覚めたら、長寿の祝いでもしてあげますよ」
「あら? 何かしら。ちょっとスケアリー」
「何もないですよ。諸国連邦の珍味や名物を振る舞うだけです」
「えー、やっぱりスケアリー」
そんなこんなで、私達はアデリーナ様の部屋に着きました。すぐにふーみゃんを抱き抱えたアデリーナ様は満足そうな顔で「さぁ、聖竜様の下に行きましょうか」と言うので、私も大変に興奮しました。いよいよです。最愛の二人、いえ二匹が久々に会同するのです。歴史的な日になりますね。




